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まさみのホラー短編集

ぺとろさん

作者: まさみ

「ねえねえぺとろさんて知ってる?」


「だれ?ガイジン?」


「昔日本に渡ってきた宣教師よ」


「ザビエルのマブダチ?」


「ってほどじゃない、マイナー宣教師だったの。でも布教はおんなじ位頑張った。日本はね、その時キリスト教を信じるのが禁止されてたんだって。キリスト教は人類皆平等を説くけど、その教えが正しいなら、大名が百姓から年貢を取り立てるのはおかしいでしょ?一揆をおそれた国の人はキリスト教を日本から閉め出して、教えを信じてる人たちをすごい拷問をかけたのよ」


「ご、拷問ってどんな?」


「すっごいエグいの。逆さ吊りで火炙りにしたり水牢に入れたり……あ、水牢は知ってる?首の上まで水を満たした牢屋に閉じ込めてほっとくんだけど、座ったら溺れちゃうしでうっかり気絶もできない。そんな状況で何日も立ちっぱなしでいるとね、身体がぶよぶよにふやけちゃって」


「聞きたくない。てかなんでそんなこと知ってんの、あんた拷問マニア?」


「それほどでも」


「褒めてないし照れないで。ぺとろさんは?まだ出てこないの」


「あせらないでよ、こっからいい所なんだから。偉い人たちはキリスト教を信じるのを禁止したけど、逃げ遅れたぺとろさんはこっそり布教を続けていた。偉い人たちはまだ教えを信じてる人たちをあぶり出そうと踏み絵を思い付いた」


「知ってる、マリア様やキリストの絵を描いた板を踏ますんでしょ。踏めたらめでたく無罪放免、踏めなかったら……」


「ただ日本にいるだけのガイジンさんなら許してもらえる、船が漂着して匿われてたとか適当な理由を付けてね。でもみんなに教えを広めてたのがバレたら凄まじい拷問の末に処刑。さあ踏めとお役人に詰め寄られたぺとろさんは……」






「休みたいなあ……」


足立(あだち)まりあはクラスメイトからいじめを受けていた。

靴や上履きに傘、教科書を捨てられるのは日常茶飯事。酷い時はトイレの個室でバケツの水を浴びせられる。教室では無視されて、お弁当も皆と隔離された隅の机で1人で食べていた。


きっかけはわからない。

自分の何が悪かったのか、真剣に悩んでも結局答えは出せずじまい。リーダー格の蓼科美咲(たでしなみさき)とは格別親しくないし、何が彼女の気に障ったのかも不明なまま。


ミッション系女子高に進学したのは自分の名前の「まりあ」にちなんだのと、ただ単に制服に憧れたからというのが主な理由で、彼女本人は熱心なキリスト教徒ではない。

……が、もし神様がいるなら、蓼科美咲が車に轢かれて死んでくれますようにと願ってしまうほどに追い詰められていた。


「アナタハ ヲ 信ジマスカ」


唐突に呼びかけられ凍り付く。

全く気配がなかった。

暮れなずむ通学路に一人、虚を衝かれて振り返れば、そこには逆光に黒く塗り潰された怪しい男がたたずんでいる。

見た目は小汚いホームレス。灰色のトレンチコートを羽織り、フケと垢にまみれた格好をしている。髪も伸び放題で年齢不詳だが、肌は不潔に黒ずんでいた。


「何かご用ですか?」


できるだけ丁寧に質問する。愛想笑いに成功した自信はない。


「サア、踏ンデクダサイ」

「えっ」


その手の趣味の人?


「踏ンデクダサイ。ソレガ試練デス」


がらがらにひからびた声。

フケだらけの髪に隠れて表情は窺い知れない。


夕暮れの帰り道で、得体の知れないホームレスに踏めと迫られる恐怖に、すっかり身動きがとれなくなる。


変質者……かどうかは判断を保留するが、どう転んでも不審者には違いない。

どうする?逃げる?スマホで親に知らせる……?ポケットから出してる時間がもったいない。


追い詰められてパニック寸前、鞄を抱えて涙目のまりあ。

踏めば満足する?さっさと消えてくれる?

