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#1 サブスクライブ

「大きなおうちよね………」

朝8:10頃、『噂の』家を出た高宮華乃(たかみやかの)の耳に聞きなれた言葉が飛び込んでくる。


それもそのはず。

100坪を優に超え、300坪に迫りそうな広大な敷地にそびえる西洋然とした所謂豪邸。それが街一番の富豪・高宮家の家である。生まれて十年ほど、この言葉を聞かなかった日を数えた方が早いほどに耳にする。


「おはようございます、加奈(かな)さん、(あい)さん」

華乃はいつものようにクラスメイトの二人に挨拶をする。

「おはよう、華乃ちゃん」

二人が振り返り、挨拶を返す。


挨拶を聞き届け、華乃が乗る車は歩く二人を置き去りに小学校に向かう。何の感慨もないいつものことである。挨拶のために開けていた車の窓から流れてきた心地よい風が華乃の長い黒髪をたなびかせた。



「ありがとうございます」

送りの使用人に礼を述べ、華乃は車から降りる。

「あ!ちょっとまって!!」

華乃は急いでランドセルを下ろし、中に入っている財布を引っ張り出す。

「ほ、よかったぁ………」

中に入っているお札を数え安堵の息を漏らす。

「じゃあ!行ってきます!!」


いつもの大人びた雰囲気を少しだけ脱いで大きく運転席に向かって手を振った。お返しの手を確認し、華乃は教室に向けて歩き出した。




~~~~

「おはようございます」

ガラッとドアを開け、凛とした声が教室に響く。

振り返った数人が華乃の方を向いておはようと返す。


華乃は席につき、ふぅと息を漏らす。

「華乃ちゃん、今日『あの日』だけど覚えてる?」

クラスメイトの一人、犬飼千代(いぬかいちよ)が寄ってくる。

「えぇ、ちゃんと覚えているわ。はい!これ」

「ありがと!じゃあ、今学期もよろしくね!」


千代はそう言うと華乃からもらった千円札を自分の財布にしまった。

~~~~



『サブスクライブ』

この世界で普遍的な一つの仕組みである。付き合いを持ちたい人・物・事に対し金銭を支払い関係を確約する。正に弱肉強食、金がものを言う、そんな仕組みである。

いま、華乃はその料金を支払った。何も不思議なことは無い。社会的に普遍のありようである。


「おはようございます、高橋さん」

「う、うん。おはよう」

華乃は後ろの席の女子・高橋結(たかはしゆい)に話しかける。

高橋結はサブスクライブの相手ではない。けれど、学級費には『クラスメイトとして接する』という内容のサブスクライブ料金が含まれている。ので、近くの席という誼で挨拶をしているに過ぎない。


そのまま前を向こうとした華乃の眼に結が手に持つ色鉛筆が目に入る。

「それ………」

「これ?お友達がくれたの。誕生日プレゼントって」

結はそう言ってプレゼントの色鉛筆のケースを大事そうに抱きしめる。

「そ、そうなのね」


華乃は自分の記憶を辿る。あれはそこそこに値の張る代物だったはずだ。そんなものを何故『あの』結が?

結の家は一度だけ見たことがある。華乃の家とは逆の方向にあったはずだ。決して裕福では無い。何なら少し貧困にも見える、そんな家だったと記憶している。

その結にどうしてそんな『サブスクライブ』が?


『誕生日プレゼントを贈る』というサブスクライブはかなり高価なものになることが多い。それは結ぶ相手との関わりが大事であるという信頼、そしてどうせ貰うならという人間臭いことが理由に挙げられる。だからこそ、結がそのような内容の『サブスクライブ』を契約していることが不自然だった。


だからといってそれを相手に聞いてはならない。この世界で『サブスクライブ内容を聞く』というのは『その相手との関係を教えろ』という質問に外ならない。下手をうてばプライベートへの侵害行為であり、この社会での禁忌である。


とはいえ推測は自由である。

どれだけ相手のことを調べようと契約者本人に聞かない限りそれは憶測であり、事実ではない。だからこそ転校なんてものがあれば仲の良い人とサブスクライブ内容を予想するなんてことが頻発するらしいのだが。


始業の鐘が鳴り、華乃は思考を中断する。担任が教室に入ってきて朝礼の後、授業が始まった。

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