幕間5-2
「事情は大体理解してきたけど」
女の子のそっくりさんが一冊の図画書を拾い上げます。表紙に “稲幸山最速伝説”が書いてあります。
「僕の世界ではこんなの禁書を持っていたら再教育収容所に収容されてしまうけど…この面から見たら…」
「気分転換で歩道で拾った空っぽマッチ箱から古市で物々交換をしたら、連環図画書をもらったことと言ったら、信じてくれるかしら?」
「その…他世界干渉仮説?ってことも信じてしまった僕にとって、不可能なことも可能性が無限だぞ」
「可能性を起こりやすさに差異が認められない全ての場合の数に対する、期待していた事象の場合と定義したら0から1じゃなくない?」
「静かに」
「オッボジュモイ!未だにその呪術が効いていると思ってるかしら?これならどうだ?一つの呪文を教えてあげよう。人に寝させる呪文だわ。 寝ろ、バリネズミも寝ろ、ネズミも寝ろ…♪ , ,」
「バカにしないで。曲調の聞こえる呪文はどこに存在するかよ」
「ノイズの化け物と戦う時に使うかもね」
女の子に失望した女の子のそっくりさんが図画書をぺらぺらとめくります。
「ばかばかしい…まって、稲幸山に行ったら…」
「私たちの世界で共通している教育はこれくらいかしら…ちょっと試算させて」
「この科目の学科委員だぞ」
しばらくすると、女の子がフーッと一息吐きました。
「成功する確率は45.82%、小数点以降2桁まで保留する結果は説得力が高いらしいけど…どうでもいいわ」
「僕は気にしない!どこでもここよりいいんだ」
「失敗したらどうなるの?アップルパイになって虚無の空間に5億年過ごすことか、ねこみみも生えて“おかえりご主人様”ばかり言う人形になってしまうか、誰も保証付けてくれないわよ」
「僕たちのパワーは能力によって決まるのではなく、僕たちの選択によって決まる。」
「タ?もうライ麦パンであんたの口を封印したい気持ちが収まらないわ…あと2日で配給券がくるけど…」
「残りの人生を峰室で過ごしたいのか、それとも世界を変えるチャンスが欲しいのか。」
「こんなにしつこいなら、あんたを追い出して、23度の夜風と添い寝することでもさせるわよ」
「こんな早く夕暮れで23度?セルシウス度?」
「ファーレンエイ度だよ」
女の子が唖然としたそっくりさんから黒い棒を奪いました。
「いい棒だ。まだ余熱があるね。これで焼き芋を作ろう」
「加熱魔法の授業だったから…僕の魔法の杖が…」
「余計な魔法だね。…ちょっと、お湯を沸かす火力がそんなにいらないわよ。私の燃料配給券が予定より早く使い終わってしまったら、責任を取ってくれるかしら?」




