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第四話、出会いはいつでも突然にっ。

 気がつくとあたりは真っ暗で親らしき人も居なくなっていて私は安心した。あれ夢見てたのかな。それもありえるな、いやどうだろう。

 あれこれと考えている内に目が覚めてきて、私は今の自分の状況をもう一度整理してみることにした。えっと私って記憶喪失でしょ、だけどその言葉に実感はない。

 確かにそれを感じられるのは誰かと関わっている時だけだ、親みたいな、まぁ親なのだろうけど。彼らが私に向ける目、そこから、私は失ったのであろう過去の記憶の存在を垣間見る。彼らが見ている過去の中に。それ以外は正直言って特に実感はない。

 うん、ありとあらゆる実感がなさすぎるのだ。でも私は私でしょ、ただの私。私の知らない過去の私があるというのは概念として分かるけど、今の私は生まれたても同然な状況、歩けるし言葉も分かるだけで生まれたてと一緒じゃない。

 そうか私は生まれたてなのかと何故だか一人でしっくり来た。そしたら一瞬モヤモヤから解放された。

 私はまだ月を見ていた。月明かりに照らされ床や壁が青白く光っている。まるで私しかこの世界に居ないような病室で、ベットはあったが他に病人は居なかった。

 私はふと自分が空腹であることに気がついた。病院を探検して何か食べるものを買おうと思った。タンスの中を探したら財布がある。「さすがっ」しっかりとした母親像だ。現金でお札が入っている、ポケットをもっと探してみると、そこには運転免許書や学生書なんかも入っていて、小松梅、1999年生まれ、12月21日生まれ、東成大学の経営学部、免許はAT限定だってことが分かった。母親からなんとなく聞いてたから驚きはしなかったけど。もう一度これが現実だということを確認した。まぁ現実って何、という話だけどね。

 私は新しく手に入れた財布というアイテムを片手に夜の病院を徘徊する。長い廊下や薄暗い階段を降りている間、私の心の中には大きな安心感がある、なんでだろう言語化できない安心感、根拠のない安心感、それはこれから始まる冒険前の束の間の穏やかさだったのだろうか。

 私はカップラーメンの自動販売機を見つけて、それを買ってお湯をそそぐ、ロビー横のベンチに座った。

いつぶりかも分からないカップラーメンの味は刺激的で、初めてなのに初めてではない、懐かしさのような不思議な味がした。満たされた空腹に一息ついたとき、あたりが月明かりではなく太陽によって青白くなっているのに気がついた。

 そんな時間か、夜と朝の境目にピントを合わせず、ぼーっとしていると目の前のベンチの下に、床から浮き出てくるような、四角い影のようなものがあるのに気がついた。

 それは青く、しろく反射する床の上に影を作ってこちらを見ている。ゆっくりと近づいていくと、それが本であることが分かった。引き寄せられるようにその本を手に取ると、題名のない本だった。自動的に手が本を開く、手書きで’’絶対に読むな’’と書いてあった。

 無視して全体をパラパラとめくった。その中の一ページを読むとそれが誰かの日記であることが分かった。読んだら悪るいかなと思って、周りを見渡した。それは少しだけ、行けないことをしているように感じる。背徳感というやつか。

少し迷って、よし、これは人間観察だ。と開き直ることに成功し、始めのページに戻ってしっかりと読み始めてみる。

’’七月二日 私は僕は一人称を己とする それは普段使っている一人称ではしっくりこないからだ’’

’’己は今日イライラした なんであそこでそんな事するのか理解に苦しむ でも大丈夫 この生活ももう長くはない

己は好きに生きる 彼らとは違う 一般の価値観なんてくそくらえだ 己は自分自身で自分の人生を決める

好きに生きてやるぜmylife’’

 最初の文から意外性のある癖に笑ってしまった。

 この人のユーモアか厨二病か、多分ただ真っ直ぐなだけで、何だかこの人に好感が持てた。日記を読んで思った。そういえば私は日記など書いてはいなかったのだろうか。明日、お母さん的な人に聞いてみよう。別に自分の記憶を思い出したいって訳ではないけど、色々と話を合わせるのには良いだろう。

 そのあと、日記の中から西暦や名前を探したが全くそれらしいものは記入されていなかった。内容はおおよそ一年以上書いていることが日付から分かったが逆にそれ以上は分からなかった。言葉遣い、からして若い男の子なのだろうけど、それも確かではないし、人間って不思議だなとも思った。流石に持ち主が探してる可能性が多いにあったから、私はひとまず持って帰ってもう少し読ませてもらって、後日病院の人に返却することとした。

 次の日、目を覚ますと相変わらずお母さんらしき人がいて。せっせとフルーツを切っていた。曇っていて時間帯が把握できなかったがおそらく昼過ぎだろう。

「おはよう、良く眠れた?」「りんご好きだったわよね。歯磨いて食べな」

「あっうん、ありがとう…」

自分が何が好きだったかなんて定かではなかったが食べてみると確かに美味しくて。やっぱりお母さんなんだなぁと思った。

「お父さん夕方ごろに来るって、お仕事だからね」

「うん」まるで私が寂しがっているような物言いに早く来て欲しいのはあなたでしょう、とは言わなかった。

「あのさ。私って日記とか書いてたか知らない?」

「日記?急にどうしたの。どうだろう小さい頃は幼稚園で何か書いてた気がするけど。大きくなってからは部屋にも入れてくれなくなったからな」

なんだかツンとした物言いに腹立たしくなった。

「そっか、なんか自分のこと思い出すきっかけになるかなって」思ってもないことを口走った。

「そう、偉いわね。そんなに急がなくて良いわよ。お医者さんもきっとゆっくりでも思い出すだろうって言ってらしたし」

 別に急いでないしとも言わなかった。全くこの母親は楽観的かと思えばヒステリックな様でもあって良く本心が見えなかった。きっと世間一般では出来た母親である彼女の背中は少し寂しそうにも見えた。私達以外いない病室には母親の荷物を整理している音が妙に大きく響いていた。

   


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