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前編

『ガハッ』


苦しそうに息を吐き出した。

はぁ~死ぬかと思った……。

ん??あれ?ちょっとまって……?今ふわふわ浮いてる自分の真下に見えるのは、沢山の機械につながれている自分だ。

自分が自分をみている状態……?これって……


 死んだんじゃないのーーーー??

 えーー!?私、幽霊になってるーーー!!


『おぉー。俺が来る前に自分から出てきてるヤツがいるなんて優秀じゃないか。手間が省けたわー。助かる。』


はっと振り向くと、そこに黒ずくめの男が立っていた。黒いスーツに黒のロングコート、黒のボストンバッグを片手に抱え、黒サングラスをしている20後半か30代の男だ。


『あ、あなた!!誰ですか!!??』

『えー。見て分かんない?死神だよ。死神。』

『………!!!』

ビックリするようなことを言う男を、これでもかってくらい目を見開いて見たまま、動けなくなる。


『おーい。大丈夫ーー?だいたいのヤツが怒って暴れ出すか、今の君みたいに無反応なくなっちゃうんだよねー。おーい。聞いてるー??』


私の目の前を手でヒラヒラとしている男。


 ……本当に死神なの?私、死んじゃったの??


反応がない私を見兼ねたのか、カバンの中をゴソゴソと漁りだし、何やら書類を取り出した。


『えーと。佐野美由紀。25歳。川で溺れてる少年を助けて溺死。性格はお人好しの善良。好きものは、唐揚げとペットの犬のクッキー。生前は人のために尽くしたので、転生する権利を授ける。………おぉ、君ってみゆきちゃんって言うんだねー。可愛いね』


ニヤリと口角を上げて笑う死神と名乗る男が、書類を読みあげた。


 !!!人の個人情報!!!

 それに!!死神ってこんな軽いヤツなのー!?

 なんかこの死神って思ってたんと違うんですけどー!!


 でも……死神の情報はあっている。……私、本当に死んじゃったのかぁ……。はっ!!そういえばあの少年は??


『あ!あの少年は!!??』


『あ〜……みゆきちゃんが助けた少年は生きてるよ。切り傷程度で元気にしてる。ほんと君ってお人好しだよねー。河川敷で犬の散歩中に、ボールを取りに川に入って溺れた少年をみて、君も川に飛び込むんだもん。俺だったら、この寒い時期に川なんて無理だわー。』


そう言って自分で体を両腕で抱きしめ、ブルブルと震える死神。………なんだろう、ちょいちょいイラっとするんだけど。けど少年が生きてることが分かって、本当に心から良かったと思える。


『転生する権利があるから、次どうする?希望があれば聞くよ?なければ俺が適当に割り振るけど』


『…!転生??』


『生前に善良だった命は転生するって……知らないの?学校で習ってるでしょ?輪廻転生ってきいたことない?』


『……きいたことある……かも??』


『はぁ。良かったー。そこから説明するのダルいんだよねー。じゃぁ、次どうする??あんまり時間ないから早めに言ってね。俺、残業とかしない主義なんで』


……やっぱり時々人をイラってさせる死神だわ。死神にも残業とかあるのね…どこも世知辛い世の中なのかもしれない。


『ん〜。転生……。それなら魔法とか使いたいし、出来れば裕福な家庭に産まれたい。あと!モフモフの犬とかいれば最高!!』


『……了解っと。ちょうど俺のオススメな世界があるから、そこにしておくねー。まぁ次も頑張ってー。』


死神がバイバイと手を振ると同時に、私の周りが輝き出した。眩い光に包まれたと思ったら、光の速さで飛んでいく。


『くっ!!』


目を固く閉じて反動をやり過ごすと、段々とゆっくりになり、周りが認識できる速度になってきた。そこには一人の妊婦がいた。私はそのまま妊婦のお腹に向かって光になったまま進み、中に吸収された。