だったら……


深呼吸で一大決心、キッと前を向く。


「失礼します……」


遠慮がちに断ってから、うなだれ跪く男の右肩を、学校指定のローファーでほんのちょっぴり押す。踏む、と表現するには力が足りない。


まりあは他人に暴力をふるった経験がない。

喧嘩なんてまっぴらごめん。

学校ではいじめられているが、他人を傷付けるなんて発想自体が存在しない。彼女にできることと言ったら、せいぜいこの程度だ。


女子高生のローファーで軽く肩口を押された直後……


「ァア……」


昇天するかのごとき恍惚の吐息を零すや、紛れもない歓喜の微笑みで顔の筋肉が弛緩していく。


「……ッ!!」


あまりのおぞましさに足をどかすまりあに対し、ホームレスは突然意味不明な言葉を叫んで平伏す。


「襟襟霊魔砂漠谷!!」

「ひ、ご、ごめんなさい!」


痛かった?力入れすぎた?怒ったのかなどうしよ、自分がやれって言ったくせに理不尽な。


ホームレスはその場に突っ伏して動かない。


「あ、あの、大丈夫ですか?どこか怪我したんじゃ……」


どもりがちに声をかける。

コートに包まれた無防備な背中を一瞥、息を呑む。

謎の男の背には、泥にまみれた大小無数の靴跡が重なり合っていた。


この人、色んな人に足蹴にされてきたんだ……。


「ひどい」


異常な状況にもかかわらず、男への同情心が湧く。いじめられている自分と、境遇を重ねてしまったのもある。


まりあが悲痛に顔を歪めると、男がおもむろに顔を上げて彼女の腕を引く。

不意打ちによろめき、その片足が薄汚いコートの背中を踏み付ける。


「やだ!?ちが、今のは」


全体重をかけた靴裏が沈む。

アルファルトに這い蹲る男の全身がわななき、乱杭歯の間から「アァアァ」と間延びした吐息が漏れた。


変態だ……。


今度こそドン引きするまりあ。


女子高生のローファーで踏まれるのが好きな特殊性癖?

背中の靴跡も頼んでやってもらったの?

同情して損した。


直後、男が一枚の板を恭しく差し出す。ただの板ではない、表面に肌色の絵が描かれている。

鞄を盾にしてあとじさるまりあの足元に板をおき、まるで感情の読めない声音で促す。


「踏ンデクダサイ」

「な、なんですかこれ……」


待って、見たことある。

胡乱げに目を細め、男が地面においた平たい板をよく観察する。

表面に描かれていたのはとてもリアルな人間の絵だ。


日本史の教科書で見た、踏み絵と実によく似ていた。

本来板にはマリア様やキリストの姿が描かれているはずだが、男が出した板にはそのどちらでもない、やけに現代風の少女の肖像がぼんやり浮かび上がっている。


フォーマルな喪服のような、見方によっては黒いセーラーに似た服。


「えっと。土足で、ですか」


間抜けな質問を悔やめば、男は無言でうっそり頷く。


「やですそんなの」


女子高生に踏み絵を迫る不審者なんて聞いたこともないが、現実に目の前にいるのだから否定できない。


やだ。

逃げたい。

まりあは泣きたくなる。


今すぐ踵を返し、家へ逃げ帰る選択肢を却下したのは、男に無防備な背中をさらす抵抗感によるものだ。

万一追い付かれでもしたらさらに最悪な結果を招きかねない。


助けて神様マリア様キリスト様、お祈り一回もサボらなかったでしょ!


