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デスゲームのそのあとに  作者: たーさん
「武家の恥部」からの脱却
6/8

魔法の階位について

久ぶりに更新!


 何気ない行動、「いつもの」ようにやっただけだ。

 「いつもの」ように。

 ただ違っていたのは、その「いつもの」は、リューイではなく英人にとっての「いつも」だったということ。

 言い方は変になるけど、スィの怪我を治そうとして『ヒール』を口にしたのではない。

 反射的にやったことだった。

 本来ならただの言葉として、空に消えていくはずだった。

 でも――奇跡は起きる。

 自分の掌に魔力が収束していくのを感じ、それに呼応するように掌が光る。デスゲーム内で何度も見た優しい光。その優しい光はスィの頬を照らし、白い肌に走っている線状の赤い傷を、まるで映像の逆再生をしているかのごとく消した。傷だけでなく腫れも同時に治り、元の綺麗な肌へと戻った。

 一瞬、きょとんとした顔をするスィ。

 そして一度ゆっくり自分の頬へ手を当て、その掌を確認するように見る。

 傷は治っているので、もちろん手に血がつくことはない。

 スィは自分の手に向けていた視線を上げ僕の顔を見ると、茫然とつぶやいた。


「リューイ……様?」


「ん?」


「光魔法を――」


 「いや、いつの間にってただのヒールでしょ」と言いそうになってから、一呼吸遅れて「おかしさ」に気が付く。

 あ、そうか! 今僕は松井英人じゃなくてリューイ・ヴォルフガングじゃないか! あのデスゲームの中じゃないのに、『ヒール』が使えたなんて……

 しかも詠唱破棄。

 この世界では魔法を使う際の常識とされる「詠唱」もしていない。

 どんなことでも「結果」を出すためには「過程」が必要不可欠だ。

 そして魔法も同じこと。

 魔法を行使するために、詠唱というものが必要になる。

 僕はそれをしていない。

 スィが驚くのも無理はない。

 しかも行使したのが第3階位に匹敵するであろう回復魔法だ。

 本来であれば僕自身も信じがたいことをやっている。

 ただ、「ああ、そうか。問題なく使えるじゃないか」と思ってしまった。

 納得してしまった。

 だから『ヒール』を使ったその瞬間から、ゲーム内で使っていた魔法が使えることを当たり前のように享受したのだ。

 と、ここでこの世界での魔法について簡単に説明しておこうかな。

 無論、まだ10歳の僕の知識では乏しいところがあるかもしれないけど。

 魔法には発動の難しさ、威力、希少性などから「階位」というものが決められている。難易度の低い第1階位から、現在は使用者が確認されていないくらい強力で使用の難しい神代魔法などの第13階位まで。第4階位が使えれば戦場で活躍できる立派な魔法師だし、第7階位が一つでも行使できる実力があるならば、宮廷魔法師などの要職につくことができるくらいだ。

 一般に第1から第2階位までを初級、第3階位から第5階位を中級、それ以上を上級と区分けしている。現在、使用が確認されているのが第9階位なので、実質第9階位までが上級ということになるかな。

 では誰が何によってその階位決めているのか?

 難易度や威力で分けると言っても、なかなか客観的に分れるものではない。

 同じ日の魔法をつかったとしても、熟練度や得手不得手でその威力は違う。

 客観的に見れば見るほどその線引きは難しい。

 でも魔法の階位はきちんと決まっている。

 それは「魔法が神の力を借りて現象を具現化している現象」だからだ。

 現在確認されている神は356柱。

 それらは系統や系譜によって位が分かれており、より上位の神の力を借りることができれば、難易度の高い魔法を使うことができる。

 つまり魔法の階位イコール、その魔法を行使するために力を借りる神の位というわけだ。

 下級神の力を借りることができれば攻撃魔法や補助魔法などは第Ⅰ階位から使うことができる。だが回復系の光魔法は中級下位の神の力を借りることができなければ行使できない。だから回復の度合いが小さい「リカバリー」でも、中級下位の神、光の精霊神ウィル・オ・ウィスプの力を行使できなければならない。一番下の回復魔法でそうなのだから、いかに回復魔法の難易度が高いかわかってもらえただろうか?

 詠唱破棄と回復魔法の行使。

 だからこそスィのこの反応だ。

 普段あまり感情の起伏を顔に出さないスィが、ぽかんとした顔で僕を見ている。

 これがファイアバレットやウォーターボールといった第1階位の攻撃魔法だったらこうはならなかっただろう。

 まがいなりにも僕は魔法の大家ヴォルフガング家の息子だ。

 第1階位は行使できる。

 次期当主の座を争っている長兄が第3階位まで、長姉が第4階位まで行使できることから考えれば、ヴォルフガング家の中で僕はデキが良いほうとは言えない。

 いや第1階位を使うことができるだけでもすごいんだよ?

 これには基本的に魔法を行使できる才能をもった人が、絶対的に少ないということが理由に挙げられる。

 ギフトを授かるのは人口の3割ほどだと説明したと思う。

 それに比べ魔法を使うために必要な魔力というものは、人口の7割ほどが待っている。

 一見多いように見えるが、魔法を使うためには一定以上の魔力量がないと行使できない。

 乾電池にわずかな電力が残っていたとしても、懐中電灯がつかなくなるように、魔力が少しあったとしても、魔法は行使できない。

 その最低量以上魔力を保持しているのは3割ほど。人口の7割のうちの3割だから、ギフトを授かった人よりも少ないということになる。

 そして魔力量が多い子供ができやすいのが貴族だ。

 突然だけど貴族は何をもって貴族たらしめているのか?

 それは「血」である。

 遠い過去に偉い魔法研究家が「魔力は心臓とそこから流れる血液に宿る」というのを発見した。魔力というものを漠然ととらえていた人々は、初めてそのことを知る。そこから力のある者、権力のある者は率先して魔力の多い血か家に取り込むようになる。そうして力をつけてきたのが血統主義者と呼ばれる貴族たちだ。

 俗に貴族には「青い血」が流れていると言われる。

 前の世界でも同じことがいわれていたけれど、「それは静脈が透けて見えるほど肌が白い」ということから言われていたことらしい。ただこちらの世界では違う。こちらの世界でいう「貴族の青い血」というのは、魔力が強く宿った血のことを言うのだ。

 つまりその血――血脈こそが貴族を貴族たらしめている。

 だから貴族は平民の血が混ざるのを嫌う。

 だから貴族は名家の血筋を守ろうとするし、名家の血筋を自家に取り入れようとする。

 中には近親婚を繰り返している家もあるほど、「血」というものは貴族にとって――魔法を扱う人間にとって大切なのだ。

 全員魔法が使えて、ほとんどが魔法に有用なギフトを与えられているヴォルフガング家が、魔法の大家と言われているのがわかっていただけただろうか?

 えっと、話がだいぶそれちゃったか。

 とまぁ、そんなかんじなので、スィがとんでもなくびっくりしているわけだ。


読んでいただいてありがとうございます。

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