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第½章 (C)
いいわけない。目の前に男の人が消えた。周りの人はその異変に気づいていない。そんなの、あり得る?
「「周り」の三つ目の文字はこれ」
「なんかいいね」
シアナは無意識に手をこする。若女将に麺をのばすのを手伝って、手がかゆくなるのと、のど部を撫でて、蕁麻疹が出そうからだ。
多分、うち皆は瓶の中で暮らす人だったかも。魔王としてもそうだ。ピザと税金に心身をむしばれる。魔王と勇者の物語に、いつも魔王が邪悪な存在に書かれているけど、そんな偏った正義は、目の前にいるたった翼の生えている同齢女子に、どうしても結びつかない。
法学のものと例えなら、魔王が邪悪という解釈は、「物語的安定性」が保護されるが、「具体的妥当性」が問われてしまう。
けど、「法学」というのは、すぐにも破壊されてしまう、脆いものだ。直接的に戦場に行かなくても、ともに戦争を経験してきた。エライオトナたちは、安易に戦争を起こしたとき、なんの「法」でも束縛されない。
「シアナ、ぼーっとしないで、片付けよう」




