特別授業の一週間 1日目後半
私の始めての戦闘。
シンラ先輩と向かい合う。
フヨコ先輩もトウカ先輩も全力でも本気でもなく準備運動適度なノリで体力を使いきる事はなかった。
それでも、私は先輩に勝てるビジョンが湧かなかった。
そもそも勝とうとするのが間違いなんだけど、やるからには勝ちたいと考えてしまう。
「カラネさんの準備が終わり次第始めてくださいね。私はいつでも大丈夫ですので」
「わかりました。行きます。《閃光》」
シンラ先輩に向けて杖を構え、魔法を発動する。
殺傷能力のない、目つぶし目的の魔法。
本来は《光》の魔法で始めて覚えた汎用魔法。
杖を光らせていた魔法でその光を杖全体では無く、一点に絞って強烈な光へ変える事で閃光を放つ。
光った一瞬の利用して、杖の形態を変化させて飛行する。
私が空へ浮かんだ瞬間、私の腕に鋭い痛みが走り、杖から落ちてしまった。
「そのくらいの痛みは我慢できないと困りますよ」
反対の腕に痛みが走る。
痛みがある場所には長い針が刺さっていた。
「生身では無いですし、貫通していたり、毒があったりするわけではありません。多少の痛みに堪えられないまま戦場に立っていては死にますよ?」
ハンデのつもりなのか、シンラ先輩は目を瞑り、始めの場所から移動せずにいた。
そうして、シンラ先輩を見ていると手を振りかぶって何かが飛んでくるのが見えた。
私は咄嗟に魔法を発動する。
「《逃避》」
シンラ先輩との距離は先ほどより開いたものの、さっき私が立っていた場所に針が一本刺さっていた。
「そうですよ。相手の事はちゃんと視界に入れて逃がさないように目で追いましょうね。何をするのか見ていないと躱せるものも躱せませんから」
そう言いながら再び手を振りかぶった。
私はまた逃避を発動させて逃げるも、今度は腕を上下する度に針が飛んでくるので、休む暇がない。
「ずっと逃げていても無駄ですよ。時には逃げれない時もあるので、反撃する隙を見つけて逃走するなり、覚悟を決めるなりしないと、死ぬだけですよ」
それはそうなんだけど、ここからの打開策が思い浮かばない。
痛みを堪えているけど、何十本か既に刺さっていた。魔法で作られた針だったようで、時間経過で消えて、今は血が流れている。
徐々に飛んでくる針を多く速く飛ばしてくる。
「はぁ、止めだ。勝者シンラ」
私が打開策を見つけられず、シラベさんの手を叩く音で針が止んだ。
「じゃあ、カラネさん。変身を解除せずにそのままいてくださいね。今治しますので」
チヨ先生が駆け寄ってきた。
私はされるがまま治療された。
薬品を使うわけではなく、魔法で治療をしてもらった。
「シンラ、フヨコ、トウカ、カラネの事は任せたぞ」
「はい、任せてください。では、カラネさん。みっちり指導ですね」
「まったくね。1年だからともいえるけど、見てらんないわね」
「まぁ、任せな」
シラベさんは杖に乗って観客席に移動し、観客席から見下ろす。
この授業を受ける場所は学校の敷地内にある訓練場の一つで、ドーム状の建物で円状に観客席があり、アリーナの中心はコンクリートになっている。
私はコンクリートを舞台と呼んでるけど、多分違う。
私はチヨ先生に治療されながら、離れたところで話し合っている先輩方を見ながら考える。
私の手段として、固有魔法の《逃避》と汎用魔法の《閃光》、《光》くらい。
・・・一応他に一つあるけど、自己判断として少なくてもここで披露してはいけない。
改めて考えると私は攻撃的な魔法が無いな。
本当にこの状態でどうしろというんだろう。
攻撃手段は本当にもう素手か杖で叩くくらいじゃないかな。
「カラネさん、じゃあ授業を始めましょうか」
気が付くとシンラ先輩が目の前に立っていた。
いつの間にかチヨ先生もトウカ先輩もフヨコ先輩もシラベさんの方へ居る。
「これから、カラネさんには、一つ魔法を覚えてもらいます。これは、汎用魔法なので使えるはずですよ《玉》これを覚えてもらいます。その上で私が一定時間経過する度、針を飛ばすので、回避しながら頑張って覚えてください。そうですね。時間として1時間としましょうか。時間も惜しいのでカラネさんが魔法を使い始めた瞬間から始めますね」
