第十五話、
ベットで目を瞑ってから自分には経験があるのか、ないのかという思考が頭から剥がれなくて目が覚めた。窓辺に腰掛けて夜空を見ながら思った。そもそも自分は男性に興味があるのか、うん、分からないけど女性にそのような感覚になったことはない。もしかして私、アセクシャルなのかな。記憶はないがこういう用語だけは忘れていなかった。
「記憶喪失が原因かもしれない、いや、そうだろう」
そう、不安に思った時、彼の無邪気な、でも大人びた微笑みを思いだした。彼の残像は私から不安を持ち去ったが同時に新たな不安を持ち込んだ気もする、得体の知れない不安を。
幼馴染なんだから、そんなの関係ないのは分かってる。でも少ない鮮明な記憶が彼にとても会いたくさせた。今、どこで何をしてるのか。引き出しの奥にしまった彼の日記を引っ張り出して今、それを開くのに躊躇はなかった。開くと見開きに誰も読むな、と書いてある。やっぱり思わず笑ってしまった。それでも日記を書いた事があるのか定かではない私も彼の気持ちが理解できた。誰にも読まれないという前提を持ってして書けることがきっとある。書きたいことがきっとあるのだ。
‘’七月二日、私は僕は一人称を己とする。それは普段使っている一人称ではしっくりこないからだ’’
やっぱり、この最初の一文が好きだ、きっと彼だ、うんん、やっぱり彼だ。
’’己は今日イライラした。なんであそこでそんな事するのか理解に苦しむ。でも大丈夫、この生活ももう長くはない。己は好きに生きる。彼らとは違う。一般の価値観なんてくそくらえ。己は自分自身で人生を決める’’
多分、こうやって旅に出たんだ。そう納得したら、急に眠くなった。彼の残像と決意をイメージしたら気持ち良く安心して夢に落ちていけた