後編
ヤバい。ヤバい。ヤバい……どうしよ。
絶対に兄さん達にバレないようにしなきゃ……。
何はともあれ!共犯者の学園長に相談ね。
なんて言って脅す…、いやいや!バレないように言いくるめておかねば!!
もう~~!!
やっとヒロインちゃん居なくなって、学園生活を満喫し始めたのに~~!!隣国の魔法学園まで、何をしに来るのかしら?
「がーくえーんちょーー。いますかーーー?」
学園長室の前でノックすると、私の声が聞こえた後、ドタバタと中から音がして、マッハでドアがガチャっと勢いよく開いた。
学園長が、ハァハァと息を切らして……あらまぁ、とりあえず落ち着いてくださいませ。
「ディアナ様、ハァ……ハァ…。こ、こちらに、…どうぞ…。」
そんなに急いでどうしたのかしら?
「学園長…、大丈夫ですか?お忙しかったかしら?」
ブンブンブンと首を横に振り、とんでもないとばかりに顔の汗を忙しなく拭いている。
え~~……大丈夫かしら?……もしかして……私に対して、怯えているとかじゃないわよね……??
「本当に大丈夫ですか?」
「はい。……じつはですね………ディアナ様のお兄様が、ディアナ様の学園生活を参観したいとおっしゃいまして……、一応ディアナ様の為にも、父兄の方々の参観は全生徒、認めてないとお断りしたんですが………………」
ダラダラと尋常じゃない汗の量をかきながら、学園長が続ける。
「そ、それなら、特別講師として招待してくれと言う話を貰いまして………、お兄様、御二人とも大変優秀な方々なので、……学園の理事も役員も、満場一致で特別講師として、1週間程お招きすることに乗り気でして私の一存では……………………………ディアナ様!申し訳ない!!」
ガバリとスゴイ勢いで、スライディング土下座を繰り出してきた!
いやいやいや!!土下座とか、しなくていいですからね!!そんなに頭を擦り付けたら、薄いものがもっと酷いことになりますからね!!
「学園長…私のことを思って、一度はきちんと断って頂いたこと、有難うございます。1週間の特別講師ですか…………もう決まってしまったものはしょうがないですわ。ちなみに兄達……いつ来るんですか?」
「……それが、もうすぐ着くと連絡があり、明後日だと」
「あ、明後日ですか??」
ちょっと、兄様!!……まさかの学園からの返答を待たずに出発してないよね?隣国の魔法学園まで1週間は移動でかかるところを……。
絶対、確信犯がやる「えへへ~来ちゃった。テヘペロ」ってやつだわ……これ。
我が兄ながら、やり口がエグい。
ディアナは手を額にあて項垂れた。
それじゃぁ学園長も、準備でテンヤワンヤなはずだ。隣国の王子が訪問するとなれば、警備やら接待やら手配は山のようにある。
そんな最中に、ディアナの為に時間をつくってくれて申し訳ない。兄達にも振り回されいる学園長を、これ以上負担かけるのは可哀想よね…。
「学園長、ご苦労が絶えないと思いますが、くれぐれも『ディアナ・メリック』について他言無用でお願いしますね!!もちろん兄達にもですからね!!」
「ひぃっ!!も、もちろんですっ!!」
学園長は、自身の頭をガシっと押さえた。
そんなに怯えなくてもいいのに……。最初に偽名許可をとる時に、スキンヘッドになる魔法を披露したからかしらね。
すぐにキャンセルして元の髪に戻したけど、効果は抜群だったみたいだ…………申し訳ない。
ウ~ン……。
兄さん達はきっと私に会いに来るのよね。
兄が滞在してる時は『アグネス・ディア・ダーメリック』でいて、出来れば怪しまれないように『ディアナ・メリック』も同時に存在していると、同一人物として認識されないでいられるからベストだけど、今から影武者の準備??んん~~ムズい。
あとは…兄達がいる1週間は『ディアナ・メリック』は学園をお休みするしかない。
