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怪異譚  作者: 長峰永地
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冬虫夏草・中編

 三上と後藤は電話を受けてすぐに現場に降り立った。

 距離が近かったこともあり、電話を切って15分もしないうちに到着した。

 すでに保全テープが巻かれており、その外にはやじ馬が背を伸ばして中を伺っていた。

 人垣を掻き分けてテープ前に進む。

 制服を着た所轄警官に警察手帳を見せると敬礼を受けてテープを上げてくれた。

 6人目という報告を受け、これだけの騒ぎになっているにも関わらず、三上は疑いの心でアパートに進んで行く。

 先ほど、パチンコ屋で働いていた山宮梨沙に簡単な事情聴取をしてまだ5時間も経っていない。

 それにも関わらず「6人目」と断じられたことを考えると、異常だった。

 そもそもの話、人がこれだけ連続して死ぬこと自体異常であることに目をつぶったとしても、今回の山宮が被害者になったことは異常だった。

 山宮が住んでいる部屋に入る。

 現場保全の関係からまだ遺体は運ばれていない。

 その遺体を確認して、三上は山宮梨沙本人であることを確信した。

 ほんの数時間前に、死んだ彼氏を想い、今にも崩れそうだった人間が、次にまみえたら仏になっていた。

 これが冗談であれば、どれほど救いだろうか。

「カミさん、まだ現場荒さんといてくださいよ」

 付き合いの長い鑑識、下田が苦笑いを浮かべて三上に注意した。

 三上はむっとした表情を隠すこともせず、状況を伺う。

「シモ、確定なのか?」

「そうですよ。詳しくは解剖待ちですけど、この短期間にこれだけミイラ拝んでりゃ、わざわざ切る必要が無いことも分かるでしょ」

 下田の口調は苛立ちを隠すことも無く、吐き捨てるように溢す。

 少なくとも目上の三上に放つ言葉ではないが、それくらい現場もぶつける場所の無い感情が渦巻いていることを理解した。

「昼間、この仏に話聞いてな、ずいぶん早いじゃないか」

「あー、それなら外の車に理由が青い顔してますよ。話聞いたらどうですか」

 「理由が外の車に」という言い回しに回りくどさを感じながら下田の言葉に従いアパート前に止めてあるパトカーに向かう。

 下田の言葉通り、パトカーの中で青い顔をしている女が後部座席でカップを持って震えていた。

 三上は運転席にノックをして手帳を見せる。

 運転手は扉をゆっくり開ける。

「お疲れ様です!」

「飛んで来てみたら。この子は?」

「はっ!今回の第一発見者です!」

 無駄に威勢のいい警官に眉をしかめながら後部座席の女に向かって目礼をする。

「話、聞けるか?」

「今やっと落ち着いたところです。ご配慮を」

 立場上「やめろ」とは言えないことを百も承知ながら、許可を取る。

 後藤に顎をしゃくりドアの前を譲る。頷きながら後部座席の窓を叩く。

「ごめんね、こういう状況なのわかってるけど。あ、そのままでいいよ。上からだと怖い?隣いい?」

 そのまま相手の頷きを得ると、隣に座る。

「ボクら今来たから何もわかってなくて。今日ね、山宮さんにお話聞いたんだよ。で、いきなりこうで。話せる範囲で聞いてもいい?」

 後藤の話口の軽薄さに吐き気を覚えながら、三上はこういう潜り込みも時代なのかと寒いものを感じる。

「にしても今回はすぐに知らせてくれてありがとね。山宮さんが寂しい思いしなくて済んだから」

(死んだ人間に寂しいもへったくれも無いだろう)

