第十七話、私のきらいな
「梅さん、どうぞお入りください」
私は無愛想に今日もカウンセリングと言う名の催眠部屋に入った。
「それでは、そこに座ってね」
長めのソファに座った。今日も涼しげな先生はとても綺麗な人で人当たりは柔らかい、でも目の奥が笑ってなくて好きにはなれなかった。
「今日も前回と同じように始めて行きますよ、楽にして目を瞑ってね」
「はい」っとだけ言って目を瞑る。またあの質問かぁ。
「病院で目覚めた時の自分に戻りましょう。深呼吸して、リラッ〜クス。病院の情景が浮かんできます」
「すーーっはーー」
情景も浮かぶし思い出せるよ。
「それではそのまま少しずつ遡ってみましょう。だんだんと靄が晴れてその一つ前の情景が浮かんできませんか」
何も浮かばない、深い霧だ。そもそも思い出したいと思ってない。だって一部じゃなくて全部忘れたんだから、失った感覚がない。
「それでは見えてきた物を言葉にしてみてください」
「何もないです」
いつもちょっと申し訳ない。それでも両親は私に対して、何かしないと落ち着かないし、先生も働いて稼がないと行けないのだからwin winかな。
「恐れないで自分の感情を受け入れて」
「……」
「大丈夫、あなたは安全です。守られています」
「…」
苦手なのはこの感じ。私を凄い可愛そうな被害者にしてくる、私そうなのかな?
「何か新しい発見はあった?」
「いえ、特には」
「そう、日々の中で急に怖くなるとか不安もないわね?」
「ないです」
「わかりました。では今日もお薬出しますね。ちゃんと飲んでる?」
「はい」
実際は全部捨ててる、だって精神安定剤のようなものは私には必要ない。もしも記憶を取り戻せる薬があるなら、考えるけど(実際に飲むかは分からない)一体なんの精神を落ち着かせるというのか、歩夢のことが気になって考えてしまうのは少し落ち着かせたいけれども。
「ふぅー」
やっと終わった。私トラウマが原因で記憶喪失になったと思われてるんだけど、どうかな自分では分かりようないけどそうだったら尚更、思い出さない方が良いんじゃないの。
「今日は新月か、」
それでも夜の街は明るかった。明るすぎて美しく騒がしい。そんな夜だ、歩夢はもう旅を始めてどれくらいだろう、どこにいて何をしているのか、私には分かりようがない。