今まで1度も学園を休んだことがない『ディアナ』が1週間も休めば、きっとみんな心配してしまうだろうけど!残りの学園生活を満喫するうえで、しょうがないわね……。
こうして、ディアナはしばらくは本来の姿に戻ることになった。
◇◇◇◇◇
「「「 ようこそ!!魔法学園へ 」」」
ファンファーレと共に、紙吹雪が舞い上がり、白い鳩達が優雅に上空を旋回している。
盛大な拍手と沿道から聞こえるキャ~!!という黄色い歓声に、爽やかな笑顔をあちこち振り撒きながら、軽く皆に応えるように手を振る兄達。
レッドカーペットの上を優雅に歩を進め、奥の座の中央にいる学園長と私に向かってくる。
その傍らには、生徒会メンバーがズラリと並んでいる。
周囲の生徒達は、見慣れない私のことを、誰だあれ?ってザワザワとした空気になっているのを感じる。
今の私の姿は、ディアナをやめて、いつもの瓶底メガネをはずし、おさげ髪をほどき、ゆるくウェーブかかった髪を薄茶から金髪に戻した状態だ。
ほんと……おまえ誰だよって話よね…。
私だって、最近はディアナの姿に慣れてたから、アグネス仕様の制服姿に違和感しかなかったもん。
兄さん達が私を見つけると、蕩けるような微笑みを浮かべると、あたりから悲鳴があがり、バタバタと倒れるご令嬢までいるようだ。
逆に恨めしそうな、殺意がある視線もチクチクと私に向けられているのも確かだ。
うわ〜実の兄がモテるのは嬉しいが
嫉妬とか……巻き込まれるのはゴメンだわ。
「やぁ、うちの愛らしい姫は元気だったかい?」
「会いたかった。かわりはなかったかい?」
私の左右を陣取り、左右の手の甲に其々キスをおとす。またしてもキャーーと周囲から奇声が聞こえるが、……無視を決め込んだ。
「えぇ。お兄様達も、おかわりはなくて?」
これでも私、一国の姫なので、人前ではお淑やかで優雅な微笑みで応える。
「あぁ。だがアグネスが居ないと張り合いがなくて、こうして会いにきたよ。」
王太子であり、『クール派』の好青年と言われている頭脳明晰の腹黒王子である、マーカス兄様。
「相変わらずうちの姫は可愛いね〜」
そう言って私の髪を一房すくい上げ、軽くキスをするのは、『爽やか派』のナイスガイである、剣術命のひたすら明るい脳筋王子、ハミル兄様である。
うん。今日も安定して妹バカなお兄様達だわ。
「うっ……ゴホン。」
すっかり3人の世界になっていた私達に、学園長が、何やら話をしたそうにコチラを見ている。
「あ!お兄様。こちらがお世話になっている学園長と生徒会の皆様ですわ」
兄達に皆を紹介すると、順番に名乗り出て挨拶を交わし始めた。
レオナルド王子とは、王子同士の交流会で、以前会ったことがあるそうで初対面ではなかったようだ。次々と自己紹介が進むなか、1人、バルト様だけが、私のことを目を見開き、怖いくらい凝視している。
え!!もしかして
バレたっ!!??
あまりに見られてるものだから、フィっと顔を反らした。……大丈夫よね。ディアナと見た目がこれだけ違うと、正体を知ってる学園長でさえも最初ビックリしてたもの。
バルトからの突き刺さるような視線にドキドキしていると、いつの間にか、この後レオナルド達の生徒会が学園を案内することになっていた。
俯いて考え込んでいた視界に、そっと手を差し伸べられた。顔をあげ見上げると、バルト様がエスコートのために手を差し出していた。
反射的にその手の上に、手を重ねるように置こうとしたところ、左右から新たに手が2つ、スッと出てきた。
兄達が社交的な笑顔とともに、圧を放いながらバルト様を牽制していた。
笑顔が、笑ってませんわ……兄様。
バルト様もバルト様で、ニコニコしながら兄達の笑顔を受け流し、私の手をとり、流れるように腰に手を回し、まるでカップルのような距離感だ。
ちょっ!!!なにするの!!?