 さすがにこの考えを表情に出すほど三上は子どもでも不躾でもなかった。

「梨沙と通話してたんです、ビデオで」

 ぽつりと溢した。

「なんの話してたの?」

「ススムくんのこと。梨沙めっちゃ凹んでて、泣きながらやけ酒付き合ってて。あんなことあったから、仕方ないかなって」

 一旦口が割れれば次々とこぼれるのはホシも証言も一緒、三上は口を挟まず見守った。

「梨沙が『ススムのところ行きたいなぁ』って言って。返しづらいなって思ってたら急に咳き込み始めて。そしたら……」

 そこで言葉を失い、手で顔を覆ってしまう。

「そっか……話してくれてありがとう。また話を聞きに刑事が来るかもしれないけど、のんびりでいいからね」

 後藤は後部座席から降りると、三上を連れてパトカーの視界に入らない、自分の車に乗り込んだ。

「どう思います?」

「要領を得ないが、朗報だろう」

「どゆことっすか?」

 誰に憚られることも無くなった車内で三上は大きなため息を吐く。

「その通話映像を通信会社に問い合わせることができるだろ。もしかして犯人の映像が写ってるかも」

 後藤は目を丸くして赤べこよろしく首を上下させる。

「お前の方が若いのにこの程度思いつかないのか」

「それ、パワハラ取られますんでボク以外に言わないほうが良いっすよ」

 後藤はスマホを操作しながら、情報犯罪課の人間にメールを飛ばす。

「返事来ました、最速明日だそうです」

「なら、帰ろう。どうせ何も出てこない」

「あいさー」

 後藤は軽口を叩きながら車を滑らせた。


「センパイ、データ届いたらしいっすよ」

 翌日出勤するなり後藤が声をかけてくる。

「結構無理したみたいなんで、ちゃんとお礼言ってくださいね」

「ここで見れるのか」

 後藤の言葉など耳にも入らないかのように言葉を返す。

 あきれ顔でゆっくりと首を振る後藤。

「流出対策です、情報課だけで添付不可だそうで」

 三上は言葉の途中で足早に情報課へと進んで行った。


「本当に見るんですか?やめておいた方が良いですよ」

 情報課に着くと開口一番に映像を見せろと言った三上に、職員の1人が苦笑いを浮かべる。

「事件解決のためだろう。いいから」

 職員は肩をすくめ、ファイルをクリックするとPCをふたりに向ける。

 映像は真ん中からふたつにわかれていた。

 双方向の映像をひとつにまとめたためだろう。

――・――・――・――・――・――・――

『梨沙、それ何本目よ?』

『いいじゃない、今日くらい』

『だけどさぁ、明日もバイトでしょ?』

『へーきだよ、最悪休むし』

『梨沙がいいならいいけどさ』

『……なんで死んじゃったんだろ』

『その話、やめよ?楽しいこと話そ?』

『進君のところ行きたいなぁ』

『梨沙、怒るよ』

『冗談よ、じょうだ……げほ』

『大丈夫?変なところ入った?』

『げほげほっ!うえ……』

『ねぇ、本当に大丈夫?』

『……すすむく』

『ねぇ、梨沙?梨沙!?』

――・――・――・――・――・――・――


「な、なんなんですか、これは」

 後藤が真っ青な顔で職員に尋ねる。

「だから言ったでしょ、見ないほうがいいって」

 おそらくこの職員もこの映像を見たあとに同じ感情を抱いたんだろう。

 何もない空間でいきなり人が干からびていく映像を見せられて平然としていられるわけがないのだ。

 ふたりのことなど気にもせず同じ映像を何度も繰り返し見ている三上。

「センパイ、神経忘れてきました?」

「ここ、拡大できるか」

 後藤の皮肉を無視して梨沙が干からびて倒れる直前、頭の部分を指さして尋ねる。

 職員は眉を狭めながら言われた通り映像を拡大する。

 山宮梨沙の頭に何か茶色いものが生えて見えた。

「なんだ、これは」

「髪の毛じゃないですか?結構頭掻いていたし」

「色が違う。それに少し戻してくれ」

 映像を戻すとその何かは写っていない。

「やはり、直前にはコレがない。もっと拡大できるか?」

 映像をさらに拡大してみるもビデオ通話程度の画素では限界だったようで、茶色いなにかは潰れてしまって何かまでは判別しなかった。

「山宮梨沙の遺体にはコレがあったか覚えているか?」

「確認しますけど。もしかしてセンパイ、コレが生えてきてガイシャを干からびさせたとでも思ってます?」

 三上は、こめかみを押さえている。

(たしかに仏を見たはずなのに。なんで覚えていないんだ)

 三上は思い立ったように部屋を出ていく。

「ちょっと、どこに行くんすか!?」

 後藤は頭を下げて三上を追うのだった。

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