第3章
「翼っこ、またあさってね」
カルデさんがバスよりサイズが小さい行動機械に乗り込みました。
「…うん、ガルデさん、またあさって」
快晴した夜なのに、涼しい風を浴びているのに、少女の顔が濡れています。
「シンメイさん…」
街灯が照らした道で、一人の少女が自転車に乗って町を走ります。日が暮れて、街灯が薄っすらと光を放ち、細長い人形のような影を照らします。
「永遠に有効な乗車券を買って、終着地のない列車に乗り込みたい…」
時々、ライトのついている行動機械が、少女の横に通って、少女の翼を風をおこして振りさせます。行動機械が少女より数倍早い速度で消えていきます。
「行動機械が嫌だ」
「シンメイさん…」
少女が「ルネ・デルクール クリニック」という看板のある白く塗られている木の質感を真似した石造建物の入り口前にとまっています。 診療所のビルです。入り口が閉じています。少女が頭を窓の前にいっこずつ突き出してみています。
「ここじゃないわ…」
少女は自転車に乗っています。ラングラード川を跨いだ橋を通っても、よそのきれいだった景色を1ミリ秒も見ていません。
いつの間に、少女が複数の建物の群れに囲まれました。建物の間に、石の柱に「ジャン=アントワーヌ病院」という文字の入った看板が立てています。
周りに一目見れば、どの建物も、入り口が閉じています。
「シンメイさん…」
少女が自転車に乗りながら、建物の群れをうろうろ回ります。
そのとき、向かいに高い帽子を被って、オイルランプを持っている男の人が歩いてきました。
「こんな夜遅いに何をしている?!不審者か?憲兵さんに移送するぞ」
「あのう…すみません!カクシンメイという人がここに入院していますか」
「今は見舞いの時間じゃない!速やかに敷地内から立ち去りなさい。」
「ん、うう…」
少女が男の人にしかられて、自転車で立ち去りました。少女が進んだ道に、時々涙のつぶが地面に落ちます。




