角を曲がるとき
研修医の頃、夜遅くに病棟を回診していた際、患者さんとぶつかりそうになったことがありました。その話をナースステーションでしていたとき、看護師がこんな話をしだしました。
「夜の巡回で角を曲がるときは、大回りするようにしているんだよ」
私は、患者さんとぶつからないように気をつけていたつもりだったので、その配慮の話かと思いました。ところが、彼女は真剣な表情でこう答えました。
「小さく回ると、お化けとぶつかるからね」
冗談めかした話に思えましたが、彼女は決して角を小回りしませんでした。気になった私は、他の看護師にも聞いてみました。すると、「確かにそうしているかもしれない」と言うのです。誰も本気で幽霊がいるとは言いません。しかし、「なんとなく」そうするのだと。
ある夜、私はその「なんとなく」を確かめたくなりました。夜遅くに病棟を回診していた際、あえて意識的に小回りして角を曲がってみたのです。実際に何かが起こったわけではありませんが、その瞬間、なんとなく嫌な感じがしました。特に理由はないのに、身体の奥に染み込むような違和感。それ以来、私は小回りするのをやめ、大回りをするようになりました。お化けを信じているわけではありません。ただ、そうしたほうが安心するというだけの話です。
それ以来、私も自然と大回りをするようになりました。お化けを信じているわけではありません。ただ、そうしたほうが安心するというだけの話です。
私自身、お化けを見たことはありません。それでも、「何か」が漂っているように感じる瞬間があります。人の生と死が交差する場所だからこそ、合理的には説明がつかない出来事が起こるのかもしれません。
私はこれからも怖い話を蒐集し続けるつもりです。ただし、私が関心を持つのは、決して「お化けが出た!」という話ではありません。何もないはずなのに、ふとした瞬間に「何か」を感じてしまう、そんな話です。
私一人で抱えるのは、少し心細いのです。だから、あなたにも聞いてほしいのです。