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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白猫の使いの待ち人

作者: 愚直や さとよ

えーと、どこから話すか難しいな。

えー・・・ある所に1匹の白猫が居ましたっと。

その白猫はな、町が見下ろせる位に高ーい位置にある神社の賽銭箱の上でちょこんと座っているんだ。

それだけでもイケメンだろ?

え?賽銭箱の上に乗ってるなんて失礼だろって?

まぁ、聞けよ。


その白猫はな、一見ただの白猫のように見えるかも知れないが、よーく見てみると尻尾が2つに分かれているんだぜ。

尻尾が二又に分かれた白猫。

お前はそこから連想するに化け猫だって思ったんじゃねーの?

違うっての。

俺はこの神社に世話になってる「神様の使い」ってやつだ。

この神社を見守る役割を持っている。

ちなみに「視えない奴等」には俺は視えないぜ。

「視えない奴等」って何かって?

あー・・・お化け?とかそんなんだよ。視える奴等には視えるし、視えない奴等には視えないモンなんだよ。

そんなモンなんだから詳しく説明させんなよ、面倒くせぇ。


俺は神社を見守る役割しか貰ってないから、

ただ見守ってるだけだ。

神様との条件で俺は神社から動けないからな。

そんで退屈だから目線が合ったお前に話かけてんの。

単なる俺の暇つぶしさ。

お前も暇なら付き合えよ。

次も会えるかなんて分からないんだぜ?

何かの巡り合わせで出逢ったんだ。

そういう縁は大事にしておくモンだぜ。


で、話の続きだがな。

俺は正確には「正式な神様の使い」では無いんだ。

ここの神様が世話焼きだから、役割貰って今がある。

神様が役割をくれなかったら、とっくの昔に化け猫になってただろうな。

やっぱり化け猫じゃないかって?

化け猫になってねぇだろうが。

これでも一応「神様の使い」だっての。


俺はこの神社で死んだんだよ。

人間が手を合わせたりする所でな。

そう。賽銭箱の前だよ。

俺には願いがあった。死ぬ前に願った事があってな。

神にも縋りたい程の願いってやつがあったんだよ。

そうしたら神様が死んで魂だけになった俺に神社を見守る役割を与えてくれてな、俺は「神様の使い」としてここに居られている。

願いは何かって?

俺はな、会いたかったんだ。ただもう一度。大切な奴に。

俺が飼い猫だった頃の話まで遡るぞ、いいのか?

・・・そうか。だったら教えてやるよ。


俺は元々は野良猫だった。

母猫は俺や兄弟を産んで、間も無くしてに車に轢かれてあの世に行っちまった。

子猫だった俺たち兄弟は保護団体に保護されて暫くしてから避妊去勢手術を受けて、譲渡先を探された。

兄弟は直ぐに引き取られていったが俺だけが残っちまってな。

1年いや2年くらい経った頃だろうか。

ある女が見学に来て、俺を引き取りたいと言ってきた。

俺はヤンチャくれだったし、他の保護猫達のメシは奪うし仲良くなんてしたくないから威嚇はするはで保護した人間も手をこまねいていた猫だったんだよ俺は。

可愛げの無い手のかかるヤンチャくれ猫を引き取りたい人間なんて居ないと俺も思ったよ。

実際引き取られるのも保護されてる場所に居るのも嫌だったんだ。

俺は1匹が好きだったからな。

それなのにさ、その女は「俺が私と一緒に暮らしてくれたら嬉しいな。」とか言いやがったんだ。

「この子が一緒に居たら毎日が楽しいと思うから。」ってな。

俺は度肝を抜かれたよ。


それからあっという間にトライヤルウィークが始まった。

トライヤルウィーク中は女にいかに迷惑をかけてやろうか考えた。

とことん不快な気持ちにさせて「やっぱりウチでは引き取れません。」って言わせてやろうって思ってな。

気まぐれに粗相したり、壁やカーテンで爪研ぎしたり。

俺が何をしようがニコニコしてたよ女は。

そんでトライヤルウィークの最終日にな。

その女の家に飾ってあった大事そうな写真立てを倒したんだ、敢えてな。

何で大事そうかって?

その女の母親と父親が写っていたからだ。

その女がまだ若葉の様な幼い顔立ちで一緒に写った写真が少し古そうに感じたからだ。

つまり、そこから写真が更新されてないって事だろ?

仲良くしてないとか、そんな所だと最初は思ったよ。

そんで落ちた写真立てはガラスに覆われていてな、割れちまった。

女は一瞬身体が硬直して、その後「コラ!!!」と怒ったんだ。

俺はしめしめと思った。せいぜい俺を拒否すれば良いと思った。

ところが女は「そこから動かないでね!!!もしくは抱っこしてここから離れさせるから片付け終わるまで近付いちゃダメよ?肉球とか怪我しちゃうかも知れないでしょ?そんなの貴方が痛いじゃない。」って言いやがったんだ。