「オギャー、オギャー」


「無事に産まれましたよ。女の子です。奥様お疲れ様でした。」

産婆に抱かれて、母親と思わしき女性に渡された。薄いブラウンの髪に水色の優しそうな瞳。


 ……この人が私のお母さん。


なんと!!産まれた時から前世の『佐野美由紀』の意識がそのままあった。きっとあの死神のせいだろうとジト目になってしまうのもしょうがない。


「エミリア!!大丈夫か!!??」

慌てた様子で、金髪のイケオジが駆け込んできて、母を抱きしめた。

「えぇ。あなた。女の子ですのよ」

2人は穏やかな瞳で私を覗き込んだ。

「あぁ。あぁ。とても可愛らしいな。君にそっくりの瞳だ。」

「髪はあなたと同じ金髪ですわ。」

「エミリア。……ありがとう。こんな可愛い僕たちの天使を産んでくれて。」

両親はとても素敵な方々のようで、安心してしまったのか……眠気が、…。赤ちゃんって…眠い。






 どーも、みなさん。私『佐野美由紀』あらため

 『アグネス・ディア・ダーメリック』です。


うん。長い名前よね。ダーメリック王国の王女で、王族にだけあるセカンドネームで、私は『ディア』と名付けられた。普段はアグネス王女って呼ばれている。


もう私も15歳である。ヌクヌクと、それはそれは大切に甘やかされて育ってきました。うん。自覚はある。家族全員が私に甘いのだ。


私には上に兄が2人いるのだが、待望の王女だったので、両親にも兄にも家族全員に激愛されている。むしろ愛が重い……。もう潰れそうだ。


 至れり尽くせりって本当にあるんだね〜。



7歳上の1番上の兄は、最年少で飛び級で学園を卒業した頭脳明晰の腹黒王子だ。5歳上の2番の兄は、剣術命のひたすら明るくて爽やかな脳筋王子である。


 そして!!私は……魔法少女なのであーーる!!


 うふふ。魔法って楽しいよね〜。夢にまでみた魔法だよ〜。それはもう赤子の頃から、こっそり練習しちゃうよね。だって美由紀の時には、魔法なんてフィクションの世界にしかなかったもん。


幼少期から魔力を練って、魔導書も読み漁っていたら……あらまぁ〜私……最年少で魔法学園の特待生になっちゃった。

魔法ってイメージが大切だから、前世のイメージのままに練習したら全属性使えるようになっちゃったのよね……。


 ふっ!!これぞチートってやつ?

 死神さんに初めて感謝しちゃったわ〜


ということで!!これから隣国のアルジェール共和国にある、魔法学園に入学するために城を出て、学園の寮へ向かう馬車に乗り込むところなのだけど……。

お見送りの両親と兄達が、さっきから順繰りに私を抱き締めては、「何かあったら容赦なく潰しなさい」と不穏な発言のオンパレードだ。


 もう~みんな心配性なんだから。過保護すぎ。


「大丈夫だよ〜。いってきまーす」


颯爽と馬車に乗り込み、みんなが見えなくなるまで手を振った。


ふぅ……。兄さん達に、もし何かあったと相談でもしたものなら、あの2人なら私の為に世界征服もしそうで……こわい。割と本気でそう思うわ。


それに……じつは家族には内緒だけど、私には学園に入ったら、絶対したい秘密の計画があるのだ!!


それは……なんと!!


『ともだち100人できるかな』作戦!!


なぜかって??

それはね〜……私に友って呼べる友が居ないから……滝涙~~。だって王女だったんだもん。しょうがないんだけどさ〜。

家族は過保護すぎるし、同年代の令嬢達も忖度ありで近付いてきた付き合いだし、あとは……兄達を狙うお姉様達が、私を攻略しようと狙ってくる感じだった。


なので!!ここなら家族がなかなか来れないし、干渉できない隣国の学園にし、尚且つ!!

じつは学園長に事前にお願いして、変装して仮の身分で登校許可をもぎ取ってあるのよ。『ディアナ・メリック』っていう偽名を。うふふ。


学園長には、せっかく留学するのだから、色んな方々と交流することで、新しい発見があるかもしれない!とかなんとか、それっぽい感じのことを言って説得してみた!もちろん家族にバレた時には責任は問われないという署名も渡して!


変装して登校なんて知ったら、絶対家族は、とくに兄達は反対して、国に連れ戻されちゃうと思うんだよね〜。なので!!絶対秘密で学園生活を満喫する!!


変装っていっても、魔法で髪色を金から、母のような薄い茶色にして、瓶底メガネでしょ〜。あと髪型は両側のおさげ髪っていう、お忍びの典型的な感じにしてみたよ。


どっからどう見ても、ザ・真面目ちゃん。控えめな感じで良いんじゃないかなって我ながら大満足であ〜る。

明日の入学式がめっちゃ楽しみ〜!!





