5.いま流行りの交霊術
レースのカーテンは風に揺れている。心地好い風だ。草原を音を連れて渡っていく。さらさらさらさ。
交霊会は通常、太陽が沈んでから始まる。ゴーストの好むとされる、黒い闇。
純白のテーブルクロス。不思議な夢へと誘う、ジャスミンの濃い香り。
ジェラルド様は、どうしてこのようなまねをしてみようと考えたのかしら。
ミス・マイラは格別の美人というわけでもないし。お屋敷内から、ゴーストに悩まされていると苦情が出たとかかしら。あるいは、ジェラルド様自身が、幼い頃に見てしまったとか。
なんと言っても、歴史を持つ城だもの。どんな陰惨な過去があったか知れやしない。
無差別に呼びかけて、団体様がお着きなってしまうなんてことはないのかしら。それとも、無差別ではない、のかな。ミス・マイラはなにか特別な事情を聞いていて……?
キャンドルの灯りで、すべてはぼんやりと浮かび上がる。ミス・マイラの祈る声が私たちを押し包んでいる。異国の、言葉。聞いたことのないほどの、はるか遠い国の言葉。
永遠に続くかと思われたそれに、私が本当に夢うつつになりかけた頃、幻想のような現実のような、ミス・マイラは呪文を止めた。
丸テーブルの対称の位置に座っているジェラルド様が、ぴくりと体を震わせる。
もうこれ以上は、というような緊張感。空気がひび割れて行きそう。
なにか。
なにか、白いものが空中を舞った。
ひらひらと、空気を踊り、テーブルの上に降りる。
――花びら。
白い花。白い、……バラ……?
「ここまでに致しましょう」
霊能者は低い声で、そう宣言した。
不思議。私の国の言葉だわ。
「これ以上続けていても意味はありません。私の力は及ばないようです」
「それは」
テーブルクロスの白よりももっと白い花びらを、ジェラルド様は手のひらにすくい上げた。
消えない。幻ではない。現実。
魅入られたように、視線はそこに据えられる。誰もがその花を見ている中、私は、ジェラルド様のなにかに耐えているような様子が気になって、彼ばかりを見ていた。
「なにかは存在するが、呼び出せはしないということですか」
「私には薔薇がすべてです」
すべて?
「白い薔薇。それがかの人の祈り」
祈り……。
ミス・マイラは。流暢な英語で続けた。真っ直ぐにジェラルド様を、その琥珀の瞳で見つめながら。
「答えは出るはずです」
「答え?」
そして、最後のこの言葉は、目を伏せて口にした。『だれか』。他の人。
「声を聞く人は、きっと、現れるわ」
ここにはいない八人めに話しかけるみたいに。悲しみをたたえた声は、私にはそう思えてならない。
かの人。祈っている人とは、……誰?