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ある宇宙人の悲劇。  作者: 長曽禰ロボ子
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高校生編。

 ここに、ある宇宙人の高校時代の日記がある。

 彼は何者であり、何者であろうとしたのか。判読可能なページをいくつか紹介したい。



「本当のお父さん」

「ぼくは自分が(判読不能)であることを理解しています。ぼくは地球の平和のために戦います。ところでお父さん。ぼくはお父さんが残してくれたこの戦闘スーツを使わなければいけませんか。必ずですか。ぜったいですか。お父さんの星には恥はないのですか。どんなセンスしているのですか」

「怒らないでください。泣かないでください」

「そもそもこの胸の『S』ってなんですか。Sですよね。これ、Sですよね」

「なんで宇宙人が『S』なのですか。お父さんとぼくはほんとうに宇宙人なのですか。衝撃のラスト、ここは地球だったのだ!って今ごろ気づくのかよ的なものですか。最初から猿と英語で会話してたろあんたら的なものですか」

「教えてください、お父さん」

「逃げないでください、お父さん」



「友達とじゃれあってたら食べきる前にスティックからアイスが落ちてしまった」

「三秒ルールは通用するだろうか」

「床についていないところなら大丈夫だろうか」

「いや、そもそも、もったいないって思ったのを友達に気づかれちゃっただろうか。だっせー!って笑うタイミングを失ってしまったろうか」

「ぼくは(判読不能)なのに」

「ぼくは(判読不能)なのに」

「ちくしょう」



「ハイスクールの腕相撲大会に出た」

「もちろん、おれは(判読不能)だ。本気出すまでもなくぶっちぎりだ。でも二回戦で上級生の女の子にあたってしまった」

「勝てるわけがないだろう」

「地球人が、それも女の子がおれに勝てるわけがないだろう」

「負けた」

「本気を出した。途中からは本気だったんだ。だって負けそうになったから。でも勝てなかった」

「女の子の手って柔らかいんだな」

「ちくしょう」



「自動販売機であたたか~いを押したつもりだったのにつめた~いだった」

「ちくしょう」



「本当のお父さん」

「ぼくは自分が(判読不能)であることを理解しています。ぼくは地球の平和のために戦います。でもぼくのスーパーパワーで蜘蛛を絶滅させてはいけませんか。苦手なんです。泣きそうになるんです。だめですか、ゴキブリもだめですか」

「クロコウガイビルでもだめですか」

「だめですか」

「ちくしょう」



「あそこを脱臼してしまった」

「今週のプレイボーイのせいだ。夢中になってしまった。やりすぎてしまった」

「患部を見た看護師のおねえさんにフンと鼻で笑われてしまった」

「ちくしょう」



「いかした75年型スポーツカーを見つけた」

「もう名前も決めてあるんだ。クリスティーンだ」

「クリスティーンを譲ってもらうために、自動車整備工場でバイトしている。あとどれくらいでおやじさんはクリスティーンをおれのものにしてくれるのかな」

「だけど、おれがやらされてるのって、石炭を握りつぶして透明な石にすることなんだ」

「こんなんでいいのかな」

「エンジンのこととか、車のこと、もっと知りたいんだけどな。でもこっちが簡単だからいいかな」

「はやくクリスティーンに乗りたいな」

「ちくしょう」



「遅刻、遅刻ーーってパン咥えて走っている女の子に角でぶつかってしまった」

「そんな日本のアニメみたいなことほんとにあるんだな。救急車で運ばれていったけど、大丈夫かな」

「けっこうかわいい子だったな。数メートル飛んでいったけど」

「ちくしょう」



「ボビー・ジーンが転校してしまった。あいつんちの農場が借金だらけになってしまって、畳んでロスに行くことにしたんだそうだ。しょうがない。おれが(判読不能)だって、できないことがある」

「会いたいときにはすぐに会える。だって、おれは(判読不能)なんだから」

「たまに飛んで会いにいってやれば、驚くぞ、あいつ」

「でも、CDを貸してもらったり、ラジオの話をしたり、好きな女の子の話とか、これからおれは誰とすればいいんだろう」

「夜中に急にさみしくなって、窓ガラスに小石をあてて、出てこいよ!って誰に声をかければいいんだろう」

「さみしいよ、ボビー・ジーン」

「ちくしょう」

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