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第三十六話、ラッシュ

 あまり気持ちよく寝付けなかったから、数時間うたた寝して私は足速に電車へ乗ったとりあえず西へ。東京の通勤ラッシュというより通学ラッシュの電車に遭遇した。色とりどりの制服に囲まれて自分がかなり浮いて感じた。賑わう車内で一際目立つ制服があった。正確には制服が、ではなく制服の着こなしが素敵なカップルがいた。いやカップルかは分からない、でも普通の友達ではなさそうだ。特別な雰囲気を醸し出している。二人は何をしている訳でもなく、第一車両の一番先頭の角を占領していた。何もオラオラしているのではなく、その何も語らずにただ立っている二人の雰囲気を誰も邪魔できないのだろう、その車両全体が二人を意識しているが誰も直接は見ていない、ただ二人を演出しているように見えた。「素敵だなっ」ほっとため息の様に言葉がこぼれる。もしくは私達にもこんな時間があったなら、私は記憶を失っていると認めよう。もしもこんなふうに私の横に立つ歩夢がいたなら、記憶がなくなったことを悲劇とするだろう。それでも、それでも分かりようがなかった。私が何を失っているのか。きっとこの旅の一つの目的だろう。私のなんたるか大切な思い出か、もしくは幻想か、もしくは依存心か、もしくは運命というやつを探しに。私は夢と現実の間の様な寝ぼけた頭でそう、もう一度確認した。でも同時に不安がやってきて、私は歩夢と話した少ない時間を思いだした。最初から私に気を使っていなかった歩夢。一人で旅に出てしまった歩夢、大事な日記を失くした歩夢。きっと彼は私のことを幼馴染としか思ってない。つまり恋愛感情のそれではない気がした。女性としては見てはないだろう。でも良いんだ、まずは会えれば、一緒に過ごせたらそれで嬉しい。それにまだ私が本当に彼のことを好きか分からない。妄想が膨らんでいるだけかもしれない。私はそう自分を慰めながら、どんどん不安になった。

 席が空いたから座った。その時、夢を見た。歩夢が見つからない夢だ。私は旅をして探しても探しても歩夢に会えない、もう疲れ果てて諦めようとする、それでもその夢の最後には彼を見かける。でも彼は違う女性と抱き合っていて、私は悲しみにくれて歩夢を背に離れる。

 私は胸を詰まらせ目を覚ました。悲しくて悲しくて私はもう一度、夢を見る為に、書き換える為に眠った。すると本当にもう一度、歩夢が夢に出てきた。歩夢は体育座りをして私のすぐそばに座っている。「僕の誕生日、忘れたんだ。」そう悲しそうに言う歩夢。まるで幼子の様に私を見つめる歩夢の目には今にも溢れそうな輝きがあった。私はいった「ごめんね、もう忘れないよ」私は包み込む様にでも力強く歩夢を抱き締める。すると歩夢は泣き出して私は更に歩夢に近づきより愛を持って抱きしめる。

 私は目を覚まし、驚きと喜びで胸をいっぱいにしていた。本当に見れた! 私の本当、私の未来はこっちだ、大好きだ。私はもしかしたら人生は自分次第なのかもしれないと思った。自分の気持ち次第なのかも、連続して見た二つの夢は明らかに自分の気持ちが創作した’’もの’’だった。


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