第五十話、節目。
「絶対に読んでやる」そう笑みを浮かべて久しぶりに読み返す。
久しぶりなのでどこまで読んだかも覚えていない。これは記憶喪失は関係ない。
そういえば私は自分が記憶喪失であることも忘れているようだった、周りに自分の過去を知る人間がいなければ私は今の自分としてだけで十分な存在だった。京都での日々はまさにそういう意味では大学をやめ親元を離れ逃げるように歩夢を探すという目的意識はあれど旅にでた私のある意味、本当のところ求めていたような居場所だった。それでもいざその関係に、その環境に身を置くと、どこか’’これではいけない’’という胸騒ぎが、心の声のようなものが聞こえてくるのだった。
’’己は己を己と呼ぶことにする’’
’’己は好きに生きる、好きに生きてやるぜmy Life’’
’’だから己は旅に出る’’
ペラペラとページをめくりながら彼の熱に触れようとする。
私の心も少しぽかぽかしてきた、この先どうするのかという不安が勇気に変わっていく。
それでも拭えない一つの疑問は私は本当に歩夢に会いたいのか?ということだった。
それは恐れのような、愛おしさのような、ブレーキとアクセルを全力で同時に踏み込んでしまうような力みを私に感じさせた。
「あぁ私は一体どうすればいいのだろう」
わたしは、わたしは。
気が付くと電車は終電までやってきていた。「あの、すいません」駅員さんに声をかける。「はい、はい」と駅員さん。「これから先の電車ってまだ走ってますか?」「ええ、走ってますよ」「そうですよね」私は安心して恥ずかしくなった。昼過ぎの駅で何を聞いてるんだ私は、と。
「そろそろ、行き先ぐらい決めないとなー。」
「決めないと。」
だって、君が好きなんだ。やっぱり、君が。探そう。日記の中で。
手がかりを次の目的地を。
そうして、私はもう一度あの日記を開いた。
がらんと空いていて澄んだ田舎の空気を含んだ電車の中に西陽に照らされた田園の反射が差し込む。オレンジいっぱいに照らされた日記のページがいつもより暖かくて心まで照らされたみたい。私はニヤリとしてしまう、それを抑えて指を咥えながら夢中で日記をめくった。
私は日記の軌跡の中に次の目的地をみつけた。それは少し、いつもより、ちょっぴり挑戦的でちょっぴりスパイスな感じをして、決めた。




