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第三十二話、『教授』

「またねっ」

 教授には何だかんだ一番お世話になったな、私が今こんな選択を出来ているのも大分教授のおかげだと思う。これまた短い間ではあったんだけど、もしかしたら帰ってくるかも、いやまた会いたいってことね。

 東京駅に着いた。東京駅って他の駅と全く違う雰囲気がある、多分それはこの駅を歩く人たちの多くが東京人ではないことからだと思う。初めて地方から東京に来る観光客や、出張から帰るサラリーマン。同じように大きなリュックを背負った背の高い外国人達。たくさんのお見上げ、何で売れてるのか分からない東京の黄色いやつ、色んな要素が絡み合って東京駅は他とは違う匂いがした。そして今、私もその違う匂いを醸し出す当事者だ。私はどんな匂いを醸しているだろうか。通勤時間ではなくてもそれなりに混み合っている、駅を右に左に避けていき、始発の名古屋行きに乗った。出発までそれなりに時間もあったし空いていた。これは座ろうと思って一番端っこまで行ってリュックを座席上の物置に持ち上げた、なかなか骨の折れる作業だったがやっとリュックを下ろすと随分と身体が軽く感じられ、またその重さを実感した。それでも今の生活の全てを持っているんだ、本当の意味では軽いと自分を励ましてそのまま座り込んで寝に入った。朝も早かったからすぐに大きな眠気が襲った、彼の優しい匂いと共に私は、束の間の夢の中に入った。 

「ねぇお母さん、お母さん! どこにいるの」

 私は眠りの中で母親を探していた、それは古い記憶かそれとも新たに作り出された妄想か、定かではないが何でも良かった。大事なのは私も旅に出て不安になって居るってこと。

 「これがホームシックか」、私は押し入れで見つけた古いウォークマンで音楽を聴いた。自分で入れたのか、お父さんの趣味かビートルズは不安な心に束の間の安らぎを与えてくれて、気がつけば窓の外は一面の田園風景、鮮やかな青い空、旅の旅立ちを大きな入道雲が讃えてくれた。夏はもうそこまで来ているようだ。


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