第9½章
「帳簿を見にここに来るわけじゃないわ」
少女がル・デスフォージで帳簿のページをめぐって、退屈でしかたがありません。そして、ちらっと天井の穴としまっているドアを見ながら、自分の尻をなでます。
本の仕入れ記録と売り上げ記録を何百ページもめぐった少女が一瞬、目の前がぱっと明るくなるようになります。
帳簿の中に兵籍簿(le registre matricule militaire)が挟んであります。
兵籍簿に「サンドロ・デミィシ」という名前が載っています。退役のスタンプの上に現任市長のサインもあります。
「ル・デスフォージの店主はかつて市長の部下だった?」
独り言する少女に返事する相手がいません。この空間で今一人しかいないのですから。
他に価値のある情報が見つからなかったようです。でも、店主の苗字も「デミィシ」でありますから、ある程度、自称連邦警察の男の人の話に信じられると、少女が思います。
「あとこの穴…」
「って、私を呼ぶ理由はこれだけ?」
「頼むよ、ミローさんほどの魔力がなければ、その穴を補えないから。それに、このお守り、ぜんぜん効いていなかったわ」
「女神像か…今度はリョネルに自由落下を体験させよう。下がって、法術を使うのよ」