それは1枚のスチール画のようだった。



初登校して、入学式の会場に向かっている最中、渡り廊下に生徒会の集団かと思われる先輩方を見つけた。

先頭にいるのが、正統派の王太子である、金髪のレオナルド。左右に、頭脳派の宰相の嫡男、銀の長髪のユーリス。ワイルド担当の騎士団長の嫡男、赤の短髪のドミニク。その後ろに控えるのが、ヤンチャ担当の魔法団長の次男、青髪のバルト。そして、仔犬系の外務長官の嫡男の栗色のロナルド。

彼等が通ると、そこらからキャ~っていう歓声が上がって、まるでアイドルみたいだ。


 フフフ…!どうして詳しいかって??それは私もミーハーだからね〜ドヤ〜。これでも一応は王女として、隣国のこととか勉強してますしぃ〜何より!!今をトキメク話題のイケメン情報は、うちに勤める侍女達が詳しいのだ!


私も野次馬になって、彼等が通るのを通路の脇に避けて「キャ~」みんなと一緒に騒いでいた。アイドルは皆で愛でるもの!!どの世界でも共通事項だ。


そこに突然、ピンク色のふわふわした髪の少女が飛び出してきて、彼等にぶつかりそうなった。


「おっと。君、大丈夫かい?」

先頭を歩くレオナルド様が、咄嗟に受け止めた。


「す、す、すみません!」

少女が顔をあげてレオナルド様を見上げると、2人は時が止まったかのように、見つめ合ったまま動かなくなった。


まるで1枚のスチール画のよう、だがしかし!!


私たちは何を見せられているのでしょう。

んと……、ここは学園ゲームとかなのかしら??


「ちょっと、そこの貴女。新入生かしら?」

ベリベリっと2人を引き離し、割り込んで来たのは、立派な縦巻きロールのお姉様。


 カ、カ、カッコイイ~~!!


わぉ~~黄金縦巻ロール美少女、迫力があるなぁ。

きっと悪役令嬢の立ち位置の彼女は、レオナルド様の婚約者である公爵家のエリザベス様だ。キリッとした顔立ちと所作が素敵で、女性陣はエリザベスに惚れぼれしちゃうのも分かる。


アイドルの野次馬として、周りにいる女性陣の心の叫びの代表である。


 イケイケゴーゴー!!やっちゃってください!!


「貴女。周りが見えてないのかしら?飛び出すと危ないのよ。右見て、左見て、もう一度右を確認してからにしなさい」


「…………、…、はい?」

ピンク色のヒロインポジの彼女も、キョトンとなって反応に困っている様子だ。


 ち、ちがーーーーう!!!!ちがうのよ!!

 そうじゃないのよ〜エリザベス様!!

 問題はそこじゃなーーーーーい!!!


それは道路横断の仕方であって、それだとレオナルド様はトラックか何かになってしまいます!!


まさかのエリザベス様は天然キャラであったか……。天然キャラは貴重でかなり可愛いらしいが……。


 あーーーーー。もう!!!

 この微妙な空気がツライ!!見てられないわ!!


私は列から一歩前にでて、ピンクのヒロインキャラに向かって、ビシっと指差して言い切った。


「あなた!!1人だけ抜け駆けしようとは言語道断。アイドルは皆で楽しむものよ。誰か1人がぶつかって認識して貰えるなら、今後みんな突進する人が多発するのよ!!分かって??」


それを聞いて、ハッと息を呑むレオナルド様達。そう、一度そういうことがあれば、皆もやりたいに決まっているのだ。行く先々で今後突進してくる令嬢が続々沸いてくるのを想像したのか、みな青白い顔に変わった。


辺りを見渡すと、みんな令嬢達が獲物を狙う猛獣みたく目をギラギラさせてる。


そんな様子に気付いたレオナルド様も、一歩下がってヒロインから距離をとった。これが慣例化されたら大変だと、理解したらしい。


「エリザベス、心配してくれてありがとう。一緒に行こうか。」

レオナルド様は婚約者のエリザベス様に笑顔で手を差し伸べ、優雅にエスコートをしながら、また会場まで進みだした。


 よしよし。これで一安心だ。


肩の力を抜いてホッと息をつくと、周りからワッ賞賛の声と拍手され、皆にガシっと握手を求められた。どうやら、皆の心の叫びを代弁出来たみたいだ。良かった良かった。


しかし、これをきっかけに私の平穏な学園生活の予定が!!


お読み頂きありがとうございます。

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