第1章
「そこのお嬢さん、足を止めていただけると幸いです。」
「えぇ?」
少女が駅舎を出た途端に呼び止められました。
少女がさっと向きを変えて見えたのは、丸いガラスがくっついた箱を掴んでいる男の人です。
「バリント・ヤーノスといいます。お嬢さんが買った新聞に所属する記者です。」
「新聞?ああ、ル・プティ…ル・プティ・ヴィラージュワ新聞のヤーノスさんですか…」
「バリンドは下の名前ですよ。というよりお嬢さん、これから付き合っていただけるのでしょうか。」
「ヤーノスさん、観光案内なら受付期間外ですわ」
「ご返事をお待ちしておりましたが、頂かなかったですので直接ド・ルプレイヌ=ド=メお嬢さんの所に伺いました。」
「魔王城の所蔵品は見せません!しつこかったらそこの写真乾板をぶっ壊してあげようかしら」
少女が思い出しました。4月下旬にル・プティ・ヴィラージュワ新聞社から手紙が送られましたが、自分が再購読のチラシ広告と勘違いして捨ててしまって、どの内容が書かれていたことをちっとも知る機会がありませんでした。
「そんなことはいつでもできますが、今回は別の用件です。にしても、この辺りにイッポモービルがございませんか?」
「イッポモービル?りんご?」
「それは、ラ・シテの道で手を揚げたら、行動機械が止まって運んでくれるサービスです。」
「りんごのような行動機械を使っているの?」
少女の目がキラキラしています。
「私の仕事を手伝ったら、ラ・シテまで連れさせてあげますよ」
「ごめん…私、バイトが入っているわ」
「堂々たる魔王の末裔なのに、哀れなことですね。ならば、5000リンジー差し上げましょうか」
「ん!」
「具体的には…」
「ポッポー」
「…ということです」
少女が逆光線と汽笛の原因で男の人の言ったことを聞き逃しました。




