第10章
夜になり、街の明かりが、人々のこまごました日常を語ります。少女が一人で書類を抱きながら、稀に1人か2人くらいすれ違う、ガラガラの石畳の道を歩いています。
「GO!GO!GOAL!」
あいきくマーシャンおじさんちにパンク修理セットが揃っていないから、仕方なく歩いて帰宅の少女の後ろに、妙な叫び声が届いてきました。
「GO!GO!GOAL!」
声が大きくなってきた。
「ボーマノワールさん?回送の仕事が押し付けられた?大変だね。」
たくさん汗のかいているボーマノワールさんが、テンダム自転車の前席に乗って現れました。
「ハーハー…ドルペヌ=ドメの姫さんじゃないか」
「いい加減に私の名前を正しく…。ウルフ・ユニ・ヴェロに向かっている?道順が同じのなら、前のカゴ、貸してもらえる?」
「一緒に乗ってくれるのか?やった!シアナさんが居たらなおさらだけど…」
「疲れたでしょ?ぶつぶつシアナの名前を繰り返して言うなら、乗ってあげないよ?」
「悪かった。行かないでくれ」
お久しぶりに爽やかな風を浴びる少女、風で服を乾かす少年がテンダム自転車に乗って無言のまま、十数分経ちました。
「テンダム自転車の回送…5リンジーで運んでいる?」
「結構いい金額が出たよ」
「一体いくら?」
「5リンジー20センだ」
気まずい沈黙が数分続きました。
「昼、ボーマノワールさんが交換してくれたラザニア、とても美味しかった」
「姫さんのアドバイス通り、シアナに声を掛けたら、彼女が返事でもせずに女子トイレに入ったよ」
気まずい沈黙がまた数分続きました。
「そういえば、ボーマノワールさんってグネルさんが好きだね」
「そうだけど、他の人に言わないでほしいなー」
「みんながこのことは公表したと思っているけど」
気まずい沈黙が再び始まりました。