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7.光の始まり


 サロンサロン、と唱えながら廊下を進む。呼んで返事が返るわけではないけれど、なにか効果はあるかもれない。だって、ゴーストがいるのでしょう? この城には。


 なんて。自分で考えたくせに、廊下の影が怖くなった。

 うぅん、大丈夫よ。世紀の霊能者、ミス・マイラにも呼び出せなかったゴーストよ? 私ごときに、なんの用もないはずだわ。たぶん。


 果てまで歩いたかと思うくらい歩いて、やっと明かりの漏れている扉を見つけた。そう思って見れば、見覚えがあるような気がしてくる。

 不親切だわ。ドアにプレートくらいつけておいてくれてもいいのに。新米のメイドさんはどうしているのよ、いったい。


 間違っていたらそのメイドさんのふりをして逃げ出そう、なんて服装の違いなど頭から追い出した作戦を練りながら扉を開いた私は、……本当に部屋を間違えたかと思った。


 エリオットじゃない。だけれど、知っている横顔。良く、知っている……。


「メアリーアン」

「フレディ? どうしたの?! どうしてここに? エリオットは?」


「トレイを置いて、メアリーアン。こぼれているよ」

「あ、はい」


 少々ポットからこぼれ出たお湯が走ってしまっているトレイをテーブルにおろし、私は急いで考えた。

 さっき。私を見て驚いた。エリオットを訪ねてきたお客様って。


「エリオットはロンドンに向かったよ」

「ロンドン?」


 私を置いて?


「モンタギューの事件が解決したんだ。逮捕が、この近くの町であって……。エリオットは初めから事件に関わっていただろう。だから、知らせに」

「あ、そうなの……。それで」


「事件前後の詳細がまた必要になるだろうからと言ったら、警部もあっさりと許可してくれた」


 霊能者の記事を書くのが本職ではない、腕利きの事件記者のエリオットは、モンタギューの事件の発見者のひとりということも会って、以来ずっと捜査の進展や分析を書き続けていた。犯人が捕まったのなら、それはその場から参加したいだろう。


 私はフレディに知らせてくれたお礼を言おうとして、


「もう、ヤードの車に乗っている頃だ」


 その声の低さに、すべての言葉を飲み込んだ。


 すぐにわかるはずのことだった。おかしい、と。

 事件解決の知らせを運んできた警察の人間が、この場に残る意味はなんだろう? まだいろいろと後処理だって残っている。


 こんなところでこんなソファに座り、私が入ってくるまでどうしていたの、あなた。ぼんやりと、ボルドーの絨毯を見ていたわけじゃないでしょうね。


 お茶、お茶をいれよう。そうだわ、ジェラルド様がブランデーの話を、確か。


「メアリーアン」


 手を、引かれた。

 ……フレディ……。私の目の下に、彼の金の髪が見えるなんて、とてもおかしな感じがした。自分の頭が、まるで重たくてたまらない荷物だというように、私の腕に。


 前から思っていたことだった。こんな仕事をするには彼は、――考え過ぎている。この事件がどんな解決をフレディに見せたのだろう。どんな悲しい現実を。


 どうしてこの人は、こんなに背負い込んでしまうのかしら。なにもかもを見透かしてしまう。見えてしまっていて。

 どうして。


 ――きらりと、なにかが光るのが目の端に映った。

 窓の外。夜風に揺れた白いカーテン。雲の隙間から幾筋もの月の光が射し、白い茶器に反射をする。

清けき、月の……。


 こうしているだけで、私があなたの悲しみを吸い取ってしまえるのならいいのに。あなたの涙を消す魔法を知らないで、どうして私は生きているんだろう……?


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