第½章
「数年前、サン=エティエンヌ=ブルティノー自治領を旅行に行ったことがある。汽車で行くのではなく、徒歩で、背中にバッグを背負い、手には硬い棒を持ち、大人しく話の少ない仲間を傍らに置いて歩くのである。線路と伝信線に分断された景色しか見ることのできない旅は退屈からだ。」
「今でも幸せな気持ちで思い出せるのは、とある朝、礼拝しに訪ねたブルティーノ地方の村のことだ。通りには誰もおらず、家々は閑散としていて、数人のお年寄りが戸口の前で日向ぼっこをしているだけであった。しかし教会は混雑してあり、明るいロウソクがステンドグラスに美しく消え入りそうなバラの色合いを与えていた。緋色のロープを着た聖歌隊の子が、パン屋から火を借りに、香炉を手に捧いて、広場を素早く横切っていた…」
「おーい!何んで勝手に立ち読んでいるんだ!1リンジー20センも払えないのかよ」
「あばばばばっ!ごめんなさい!ん…その…アデレ・ブッフ初期作品選も一冊ください」
「にしても、新聞なのに、アデレ・ブッフのエッセイも載せていて、読みたくて貯まらないわ。ああ、また30リンジーが飛んじゃったわ」
少女が紙袋を持って、溜め息をしながら、ラ・ウネから出ました。