兄さん達が誤解するじゃない!!
内心あたふたとするも、そこは姫モードなので、涼し気な顔をして、にこやかにバルト様を見やる。
すると私の耳元でバルト様が囁いた。
「ディアナ……君、本物の姫だとはね」
やっぱり!!バレてる!!
どうしてバレたの~~!!??
「みんなにバレたら困るの?」
コクコクと頷くしかない。
そんな2人の様子は、はたから見ていると、仲睦まじく囁きあって、イチャついてるカップルにみえることを、ディアナは気付かなかった。
「…………君は?誰かな?」
マーカス兄様が青筋を立てた笑顔のまま問いただす。
「バルト・ダークガンと言います。妹さんには、とても仲良くして貰ってます。今後ともお見知り置きを……」
そうなのか?と問うギンっとした視線が兄から向けられたので、私は全力でブンブンと横に顔を降る。
「……ダークガンと言えば、魔法団長の息子か?」
ハミル兄様が爽やかな笑顔のまま問う。
「ええ、父は魔法団長ですが、私は次男で跡継ぎではないので、実力ありきですがね」
「ほう。実力ありきだと……一度手合わせを?」
ニヤリと笑うハミル兄様。さすが脳筋で、目の前にチャンスがあれば、ウズウズして戦いを挑みたくなるらしい。
「それはいいな。レオナルド王子、どこか模擬戦を行えるような場所はあるかい?」
いつもならハミル兄様を止めるマーカス兄様も、何故か乗り気である。
「……あぁ。もちろんありますが……本当にするのですか?もしお怪我などあったら、こちらとしても……」
レオナルド様も展開についていけず、苦笑いしながら、どうしたものかと言う。
そうだよね……他国の王子が怪我でもすれば、滞在してる国との国際問題にもなりかねるしね。
「大丈夫だ。怪我などしないし、しても責任は問わないとしよう」
ハミル兄様がニカッと笑う。
「恐れ入ります。胸をおかります。剣術の申し子と呼ばれている、あのハミル様と一戦交えられるなんて、光栄です」
バルト様も何故かそこは乗り気でいる。
それならばと、あれよあれよと話が進み、模擬戦会場には沢山の観客と出店まで出始めている。
「マーカス兄様、本当に止めないの?」
観覧席に移動したあと、ハラハラしながら闘技場を見下ろし、会場で準備運動をしているハミル兄様とバルト様をみる。
「あぁ。私も彼の実力も見てみたいしね。それに何より強くなければ、ハミルは認めないからな」
「認めるって?何を??」
キョトンとしている私を、信じられないとばかりに目を見開きマーカス兄様が見やる。
ハァ……と一つため息をついて何故か額に手を当てて、「……こっち方面は疎いのか」と何やら呟いているが、こっちも、あっちも、ないと思うんだけど?
「まぁ…ここまでして気付かれない彼も不憫だが、うちの大事な姫だからね。そう簡単にはいかせない」
ワァーという大きな歓声が響いた。いよいよ始まるみたいだ。
今回は模擬戦なので、ルールは単純で、武器などは自由。相手が降参するか、膝を床についたら負けだ。ただし、致命傷を負うような危険な攻撃は強制終了となり、失格となる。
ハミル兄様は刃が潰してある模擬戦用の剣。一方バルト様は愛用の魔法杖を持っている。
「はじめ!!」
審判の合図と共に、バルト様の周囲に魔法陣が五つ同時に現れた。
同時っ!!凄いっ!私でも五つは無理だ。
なにあれ!チートだわ!!
魔法陣があろうが関係ないともいうように、ハミル兄様が突っ込んでいく。
ドン!!