そういって私から距離を取り、針を出現させると身の周りに飛ばしながら体に沿うように動いていた。
見とれている場合じゃないので、少し見ていてから魔法を使う。
玉は恐らく私が以前やろうとした事の延長線できること。
今なら余裕で覚えられる気がする。
えっと、足りなかったのは魔力を放出した後の魔力の流れのイメージが不完全だったこと。
だから、まずは魔力を手まで流して、手から放出する際、魔力が球体状に流れている事をイメージする。
手のひらに球体をイメージしては、初めからは難しいから指先から糸が出来て、糸を丸めて球体を生成していく事をイメージする。
魔力は糸に沿って流れて最初の魔力は最後に結びつくように意識し、球体を生成する。
何度も上手くいかず、糸が切れたり、魔力が上手く循環しなかったりと失敗を繰り返していく。
次こそ成功できるはずと思ったタイミングだった。
足に鋭い痛みを感じた。
「集中していて忘れていましたか?一定時間経過で攻撃する。そういいましたよね?油断していてはいけませんよ。一定時間経過といっても徐々に短くしていくので次は先ほどより早く攻撃しますからね」
痛みでイメージが崩れ失敗する。
~・~・~
それから一時間後。
一度も魔法を成功させることはできなかった。
絶妙なタイミングで攻撃が入ることで、攻撃に気を取られてイメージが崩れる。
イメージしながら、シンラ先輩を見て、攻撃したと思ったら回避する。
その行動が上手くできず、失敗を繰り返した。
「お疲れさまでした。今日の授業はこれで終わりです。明日は別の方が指導してくれますが、玉の魔法はちゃんと習得しておいてくださいね。それでは、さようなら」
シンラ先輩は杖に乗ってシラベさんに一言声をかけて飛び去って行った。
私も観客席に行くために杖に乗って空を飛ぶ。
この空に飛ぶことも慣れてきた。
今日の朝、もう大丈夫だろと言って、帰りは私が先に飛び、後ろからフヨコ先輩達がついてサポートしてくれることになり、その状態で帰宅出来たら、明日から一人で登下校することになる。
観客席に着地したタイミングでトウカ先輩に撫でられた。
「お疲れ様。えらいなぁ。明日はオレが担当するけど、痛いことはしないから安心してよ」
「アンタは加減が無いのが怖いけどね。根は優しいから、ちゃんと教わるといいわ。ウチは明後日。シンラ、トウカ、ウチで回して教えてあげるわ。とりあえず、今週の最後に一度確認テストじゃないけど、もう一回模擬戦闘するから、それまでに戦略を考えておきなさい」
フヨコ先輩は言いたいことを言うとチヨ先生の元へ行ってしまった。
次いでシラベさんがちょっと怖い顔をしてきた。
「カラネ。今日はこれで終わりだが、私からのキッチリとした指導も必要だと感じたから、その日の特別授業の内容次第だが、放課後補習を行う。内容はまだ初回の授業を迎えていないかもしれないが、簡単に言って授業で習う座学を先行して教える。まぁ、場合によっては実習も行うが基本的に後で習う事を深堀りした事を話す。まぁ実際に受けるまでわからないだろうから、今日は帰ってしっかり休め」
シラベさんはそう言って、杖に乗りこちらに手を振って去っていった。
「じゃあ、ウチ達も帰るわよ。カラネ。先に飛びなさい」
結果として、帰宅することがきちんとできたので明日から一人で登下校できるようになった。
よく考えたら、先輩方の時間をたくさんいただいているから迷惑過ぎないか、気になって聞いてみた。
「そもそも、3年になると殆ど戦ってばかりで自主練か戦場にいるかのどちらかだ。戦っていない奴は、後輩の指導か保護したものの面倒みをする。上級生として下級生の指導や保護したものの面倒を見るのも経験として必要なことだし、将来その子が育ったら自分のチームに引き入れる事がしやすくなるから、オレらにとってこれはカラネ、キミをチームに引き入れる準備や教育は中々いい経験となっている。こちらとしてとても助かる事ばかりだし、下心は多少なりとも存在するから気にしないでくれ」
そういわれたので、胸を借り、先輩の背中を見て育つ気でお世話になる事にした。