まりあが内心狂おしく助けを求める間も、男は地面に跪いたままだ。


「すいません、意味わからないんですけど……これって踏み絵?ですよね、日本史の教科書で見たのとそっくり。私がこれ踏むのに何か意味あるんですか?足ツボマッサージとか、ひょっとして売り付ける気満々……いやローファー履いたまんまじゃ意味ないか。女子高生の靴跡コレクターとか、自前の踏み絵を誰かに踏ませたくてたまらない性癖を持ってるとか?私足のサイズ平均よりちょっと大きめだから恥ずかしいな」


こみ上げる恐怖と焦燥がまりあを饒舌にする。

真空パックを被せたように周囲から雑音が消えていき、心臓が早鐘を打ちだす。

セーラー服の内にさげたロザリオを掴んで深呼吸、時間稼ぎを兼ねて隅々まで踏み絵を検め……


気付く。


「蓼科さん?」


正体不明の男のインパクトが強すぎて、平面の人物にまで意識が回らなかった。

踏み絵に描かれていたのはまりあの天敵、いじめの主犯格の蓼科美咲の姿に違いない。


「な、なんで?」


まさかこの人、蓼科美咲の知り合い?

となれば新手の嫌がらせか。蓼科美咲と不快な仲間たちがどこかに隠れ、ホームレスの男性を使い、一人とぼとぼ下校中のまりあにイタズラを仕掛けているのではないか……


今もくすくす笑ってまりあの反応を見ているのではないか。


被害妄想が膨れ上がり、弾かれたような勢いで通学路を注視するものの、電柱やポストの後ろに人影は見当たらない。

他に人が隠れられそうな隙間もなく、まりあは青褪める。


「おじさんこの子知ってるんですか。どうして踏み絵に」

「踏ンデクダサイ」

「質問に答えてください」

「踏ンデクダサイ」


会話が成立しない。

意志の疎通は言うに及ばず。

男は単調に繰り返すのみで、まりあはどんどん追い詰められていく。

板に描かれた蓼科はとても憎たらしい顔をしている。

毎日罵詈雑言を浴びせ、体操着や上履きを隠し、まりあにバケツの水を浴びせる性悪ないじめっ子。


何を拒む?踏んでくれとせがまれているのだからお望み通り踏んでやればいいじゃないか、ローファーの靴底でめちゃくちゃに踏みにじりざまあみろと溜飲を下げればいい。


仕返しをする絶好のチャンス。

現実の蓼科には取り巻きがたくさんいて太刀打ちできない、なら踏み絵の蓼科に恨みを晴らせ。


「あ……」


舌が喉に張り付いて声を封じる。

十字架をまさぐる手が小刻みに震える。


何を迷うのまりあ、ただの絵じゃない。どうしてこの人が蓼科美咲の顔を知ってるのか、蓼科美咲の踏み絵を持ってるかは謎だけど、ポジティブに考えましょ。


天に祈りが通じて、神様が復讐の機会を与えてくれたと……


神の遣いにしては眼前の男はみすぼらしすぎたが、まりあはこの馬鹿げた考えに取り憑かれ、ローファーの片足をゆっくりと踏み絵に翳す。


踏んでやれ。踏むのが正しい。踏むのが正義。罪人は報いを受けるべき。

みんなみんなそう言っている……


待って、『みんな』?


踏み絵に靴底が触れる寸前、反射的に引っ込める。セーラー服の内側にさげたロザリオに、静電気が走った気がしたのだ。


そして、まりあは見た。

見てしまった。


まりあに踏み付けられる寸前に踏み絵の顔が歪み、おぞましいまでの怒りと絶望と嫌悪、それらを凌ぐ圧倒的な恐怖が表出する。


この踏み絵、生きてる。


「嘘でしょ?」


地面に鞄を落とす。

おもわず口走り、続いて男が胸元にさげた十字架に目がいく。まりあのロザリオを逆さまにしたような、珍しい形の十字架だ。


「誰なんですかあなた、どうして蓼科さんの踏み絵を持ってるの、覗き見して描いたんですか?なんで私に踏めなんて」

「踏メバ救ワレマス」


男が無感動に囁く。

まりあは固まる。


もしまりあの見間違いではなく、踏み絵が本当に生きているのだとしたら。

あの扁平な板に、本物の蓼科美咲が閉じ込められているのだとしたら。


壊せばどうなる?