音と共にブワッと激しい砂煙が広がり、2人の姿が見えなくなる。
どうなったの??
砂煙が落ち着いてくると、2人が凄いスピードで打ち合っているのがみえてきた。
ハミル兄様の剣を魔法陣で受け止め、バルト様の魔法攻撃はハミル兄様が剣で弾いて、2人とも凄いスピードで対応している。
ハミル兄様は魔法を出すのは苦手だけど、剣に魔法を込めて使うのは天才だ。普通なら剣で魔法を弾くなど芸当は出来ないが、ハミル兄様なら難なくこなしてしまう。
その剣術の速さにあわせて、魔法陣を無詠唱でバンバン的確に出しているバルト様も相当なものだ。
というか……どんだけの才能よ。
只者ではないと思っていたけど。
これ程の実力なら、魔法同士での対決でも、私といい勝負……いや、むしろ負けちゃうかもしれない。
まだ学生の若さであの実力なら、卒業する頃には世界的に上位に君臨するだろう……。
いつの間にやら、会場もシーンと静まり返り、2人の攻防を固唾を呑んで見守っている。
私もいつの間にかギュっと両手を組んで2人を見守っていた。
「彼、ハミルの速さについていくなんて、なかなかやるね。………ディアはどっちを応援してるの?」
へっ!?……どっち?
……そんなこと思っても見なかった。
2人とも本気で凄いと思って見ていたし……。
「どっちって………どっちも?…かな」
「……ふ〜ん。そっか」
マーカス兄様が、少し意外そうな顔をしたあと、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
「…………なに?」
「いいや、ディアもお兄ちゃん離れしてきて、寂しいなと思ってさ」
「そんなことないよ!兄様大好きだし!!」
それなら、と自分のホッペを人差し指でチョンチョンとして、マーカス兄様が頬にキスを求めてきた。
そういえば母国では、兄さん達と顔を合わせれば、挨拶のように頬にキスをしていたっけ…。
私はいつもの調子で、マーカス兄様の頬にリップ音を聞かせながらキスを落とした。
ドガガガガ!!!!!
急に凄い音が闘技場に鳴り響いて、ビクっと体が跳ね上がった。……ビックリした~~。
見ると、会場ではバルト様がうつ伏せで倒れていた。
ぇえっ!!ちょっとの隙に何があったの?!
見逃しちゃったわ!!
「勝者!!ハミル殿下!!」
審判が宣言すると、会場がドッと大きな歓声に包まれた。凄く白熱した高度の試合に、皆スタンディングオベーションで盛大な拍手を送っている。
「まだまだ、青いな。試合中に他に意識を向くとはな。………だが、いい試合だった」
そう言って、ハミル兄様がバルト様に手を差し伸べ、立ち上がらせた。
2人は肩を組んで、何やらこちらに笑顔で手を降っている。
「まったく……ハミルは絆されたな。まぁ……及第点か」
マーカス兄様はその長い脚を組み直しながら、どこか満足そうにしている。
もう……男性って戦えば仲良しって単純よね
ディアナは呆れ顔のまま、ハミル兄様達に観客席から、軽く手を降って応えた。
◇◇◇◇◇
あっという間に1週間がたち、兄さん達は女学生の間に、年上男性の魅力ブームを巻き起こし、『クール派』『爽やか派』で盛り上がった。
そのおかげなのか、生徒会のメンバーが霞んで見えるらしく、すっかり彼等の取り巻き女子も落ち着き、婚約者と穏やかな学生生活を送るようになったと聞いた。
何故か、あの模擬戦からバルト様と兄達は意気投合して、兄さん達帰る頃にはすっかり仲良くなっていた。
バルト様は相変わらず、人の懐に入るのが上手いわね。
これで、私もアグネス姫から、もとのディアナとして生活に戻れるってもんだわ〜。どうにか兄さん達にバレずにすんで良かった〜。
1番危なかったのが、レオナルド殿下がエリザベス様を婚約者だと紹介した時に、エリザベス様が『ディアナ』のことを兄さん達に、学園で1番素敵な女性で!魔法も一流で~と、大絶賛アピールをしたのだ。
あの時は横で聴いていて、冷汗かいたわ……。
とっさにバルト様が話題を変えてくれて、ディアナのことは軽くスルーされて、本当に助かったけど
あの時も、意味ありげにウィンクされたし…。
あのチャラさがなければって思うのよね……!!
