第9章
「またお会いしましょう」
列車の中、窓越してフラットホームで駅員と揉めるリアドさんと見送りしてくれたエリアーヌさんとトルステンジャックさん2人に手を振ってあげながら、下等列車のシートと背もたれに翼が圧迫されないように姿勢を調整する少女は、さみしそうな顔しました。
「何しているの?」
大人しく座る少女の前には、揺れ幅の大きいシアナさんです。
「エアチェロだぞ!乗り物酔いを防ぐ方法の一つは、同じ幅で自分が震えてシンクロするこどだ!」
ふざけたことばを言いだすシアナさんに慣れている少女は、頭を上げずに、書いたものを整理しています。
先のカーブを通ったらみちのりが3分の一、子の刻には下ブルティーノ市に戻るのだろうと、少女は思っています。
一瞬目をつぶして、再び開いたら、窓外の風景が変わって、シアナさんの声も姿も消えてしまいました。稲わらが積まれている平原に、点在する住宅が増えてきて、たまにカラスが並行して飛んで消えて、木造カーも明るい金属とぬの調になっています。
「五月さん、南栗谷駅勤務のはずだろう?どうして会社制服の姿で乗ってる?」
「最近、人手が足りないくせに、警備が強いられて…」
「先週の列車爆破事件は大騒ぎとなったのね。早く犯人を捕まえたらいいのね」
「ですよね」
少女と話しかけた人は話を続けず、手慣れているように携帯音楽プレーヤーの磁気テープを取り出して、裏返して、イヤホンをつけました。ヘヴィメタル特有な音色が漏れてきます。
「次は、佐伯ニュータウン中央」
車掌のアナウンスが聞こえてきました。少女は、次の駅で後退して折り返しの列車に乗る予定です。
「理想郷を求めている人は、批判されがちなのか?」
ばつが悪いのが原因か、社内恋愛が禁じられるを理由に、告白を断ってあげた相手が、あまりにも不審なスーツケースを持っていても、少女は見逃してあげました。
「さよなら」
誰が言ったのでしょう?
「きっぷを…あと学生証も見せてください」
少女はシアナさんが2人分のきっぷと学生証を持っていることを気づきました。
「私の財布?いつのまに?検札だったら起こしてくれよ」
「いいじゃない?犬猿の仲だから」
「また誤用しているわ」