燃やせばどうなる?


かっと見開かれた目に無数に釘を打ち込んで煙草をぐりぐりねじこみ焦がして引き裂けば、何の証拠も残さず憎くてたまらない蓼科岬をこの世から葬り去れるんじゃないか。

自ら手を下さず、足で踏み割るだけで完全犯罪が成立するんじゃないか。


「わた、し」

また一段闇が濃くなったせいか、残照の加減のせいか、踏み絵の顔が蠢いて目鼻の位置が歪む。


蓼科美咲が醜い形相で泣きじゃくり、向こう側から板を叩いている。

ねえお願いここから出して出せよ出せってんだろぶっ殺すぞ……


男が無言のままコートのポケットから金槌と釘を取り出す。

片手に釘を持ち、片手に金槌を構える。何をするのか―


蓼科美咲が喉の奥の奈落を見せ、声なき絶叫を上げる。


男が高々と振り上げた金槌が釘の頭を叩き、向こう側から出ようともがく、美咲のてのひらを打ち抜いたのだ。


「ひっ!」


まるで磔刑の再現のように反対側の手にも釘を打ち、その場へ張り付ける。

ただの絵なのに、生きてるはずがないのに、釘で貫かれた美咲の手からは血が滲み、赤黒い染みが板へ広がっていく。

ぽた、板の角から赤い雫が滴る。


「コンナニ痛インダカラ踏ンデアゲテクダサイ」

「や、やだ」


尻餅を付いて這いずる。

胸元に引っ張り出したロザリオを夢中で握り締め、男から必死に逃げる。


蓼科美咲の事は確かに憎い、大嫌いだ、彼女が永遠にいなくなればいいと願っていた。

まりあの眼前で再び踏み絵が変化する、ぐにゃりと歪んで蠢く。


「踏ンデ」

「できません!」

「踏ンデ」

「絶対やだ!」


男のコートが翻る。

電柱の根元のゴミを漁っていたカラスが一斉に飛び立ち、赤々と燃え上がる空を埋め尽くす。


ぎぇあぁ、耳を劈く鳴き声。

黒く不吉なカラスたちが蓼科美咲の封じられた踏み絵にとびかかり、鋭い嘴で目玉を突く。抉る。

踏み絵からありえない声がする、悲鳴が続く、憎んでも憎み足りないいじめっ子が生きながら目をほじられる激痛に悶え苦しんでいる。


踏み絵が泣いている。真っ赤な涙を流す。


踏めば楽になるの?それが正しいの?


