第12章 (6月17日)
6月16日。夜の明け方に。列車はまだ走っています。
だらりと翼を垂らしている少女に、シアナさんが彼女を近づいて、耳に泡を吹きます。
「むにゃ!」
「翼っち、やっと起きた!まもなく降りるぞ」
「いまどこかしら?」
「シェロン=自由通り操車場を過ぎたとこ」
「何駅?」
「駅じゃないんだ。ちょっと待って、偽爆破魔のお兄さんはどうやって説明してくれたっけ…」
「まだ着いていないのだろうが…」
「さっさと準備しないと、魔王軍の凱旋するシーンに間に合わないじゃないか」
「県外に行っただけなのに?」
「いけない!魔王様は遠征のことをなんと…」
「もっぱらカオスのもとにあさイチ相手にしたくないわ」
どうやら時刻表に存在しない特別な貸し切り列車ですから、普通列車よりも早くつくらしいです。
シアナさんが、止まった列車の窓そとを眺めて、こわばってきました。
「ふぇぇぇー、前言撤回、これは凱旋ところが、亡命に発展しかけるシーンだ」
シンメイさんが微笑んでフラットホームに立っています。
「お帰り。シアナが逃げた3日間は、店の野菜洗いから盛り付けまでずいぶん人手が足りてないわ」
「無礼な!うちは魔王軍の…」
列車から降りたシアナさんがそらっとぼけたふりをしました。
「問答無用。っていうか男のにおいがひどくない?そんなのはシアナに早すぎるのだろうか」
「ふぇぇぇ、これは、うちが不審者を退治したから」
「はいはい、着替えてまた学校に行くわ…ではユージェ姫よ、また学校でのおあいしを」
シアナさんがシンメイさんに手提げかばんのように持っていかれました。
「寒い!はい?私に話をしていたかしら?」
少女はフラットホームに立ったまま数十秒経ちましたが、屋根から水滴が落ちて、やっと寝ぼけから覚めました。
「あかん!私も魔王城に帰って着替えないと…きゃ!」
「お!水たまりのさざ波もきれいで次から次へと…見事な平地つまずきだ」
少女のすぐ隣で「転倒注意」の看板をフラットホームに置く朝番の駅員からのコメントでした。




