Happily ever after
本日2話目!
ここまでがプロローグ。
エクスリアは同時にできることが増えたり、把握できる情報が多くなったりするレアスキルで、情報の把握や分析という点で非常に有用なスキルだ。
ゲームに入る前のキャラ作成の際に選択できるスキルのうち、だれもが選択スキルをノーマルスキル、一定確率で選択が可能になるスキルをレアスキルと呼んでいる。
エクスリアはそのレアスキルではあるものの、選べるのに選ばなかった人が多くいた。
それはそうだよね。
修学旅行替わりの数日間のログインなのだから、体験するなら魔法とか剣とかでモンスターを倒していたほうが楽しい。
でもちょっと厨二病が入っていた僕は迷わずエクスリアを選択する。
だって並列思考ってカッコいいし。
そのおかげでこうしてみんなに貢献できているのだから、何が幸いするかわからないものだ。
安全に、そして着実にネームレスの体力を削り、眷属を処理していく。
ここまでは予定以上に順調だな。
「あと15秒でガンタのヘイストとけるよ! カッチとサンタはヘイト稼ぎすぎ! すこし削り抑えて! あ、ガンタもヘイト稼ぎすぎかも、10秒後ろ向きで! 次の眷属わくよ! 遊撃隊対処よろしく!」
僕は直接戦闘には携わらず、皆とは少し離れた位置で各自に戦闘の指示を出していく。
「スタン順の黒さん以外はMP回復を! 残り5分切ったら押し切る!!」
ネームレスのHPは着実に減っていき、ヘイトを気にせず一気に削れるとこまであと少し。
削り役のアタッカーが僕の指示を待ちつつ、慎重に攻撃を与えていく。
一気に削るための準備も同時進行する。
「各パーティーの白さん、プロテクトかけなおし」
「おっけー!」
「アタッカー組の詩人さん、合唱を!」
「「了解」」
プロテクトはダメージを提言してくれる補助魔法だ。
時間的にもう少しで戦闘前に掛けていたものが切れそうなので、念のために上書きしてもらう。
詩人さんとは歌でパーティーの能力を底上げしてくれるジョブだ。普通は一人の詩人が2曲分、つまり2つの能力を底上げできる。が、デスゲームが始まってから今日までの間で、ゲームの情報を解析する解析班と、検証をおこなう検証班などのおかげで、隠し要素が多く発見された。そのうちの一つが詩人の「合唱」だ。詩人が同じ曲を二人以上で合唱すると、能力の上昇率が高くなることが発見され、レイドの時にはよく使われる戦法になった。
ここでアタッカーの攻撃間隔の短縮効果がある曲と、攻撃力のアップの効果がある曲を合唱で歌ってもらう。
それと同時に僕は地面に大きな魔法陣を描く。
僭越ながら僕が発見した新魔法手法、陣魔法だ。
今行っているのは陣魔法の中でも罠型起動型で、この魔法陣内に足を踏み入れると行動が10%鈍くなるというデバフ効果を発揮する。もちろん味方には影響がない。逆に味方の攻撃力を上げる魔法陣もあるけれど、追い込みは主に黒魔法師の攻撃魔法に頼るので効果が薄いと判断した。
ただ大地の魔力を吸い上げて使用するために、同じ場所で何度も使用することはできないという欠点がある。だから最初から使わず、追い込み時まで取っておいたのだ。
「少しずつ誘導お願い! そろそろだよ!」
そう指示して皆から離れた場所へ移動する。
入れ替わるように戦闘の中心が魔法陣のほうへ移動し、陣へネームレスが足を踏み入れたと同時に魔法陣が光を放つ。
今だ!
「今! アタッカー行って!!!!」
待ちに待った総攻撃の合図。
各自が最大火力の攻撃を加える。
みるみる減っていくネームレスのHP。
「いけるぞ!」
「削れ! 削れ!」
「全部出しきれ!!!」
行ける!
そんな空気がフルアライアンスの中に流れる。
そんな時、「ネームレスはヘルスピンの構え」というログが流れた。
スタン順の黒魔法師が止めるべく魔法を撃つ。
あ、ダメだ! 遅い!
僕の予想は当たってしまい、ネームレスのヘルスピンが発動してしまう。
一気にフルアライアンスの半数以上が被弾し、HPの三割が削られた。
皆が反射的に動く前に、被弾したと同時に僕は周りに叫ぶ。
「焦って回復しないで! タンク優先! タンクはヘイト稼いで! あとみんなはアイテム使った自己回復で!」
ここで白魔法師が回復魔法を乱打してしまうと、そちらが一気にネームレスのヘイトを稼ぎターゲットが揺れる。
そうなると総崩れだ。
でもここにいるのは歴戦の兵。
慌てずになんとか対処をしてくれた。
よし、なんとか持ち直した!
いける!
と、ここで想定外のことが起きる。
ネームレスはゲート・オブ・ヘルの構え。
ネームレスの初見の技。
予想外の技に、戸惑う皆。
でも僕はすぐに分かった。
わかってしまった。
これは自爆技だ。
ほかのゲームにも使っていたモンスターは多くいる。ダメージを与えたと同時に爆発する岩や自身が死ぬ間際に隕石を落として道ずれにするボスなど、少しゲームをしていればさして珍しいタイプではない。だから僕は可能性として頭の片隅に入れていた。
それが運悪く当たってしまった。
しかもこれは範囲系だ。
HPが全快だともしかしたら耐えられたかもしれないけど、先ほど「ヘルスピン」を被弾したせいで、後衛は特にHPを全快していない人が多い。この状態だと即死してしまう人が多く出てしまうだろう。
でも僕は慌てなかった。
迷わず灰魔法師のワンデイアビリティというスキルを使う。
こういう事態になったらやると決めていた動きだ。
ワンデイアビリティとは一日一回だけ使える、それぞれのジョブ特有のスキルで、さすがに効果的なものが多い。
ウォリアーの一定時間通常攻撃が多段攻撃になる「ラッシュ」やナイトの一定時間物理攻撃に関してノーダメージになる「インプレイグナブル」、自身のHPを1にする代わりにパーティーメンバーのHPを全快する白魔法師の「ゴッドブレス」などがそうだ。
そして支援特化型の魔法師である灰魔法師が使えるワンデイアビリティが「サクリファイス」。
自分以外のパーティーメンバーのヘイトを0にするというもの。
僕は迷わずそれを使った。
一瞬で皆のヘイトが0になり、元々のヘイトが低いながらも瞬間的に一番高くなった僕がターゲットをとる。
そのまま走ってほかの皆とは離れた場所へと走る。
「ばっ!」
「ヒデ!」
「松井くん!」
皆が僕の名を叫ぶ。
追いかけてくれようとした人、止めようとしてくれた人もいる。
でもこれでいい。
巻き込まないように僕だけで魔法を受ける!
そしてボスフィールドの端っこまで走ったとき、足元を中心にして足元に魔法陣が浮かぼ上がった。
幸い魔法陣の中に僕以外にはいない。
そして時おかずしてそこから真上に放たれる超火力の魔法。
一瞬で0になる僕のHP。
ネームレスを倒した!
おめでとうございます。
ゲームクリアです。
失っていく意識、ぼやけていく視界にかろうじて見えたログ。
嗚呼、やっと終わった。
やったね、みんな。
そんな感想を抱くと同時に、僕の意識は闇へと沈む。
ようやく悪夢のデスゲームは終わったのだ。
昔話だとこう締めくくるだろう。
めでたし、めでたし、と。
そしてその後の物語が始まる。
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