蓼科美咲がどんなに憎かろうと、釘を打たれて痛がる人を踏み付けるなど、まりあの良心が許さない。


「来ないで、警察呼ぶわよ!」


震える手に十字架を翳して泣き叫ぶまりあの眼前、にじり寄る男のコートが風を孕んで捲れ、ゴミ捨て場で拾ってきたような、ボロボロの革靴がすっぽ抜ける。


まりあは目撃した。

外気にさらされた男の足、その裸足裏が真っ赤に焼け爛れている。凄まじい火傷の痕。何かの模様に見える、あれはキリストの……


次の瞬間、腑に落ちた。


「あなたも踏んだの?」


自然とまりあは尋ねていた。

男の歩みが止まる。

天国に見放され、地獄からも閉め出され、この世の煉獄を彷徨い続けるしかなくなった背教者の顔。


「踏んだのね」


男の足の裏。ミミズのように醜く盛り上がった火傷。十字架にかけられたキリストの烙印。


「本当は信じていたのに、嘘を―」


二人の対峙を遮ったのは、制限速度を振り切った車の走行音。

猛烈な勢いで道路を走ってきた車のタイヤが、そばに放置された踏み絵に乗り上げる。


急回転するタイヤが踏み絵を噛む。


ばきべきぐしゃぺきぽきぺきギャぐァあァ


「あっ」


ただ板が割れる音ではない、タイヤに巻き込まれた人体が轢断され、複雑骨折する音が響き渡る。

慄然と目を見張るまりあの前で、踏み絵が真ん中からへし折れた。


断末魔が聞こえた、ような気がした。

次の瞬間ホームレスの姿はかき消え、運転席のウインドウを下げた男性が「道端でボンヤリしてんじゃねえ、危ねえだろ!」と怒鳴り飛ばす。


「蓼科さん!」


車が走り去ったあと、漸く我に返ったまりあは踏み絵の残骸に飛び付く。

生々しいタイヤ痕が穿たれた板にはしかし、何の絵も描かれていない。からっぽだ。男が打ち立てた釘はひしゃげている。

呆然とするまりあの足元へ、地面に滲み広がる血が流れてくる。

視線で出所を辿れば……


まりあは悲鳴を上げる。

胴から切断され、眼窩を血だまりに変えた美咲の死体が、地面に転がっていた。

無造作に投げ出され、空を向いた両てのひらの中心には聖痕のごとく……否、烙印のごとく黒い穴が穿たれていた。


「ぺとろさんは踏み絵を踏んだの。で、ばちがあたった」


「ばちってどんな」


「生きた踏み絵を持って次に踏んでくれる人を捜し続けるのよ、永久にね。ぺとろさんの踏み絵にはルールがあってね、閉じ込めるのは悪いヤツだけ」


「なんで悪いヤツかどうかわかんのよ。顔?」


「一発でわかる判定方法があるじゃない目の前に。踏み絵を踏ませるのよ」


「なんで踏み絵を踏んだら悪いヤツ認定?」


「ぺとろさんがそうだからよ。土壇場で踏み絵を踏んで、自分だけまんまと逃げのびた。ぺとろさんに尊い教えを吹き込まれたお百姓は誰一人踏めず磔にされたっていうのにね。彼の中じゃ天にまします我らが主の……じゃない。マリア様でもキリストでも関係ない、人の顔を描いた、まるで生きてるような絵を踏み付けにできること自体が地獄落ちの悪人の証明にほかならないワケ」


「じゃ、もし踏んじゃったら」


「アーメンハレルヤさようなら。永遠にこの世をさまよって悪人を炙りだし続けるのがぺとろさんに課された罰なのよ」


「神様に嘘吐いちゃダメだよね」


「ねー」


蓼科美咲の轢き逃げ犯はまだ見付かっていない。

後日まりあは懸命に自らの体験を訴えたが、周囲の大人には一笑に伏されてしまった。

主犯の美咲が死亡した為にいじめは終息し、まりあには平穏な学校生活が戻ってきた。

時々まりあは思い出す。

ぺとろさんが一番初めに発した、当時は何故か聞こえず、後になって口の動きを反芻してわかった問いを。


『アナタハ 何ヲ 信ジマスカ』


どんなに清く正しい聖者も、究極の二択を突き付けられたらあっさり堕ちる。


「踏み絵とは江戸幕府が実施した隠れ切支丹を見分ける方法です。主の御姿を伝道者および信者に踏ませて棄教を迫るのです。元は普通の絵でしたが、あまりに大勢に踏まれたせいで劣化が激しく、版画や木、金属に彫った肖像へと変遷を辿りました。おいたわしいことです」


日本史の授業中、教室の窓際の席にて、まりあはこっそり聖書を開く。

そこにはエリ・エリ・レマ・サバクタニ……『我が神、我が神、なぜ私をお見捨てになったのですか』と書かれていた。

磔刑にかけられた、キリストの最期の言葉らしい。


『襟襟霊魔砂漠谷』


殉教者になりそこねた背教者。

ぺとろさんは、ずっと神を呪っているのかもしれない。

自らの信仰を裏切り、罰として終わらない巡礼を続けることになったぺとろさん。

彼はあなたに踏んでもらうのを待っている。

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