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エクスカリバー

7話です

「練潔執行隊、対象の無力化を開始する」

 その瞬間、小瓶から火が噴き出し手を包んだ。そして火はゆらゆらと手から伸び、剣の形状に変化した。

(無詠唱だと?いや、それは不可能なはず)

「……どんなトリックを使った。無詠唱の魔術行使は不可能だし、時間差にしても魔術は発動できないだろう」

「トリックなどではないさ。洗礼十字師団は我々の後方支援を行う福音浄化隊、全線で戦う我々練潔執行隊、そして我らの魔術の詠唱のみを担当する特化部隊、詠唱聖歌隊に分けられる。詠唱聖歌隊は隊員一人一人は、自身の魔術を詠唱に特化させている。それでこういった無詠唱まがいの芸当が可能になる」

 隊員は炎の剣の切っ先を藤次に向けた。

「さて、解説も終わったことだし、大人しく拘束されろ。異端の魔術師」

 藤次はその発言に僅かながら反応した。それは藤次を、この場にほんの少し留まる気にさせた。

「……時間は掛けてやらないぞ、三下」

 藤次は腰を落として構えた。

「へえ、まさか丸腰で戦う気とは冗談が上手い」

 藤次はそれに答えることなく、地面を蹴って目の前の隊員に突っ込んだ。それに隊員は炎の剣を構えたが、予想外の動きに思わず圧倒された。

(速すぎる!略式詠唱の時点で大佐の出力を超えているのか?)

 その時、藤次の身体能力は常人の20倍にまで上がっていた。藤次はギリギリかわす隊員を無視して、反対側の建物に飛び移った。そして足を止めるとすぐに振り返った。

(距離を取った?何をするつもりだ)

 隊員はその間合いに何か悪い予感を感じた。

「おい、ターナー。ここ一帯の魔術防護に漏れはないだろうな」

 ターナーと呼ばれた隊員は炎の剣を下ろすと、端末を確認した。

「触覚プロテクトも使ってるんだ。これ以上ないほど完璧な状態さ」

「そうか…」

(あそこから部屋の荷物を取りに戻るとしても距離が遠い。それに別動班もその荷物を回収しに向かっている。奴の取りうる選択肢はそう多くないはずだ……)

 隊員はいまだ動かない藤次を見据えるとその動向に注目した。

 藤次はホテル屋上で藤次を待ち構える隊員たちを見ていた。

(一度距離を取ったが、これからどうする。相手は俺よりずっと対魔術師戦に慣れた、BCDの戦闘員たちだ。それが複数人も魔術を使用して俺だけを警戒している)

 藤次は懐の本を思い出した。

(戦闘用の触媒として機能するのはあと一つ。それも日本語翻訳の第6版。触媒としては弱いが、これを使うしか状況は変わりそうにないか…)

 それに時間も無い。レインが待っているのだ。彼女はどうしても助けたい。ただ漠然と湧き上がる衝動だった。その感情を、藤次はまだ知らなかった。

 藤次は周囲を確認した。どうやら特殊な魔術防護がなされているらしく、効果範囲内の物理的ダメージは無効化されていた。さらに一般人が魔術行使を目撃する心配も無い。昼間の市街地戦に対応しているのだろう。少なくとも建物や一般人が巻き込まれる心配は無さそうだ。

(……タイミングは今しかないか)

 藤次は小声で詠唱を開始した。

『彼の地に降り立つは大いなる神性 往きて四方は導かれ、刻む時は停滞せん

 その誓約に従い 聖なる光は…』

 それと同時に懐から本を取り出すと、とあるページを開いて片手に持った。

 それを見たBCDの隊員たちは、すぐにそれを阻止しようとした。

(本!触媒を展開したのか!)

「行くぞ!詠唱を完了させる前に無力化させる!」

 隊員たちは炎の剣を構えて屋上から飛びあがると、藤次に向かって一斉に切りかかった。だが、一歩遅かった。

『清書光臨』

 その言葉と共に、藤次は右手に持っていた本のページを空いた手で触り、何かを握るしぐさをした。そして、切りかかってきた隊員たちを避けるように屋上から飛び降りた。そして、何かを握りこんだ左手を本から引き抜いた。

「なんだと!?」

 その手には、一振りの剣が握られていた。藤次は地面に着地すると、すぐさまホテルの中に入った。

「まずい!別班の連中に至急連絡しろ!屋上から取り逃がした!」

 屋上の隊員たちは先回りするようにホテルの途中階のガラスを破って中に侵入した。


(なんとか成功したか。あとはこれがどれくらい保つのか、だな)

 藤次は非常階段を駆け上がりながら左手に持つ剣を横目で見た。藤次が具現化したのは、日本語翻訳版『アーサー王物語』の第7版で、手に持っている剣は作中に出てくる聖剣、エクスカリバーであったのだ。その輝きはメッキのように安っぽく、刃もガタガタだった。

(原本とはかなりの違いがある以上、強度や切れ味、魔力的威力もあまり期待は出来ないだろう)

 切り合いはできるだけ避けたい。そう思ったのもつかの間だった。非常階段を上がり最上階の扉を開けた瞬間、藤次は腹部に向かって発砲されていた。

「ッ……!」

 藤次は間一髪、エクスカリバーで撃ちだされたゴム弾を両断すると、強い衝撃を手に感じながらよろめいた。

「今だ!間を置かずうち続けろ!」

 BCDの別働班は、携帯していた自動小銃を藤次の首から下を狙って打ち続けた。

(まずい、焦った…!)

 藤次はまたもや数発、弾を切り伏せた。それでも防ぎきれなかったゴム弾が体を掠めた。さらに一発、みぞおちに弾が当たった。

「ッ……!」

(これは……)

 藤次はその場に膝をついた。

「対象に命中!効果あり!」

「そこ2人、拘束具を持て!」

 そして数名の隊員たちが藤次の元にゆっくりと向かってくる。藤次は剣を床に突き刺すと、それを支えになんとか立ち上がった。

(この状況……一撃で全員を倒すしかないのか)

 そして剣の切っ先を目の前に向けると、両手で柄を握った。

(できるだけ的を絞る!)

 藤次は意識を剣に集中すると、魔力を一気にその刀身に流した。

(この途方もない魔力は…!)

「まずい!」

 それに気づいた隊員たちはすぐ立ち止まったが、すでに手遅れだった。藤次の込めた魔力はエクスカリバーを介して指向性を持ち、魔力の巨大な渦となって廊下に立つBCD隊員たちを吹き飛ばし、ホテルの外壁をぶち抜いて巻き込まれた隊員たちを外に排出した。後に残るのは細切れになったカーペットやぼろぼろになった壁だけだった。それと共に、一気に膨大な量の魔力を流されたエクスカリバーは粉々に砕けた。

「上手くいったか!」

 藤次は隊員たちがいないことを確認すると、

(急いで荷物を取りに行くぞ)

 荒れた床を走り最奥のスイートルームにたどり着いた。藤次がカードキーでドアを開けると、室内は手つかずの状態で残っていた。

(なんとか間に合ったのか……)

 藤次はすぐにクローゼットから荷物を取り出し、触媒となる本をコートに入れた。

(今日中にはけりをつけたい。まずはレインの居場所を突き止めて救出する。その為には……)

 藤次は何事かを考えると、すぐさま魔術を使ってその場から姿を消した。

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