第1章 (5月1日)
ざあざあと雨が降ってきました。少女は目が覚めました。この音気持ちいいなっと思いきや,雨粒がぽたっと額に落ちてきました。
「あかん!バケツを置かないと…」
少女は慌ててベッドを降りました。浴室に入って雑巾をとって、あちこちでデコボコが現れる古びた木製フローリングを拭き始めました。外が人群れの声で賑やかです。また魔王城南高校の入学式かと少女が思う。
「そういえば私、今年も高校生になるもんね。合格したらな」
少女が独り言をしながら浴室に戻って雑巾をしぼります。
「ユージェちゃん!起きてー」
窓外から元気な声が届いてきました。郵便員のボネさんだ。少女は作業を中断し,鉄筋加固された古びた木造階段を2階降りて,巨大な鉄ドアが立っている立派な玄関を抜けて,反対側にある人並の高さしかない木造ドアに向かいました。
「入学おめてどう!」
レインコートを着ているボネさんが微笑みながら華やかな1件の手紙を少女に渡しました。
少女は嬉しさを隠さずに手紙を開きました。
「ジャンヌ=ユージェニー・五月・ド・ルプレイヌ=ド=メ殿、ご合格おめてどうございます…下記の時間に下記の場所に学生登録してください…5月1日って今日じゃないか!何でこんなに遅いの?!」少女は少し怒りながらボネさんにじーっと見る。
「ニュース見れば分かるのだろう?あ、ユージェちゃんが新聞の購読をやめちゃったのね。」
ボネさんは苦笑いながら説明している。
「実は連邦郵便の労働組合が計画ストライキに入ったのよ、おっとっと、もう1件郵便があった、今もう使わない住所表記だけど、この辺に魔王城を称している所はユージェちゃんちしかないのね」
「魔王城か…」
少女はため息をつきます。
「下ブルティノー税務署…マーシャンおじさんちのとこに行くしかないのか」
「世知辛い世の中ね…じゃ私はこれで」
「またあとでボネさん」
少女はボネさんのレインコートが雨の中に消えていく後ろ姿をボーと見ながら雨の中に立っていました。
濡れた手紙が机の上に置かれています。
「ジャン=フランソワ・ド・ルプレイヌ=ド=メ殿 前略 貴殿に対し以下の通知を致します…尚,本通知書到達後180日に本通知書記載する固定資産税を未払い分が残る場合は,△△連邦○○法☆☆条第××項に基づき, 本通知書記載物件を強制競売致します…」