まぁ、エリザベス様に絶賛されて……天にも昇れる嬉しさったらないわね〜。エリザベス様の愛に満たされてた私は、寛大な気持ちでバルト様を受け流したのよ。
そして!!今しがた兄達の見送りに正面ゲートに皆で整列し、馬車に乗り込んだ兄さん達へ手を振りながら見送った。
無事に兄イベントが終わって、ホッとして気が緩んでたのね、きっと……。全然気配が分からなかったけど、私の右側の耳元でそっと声が聞こえた。
「バレない協力したご褒美は?」
「キャっ!!」
ビックリした~~~~~~!!!!
い、いきなり、耳元で囁かないでーーー!!
ビクンと体が飛び跳ねて、咄嗟に耳を押さえ、顔を真っ赤にしたディアナは、キッとバルト様を睨めあげた。
「ははっ!!スゴイ顔だな。姫が台無しだよ」
「もう!!ご褒美なんて知りませんから!!」
「………ほぉ。……お~~~い!!レオナルド~~!じつはさ~~!!」
「ちょっ!!やめて!やめて~~!!」
思わず、背伸びして手でバルト様の口を押さえる。……あれ?ほんのり柔らかくて、温かい。
「どうしました?アグネス姫?何かありましたか?」
バルト様の声を聞いたレオナルド様が、こちらに近付いてきた。
「な、なんでもありませんわ!!お気になさらず。オホホホ~~」
バサリと扇子を広げ、口元にあて、姫様モードで応える。
横でバルト様が、クっクっと苦しそう笑いを堪えているので、グリっとヒールで足を踏んであげた。
声にならない痛みに、疼くまっているバルト様。
ふん!!
人をからかうからだわ!!
◇◇◇◇◇
次ぐ日、久しぶりの『ディアナ』としての登校。
やっと、や~~っと、平穏な学生生活に戻れる。
ルンルン気分で教室に入ると、大丈夫?体調は?と多くの生徒達に囲まれた。放課後にもエリザベス様に大層心配されてしまったわ。
あぁ…学園生活の目標
友達100人!!って言ってたけど、数じゃないわね。充分過ぎるくらい友達に恵まれてるわ〜。
皆の優しさにジーンと感動していると、生徒会室の近くの廊下で
「久しぶりだね。ディアナ嬢。体調は?」
意味ありげに問いかけてきた、バルト様と鉢合わせになった。
「……ええ、ご心配なく。」
もう!!全部知ってるくせに〜!!
……そういえば、どうしてバルト様だけ、正体がバレたのだろう。1週間兄さん達に囲まれていたので、なかなか2人だけで話せなかった。
今ならきけるかも?
「……バルト様、ちょっと聞いてもいいかしら?」
「なぁに?何でも聞いていいよ。因みに好きなものはオムライスだよ」
スン…と冷めた目でみてしまったが、しょうがないと思うの。この軽い感じの話し方、どうにかならないかしら……。コホンと一つ咳払いして
「えっと……どうしてバルト様は私の事分かったのか疑問でして……」
「あぁ〜!!それね。簡単だよ!!」
「簡単ですか???」
「俺が天才だから!!」
「…………………」
知ってたけどヤバい奴だったのね。聞いた私がバカだったのかしら……ここまで清々しいと、何も反論出来ないわ。
「ちょっ!!今、絶対にコイツ、ヤバいと思ったでしょ!!違うからね!!」
「……はぁ、そうですか」
「もう!信じてないな〜!!俺って、人の魔力の色っていうか、個性っていうか…見えちゃったりするの!!」
「????」
ん?何それ?そんなの見えるの?
