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第三十八話、おはよう…。

「おはよう、良かったら朝ご飯食べる?」

「良いんですか、」

「いいよ、いいよ。一人分も二人分も一緒だから。ちょっと待っててね」

「ありがとうございます。何か、手伝いますか?」

「うんん、ゆっくりしてて」

 何て素敵な人なんだろう。そう思いながら私は歯を磨いていた。でもあのお姉さん素敵だな、何ていうか歳の割には綺麗というか。実際の年齢は分からないけど、きっと歩夢も同じように思っただろうな。ふと心に嫌な感じがして。

 そういえば歩夢って彼女とか居ないよね、私は感じたことのない不安感に襲われていた。なんとなく、こんなふうに放浪の旅にでているわけだし、彼女が居るとは思いずらい。でも彼女にならなくてもこうやって旅先で出会って長く一緒に居れば恋に落ちることもあるのかも知れない。

「ご飯できたよ〜」

 私は美味しそうな匂いとともに、キッチンの部屋にある食卓へと誘われた。

「さぁ頂きましょう」

 花柄のテーブルクロスに木製の食器がまるで異国の地にいる気にさえさせた。とてもシンプルだけどとても美味しそうな朝食。目玉焼きには胡椒が降ってある、トーストの焼き加減は丁度お姉さんの焼けた肌にそっくりだ、ポテトサラダにレタス、そしてヨーグルト、ジャムも自家製だろう。

「いただきます」

 お姉さんはバターを遊ばせながら私に聞いた。

「あなた名前は何て言うの?」

「あっ、梅と言います」

「そう、私は菜穂子、よろしくね」

「よろしくお願いします!」

 私も真似してバターを遊ばせたあとに聞いてみた。

「あの、菜穂子さんってこのゲストハウスのオーナーさんですか?」

「そうね、今はそれに近いとこがあるけど、管理人ってとこかな」

 トーストをかじる姿は何故か洗礼されている。私は追いかけてもう一度尋ねた。

「もう、ここで働いて長いんですか?」

 口に付いたパンかすを小指で拭って菜穂子さんはヨーグルトに手を伸ばした。

「まあ、住んでからは長いわよ、もう、十年以上経つんじゃないかしら」

 一体この人はどんな経験をしてきたらこんなに色っぽくなるのか、なんだか見惚れてしまった。

「あの、菜穂子さんって何者なんですか?」

 思わず口にしてしまった質問に喉を詰まらせた。

「えっ、何者ってただのバツイチ、ゲストハウス管理、ライターだけど」

 彼女はちゃらけてそう言ってヨーグルトを完食していた。私はまだパンも食べ終わっていない。

「ライターって?」

「ああ、大したことないのよ、時々、ネットの記事なんて書くの、特に旅の記事とかね、三重の案内とかさ、前にここに来た旅人が記事なんか書くサイトを運営してたから、そこからね」

「ええ〜すごい、じゃあ菜穂子さんって旅人?だったんですか?」

「若い時はそうね、そうなるかな」

「海外も行ったんですか?」

「うん、最初は海外ばっかりだったわ」

「すごい、怖くなかったんですか?」

「ん〜最初はちょっとね、でもそれが楽しかった」

 そういうと菜穂子さんはまた手際よく自分が食べた食器を片づけだした。そして独り言の様に言った「もう味わえないいのよね〜、あの時のは」

 それがどう言う意味なのか文脈から理解できたが、感情は伴っていなかった。私はやっとトーストを最後まで口に入れた。

「じゃあちょっとでかけるから、食器は適当にしといて」

「あ、、、はい」

 トーストで口がいっぱいで、そう言うのが精一杯。

 私は水でトーストを流し込みながら思った。これは歩夢が手に負える相手ではないはね。菜穂子さんはそういう嫉妬の対象には、素敵過ぎた。


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