俺は呆気に取られた。俺の心配するのかよってな。

俺を安全な場所に抱いて連れて行ってソファーの上におろした女は落ちた写真立てを片付けに行ったんだが、一瞬だけ切なそうにしたんだ。どこか痛そうに。

それで俺は察した。

大まかに割れたガラスを素手で拾い片付けた後は掃除機をかけて済ませていたが、俺は切なそうに女の片付ける姿を見てコイツも親を亡くしたんだなと思った。


そこからだな。俺の中で何かが変わったんだ。

片付け終わった女が写真を優しく持って見つめていたから、足元に擦り寄っていった。

ちなみに俺がこんな事をしたのは初めてだ。

女は最初は吃驚していたが直ぐに笑顔になって「励ましてくれるの?優しいのね。」って言いながら優しく俺に笑いかけた。

その女の笑顔を見て俺は決めたんだ。

この女の飼い猫になってやるって。


トライヤルウィークが終わり正式に譲渡が決まってから俺は女の家族になった。

新しい名前も貰った。「桃」だってよ。理由は長生きして欲しいかららしい。

「虎」とかもっとカッコいい名前があるだろと不満には思ったが直ぐにその名前が身体に馴染んだよ。


粗相は辞めた。俺専用のトイレでする事にした。

壁やカーテンへの爪研ぎも辞めた。

ダンボールの俺専用の爪研ぎで爪を研いだ。


女が寝る時はいつも一緒に寝た。

その内に女の腕枕で寝るのが日常になった。

女が仕事に行ってる日は暇だったが悪くは無かった。

俺1匹穏やかに過ごせたしな。

俺は満たされていた。

あっという間にに何年か過ぎて、俺はこのまま俺が先に寿命か何かで死ぬまでずっとこのまま日常が過ぎていくんだと思った。

あの時までは。


ある冬の事だ。女は死んだ。

交通事故で死んだんだ。

母猫と同じく車に轢かれたんだよ。


何で知ってるかって?

動物病院の帰り道の事だ。女と俺の住処は動物病院から徒歩2〜3分位だったからキャリーケースに入れられて通っていた。

その動物病院の帰り道に車がガードレールを突き破って女と俺に襲いかかってきた。

たった数分で住処に着くのにさ、ある意味タイミング良過ぎだろ?


女はキャリーケースに入った俺を咄嗟に抱き抱えて背中で庇う様にした。

そうしたら轢かれた。

強い衝撃が走った事だけは覚えている。

俺は軽く意識を失っていたが、救急車やパトカーのサイレンの音で目が覚めた。

俺の目の前に血を流して横たわる女。

俺はこの状態を知っている。だから分かる。助からないんだと。でも現実を受け止めたく無かった。

俺は叫んだ。叫び続けた。

「助けろ!誰か!お願いだから!こいつは俺の家族なんだ!」

周りの人間からしたらニャーニャーって言ってる様にしか聞こえないだろうけど、喉が潰れるくらいに叫び続けた。

救急隊員が俺が入ったキャリーケースをどけた。女は担架に乗せられて救急車で運ばれて行った。

キャリーケースの出入り口のロックがたまたま外れていて俺は逃げ出す事が出来た。


俺が向かった先は病院では無く神社だった。

俺は神に願った。「女を助けてくれ。」と。

何度も何度も気が狂った様にそれだけを願い続けた。

メシも食わず水も飲まずにな。

ついでにその時期は雪が凄くてな。誰も神社に来なかったよ。

どの位が経っただろうか。俺もとうとう衰弱して思考が途切れる前に「女にもう一度会いたい・・・。」と呟いて生き絶えたんだ。


泣くなよ。

単なる俺の暇つぶしで語ってただけなんだからさ。

話を聞いてくれてありがとうな。

?流石に泣き過ぎじゃねーの?・・・え?何て?思い出した?・・・独りぼっちにしてごめんねって?・・・は、え?な・・・お前、なのか?お前、生まれ変わってきたのか?・・・なぁ、お前、俺に笑いかけてくれたよな?・・・布団で一緒にお前の腕枕で寝たよな?・・・ハハハッ、頷き過ぎだって・・・・・・。

もう一度お前に会いたかったよ・・・。

良かった・・・。

神様、願いを叶えてくれてありがとうな。


なぁ、抱っこしてくれよ。

願いが叶ったからさ、あの世に行きたいんだ。

それに神様との約束なんだ。

もう一度お前と巡り逢えたら神様の使いは卒業して、あの世に行くってな。

また俺も生まれ変わってくるから。

今度は俺、お前の子供になりたいんだ。

とびっきりのイケメンに産まれてきてやるからよ。

楽しみに待っててくれよ。

なぁ、俺ずっとお前に言いたかった事があるんだ。

俺を家族にしてくれて本当にありがとう。


こうして白猫の使いは待ち人と再び巡り逢う事ができましたとさ。

「その白猫さんは幸せだっただろうなぁ。」

「どうしてそう思ったの?」

「ずっと待ってたんだよ。やっと逢えたんだよ。それに、今はこうしてママの子どもに産まれてこれたもん!僕、とびっきりのイケメンでしょ?・・・ママ?どうしてまた泣いてるの?」

「心配させてごめんね。嬉しかったの、また貴方に逢えて。産まれてきてくれて本当にありがとう。」

「どういたしまして!ねえ、ママ、ぎゅーって

抱っこして!」

「うん、いいよ。」


おわり

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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛猫を亡くした経験のある私にはとても励みになり温かい気持ちになりました。 別れが来てもかけがえのない存在はきっとまたかけがえのない存在として巡り会えると。 いつかまた巡り会いもしかしたら……
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