コテンと首を傾げるディアナに、バルトは説明を始めた。
「じつはさ俺、産まれた時から魔力が人より凄くてさ。それはそれは期待されて育ったわけよ。でも俺、次男だろ?比べられる兄貴の姿を何度も見たんだよ。それでも兄貴は、俺のこと凄く大切にしてくれて、俺も兄貴大好きだしで………物心ついた頃には、魔力を出し入れっていうか、コントロールが出来るようになったんだ。そこからかな?自分の魔力も人の魔力も、オーラみたいに見えるようになったのは…………だから初めてディアナ嬢を見た時、ビックリしたよ。ディアナ嬢は、見た目は大人しそうなのに、オーラは半端ない強さでさ。俺と同レベルの魔力持ちってすぐに分かったよ。それから、ディアナ嬢の事が気になって、目が離せない存在になったというか………。だからすぐ分かったよ。アグネス姫のオーラとディアナ嬢のオーラが全く一緒だったからね。」
「ふ〜ん。オーラみたいに見えるのね」
「そう。綺麗で力強く輝く金色のオーラ。凄く綺麗なんだ」
そう言って、真っ直ぐ私の瞳を捕らえて離さない。
「ディアナ嬢……。3ヶ月後、俺はこの学園を卒業したら、ダーメリック王国に行くことになっている。君のお兄さんの補佐として、もっと強くなる……。自由に動ける次男であることを、初めて感謝したよ。それまで待っててくれるかな?」
「ん??うちの王国にくるの??うわぁ〜物好きね………兄さん達めっちゃ厳しいと思うけどいいの??それに、待っててくれるかなって……そっちが先に王国に居るんだから、貴方が待つ方じゃなくて??」
「………………っ、…ハハ!!……やっぱりディアナ嬢には、これじゃ通じないのか」
「失礼ね!?ちゃんと分かったわよ。バルト様が兄達の補佐をするって話でしょ?」
「ちがうよ。ディアナ嬢のお婿さん候補ってことだよ」
「!!!!!!!!!」
なっ!!何を、言ってるの~~????
むこ?………婿?
言葉をなくし、口をパクパクと動かすディアナに向かって、バルトは蕩けるような愛おしくて仕方ないような表情で
「好きなんだ。考えておいて欲しい。返事は、君が卒業して王国に帰ってくる時に……聞きたい。それまでに、強くなって、君を守れる男になって待ってるから、俺を選んでくれ……」
バルトはディアナのおさげ髪をとって、軽くキスをした。そして切なそうに見つめたあと、ディアナとは逆方向に去っていった。
ボン!!とディアナはショートして、しばらく動けずにいた。その後どうやって帰ったのか覚えていない。
◇◇◇◇◇
5年後……。
今日はダーメリック王国では、アグネス姫の結婚式が開催された。
これから王城のバルコニーで新郎新婦のお披露目会が始まろうとしている。バルコニー下には、たくさんの民が集まっている。
「ディア……俺を選んでくれて、ありがとう」
「……バルトこそ、魔法世界ランキング1位って、どれだけチートなのよ」
「はははっ。君の兄君のおかげでかな?」
「……ほんとバカね」
「あぁ…君の横に立つ為なら……ディア、…綺麗だ。最高の気分だよ」
「もう!!!ほらっ!!行くわよ!!」
ディアはバルトの腕をとり、勢いよくバルコニーに躍り出た。
割れんばかりの歓声と、一斉にまかれた花吹雪が晴天の空に舞い上がり、輝かしい2人の門出を皆が祝福する素晴らしい日になった。
お読み頂きありがとうございます。
こちらは3部で書きましたが、ディアナの新婚生活やエリザベス様について……
色々いつか書けたらいいなっと思ってます。
クスっと笑って皆様に楽しんで頂けたら幸いです。
ありがとうございました。