手札0の恐怖
「な、なんスか!? あいつのカード! 手札が無い時発動するなんて、そんな馬鹿なことあるんスか!?」
ファルケンが驚くのも無理はない。 実際に私もあの男の行ったことが分からないし、セイジは理解しているようだったが、我々には到底理解が出来ていなかった。
「いや、今までそのような事がなかったから、概念から覆されている、といった方が早いのかもな。」
「時々セージさんもあの人も、ボクらが理解できない言葉を話しているよね? これはあんまり考えたことは無かったんだけど・・・セージさんって、本当に何者なんだろうね?」
その問いに対しては、我々は黙認をしていた。 いや、そもそもそんなことは些細なことだと思ったいたのだ。
確かにセイジは私の領地、アルフィストに旅人として入ってきたということは本人から聞いた。 だが、いくら商会の荷馬車に乗ってきたとはいえ、どこから来たのかまでは教えてはくれなかった。 それこそ本当にこうして海を渡ってきた可能性は否定できなかったが、それならどうやってマーキュリーに入ってきたかの説明が付かない。
つまりセイジはそれだけ謎が多い人物という認識になってしまう。 仲間である以上詮索はしたくなかったのだが、あの男のせいで、消えかけていた疑念がムクムクと浮かび上がってきた。
「ご主人様・・・?」
しかしその疑念も、アリフレアの今にも泣き出しそうな表情の前には消え失せる。 彼女はセイジに助けられてから、そのような疑念すら浮かんでいなかったのだから。
「心配はするなアリフレア。 セイジがどんな事情があろうとも、我々をそうそうとは手放さんだろう。」
そう宥めて、アリフレアを安心させる。 しかし自分で言っておいてなんだが、その「そうそう」と言うことが起こりえる事態になりかねないのは、覚悟をしておかなければならないと、私は密かに思っていた。
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ハンドレスコンボ
前世でとある時期に流行ったとまではいかないものの、有名になったカードゲームの戦術の1つである。
その名の通りハンドレス、手札が0枚の時にしか発動できないが、その分効果がとてつもなく強力だというカードをデッキとして運用していくものである。
手札0というのが前提条件であるため、初手からやるにはかなり厳しい。 そもそもこのカードバトルで最初の時点でハンドレスをするのは当然容易ではないのだが、それを補ったのがあの最初の3枚のカードというわけだ。
そして零斗の手にカードからが、ハンドレスコンボの始まりを意味していた。
「行くのだ! 「旧騎士王 ハイラース」!」
『モンスター:旧騎士王 ハイラース レアリティ 桃 コスト8
種族 衛兵
手札が0枚でこのカードをドローした時、このカードはコストを支払わずに召喚出来る。 このカードが召喚された時、捨て場にあるカードを1枚、山札に戻す。
ATK 7 HP 12』
「ハイラースの効果により、捨て場の札を1枚山札に戻すで御座る。」
それを確認することは俺には出来ないか。 しかし厄介なのは手札が無いという状況にある。 このカードゲームに置いては、一見驚異には感じることは無いだろう。 実際にAI領域のギリギリのところで見ているあいつらもそれは少なからず感じているはずだ。
だがそれは目に見える結果の話だ。 このコンボで本当に恐ろしいのは、手札が0枚だからこそ、山札を引く、もしくは捨て場からどんな効果のカードが飛んでくるか分からないということだ。
『拙者はこの世界に何故飛ばされたのか分からぬ上に、この世界では使えないものばかりだったので、ある意味なにも持たない状態から始まったので御座る。』
『それがあんたのデッキのコンセプト理由かい? じゃあそのハイラースはあんたの教え親って事か?』
『左様。 なにも持たなかった拙者に、衛兵としての全てを教えて貰ったで御座る。』
随分といい人に恵まれたんじゃね? 普通言葉も通じないってなるとかなり迫害されそうだけどな。
『故に拙者は知りたい。 何故拙者はここにいるのか。 そして汝は何故この世界に喚ばれたのか。 汝が何者か分からなかった故、このような強行手段に及んでしまったが、互いを知らねば、話し合いなど皆無。 故に教えて貰うぞ! 汝の事を!』
「戦闘開始! ハイラース! 敵の心の臓を象った器に攻撃を行うのだ!」
そう叫び、ハイラースは俺のライフコアに向かって突進してくる。 確かに「雨降りにさ迷う少女」は攻撃対象にはならないし、その1体だけなので、狙えるのは俺のライフコアのみとなるよな。
「ここは受けるぜ。」
ここで使ってもしょうがないので、このまま受けることにした。
「続けて新衛兵よ! ハイラースに続け!」
ま、攻撃はしてくるよな。 でもな。
「俺はコストを7つ支払い、インタラプトカード「ツギハギの折り畳み盾」を使う。 そしてコストを3つ支払うことでこのカードは手札に戻る。」
「休息に入り、拙者は休戦に入る。」
さて、今の現状を見てみよう。 相手がほとんどライフコアを減らしていないにも関わらず、俺はかなり減らされてしまった。 正直色々と要因はあるが、これだけ手札があるにも関わらず、ほとんど使えていないのは、俺の落ち度でもあるかもしれない。
『随分と命削りな戦い方をするで御座るな?』
『そうか? これでも抑えた方なんだけど?』
『そういう意味ではない。 わざわざ自分の番を削ってまで使うカードではなかったという話で御座る。』
あぁ、さっきの「デジャヴィジョン」の事を言ってるのか。 まあ確かに手札が悪かったわけではない。 だが、効果を最大限に使うならあの場以外では無いだろう。 だから使った。 それだけの事だ。
『意味ならあるさ。 この後の先行投資ってやつでな。 それが勝つためだろうが負ける可能性があろうが、やらずに終わるよりはましさ。』
『拙者には分からぬで御座る。 皆明日は我が身の身体であろう?』
『それはそれ、これはこれだよ。 俺達は制約の中でこの戦いをしているが、人の世と混濁させちゃ駄目だぜ?』
まあ傭兵としてやってきた人にそんなことを言っても無駄なのは分かってるがな。 やるしか無いだろう。 証明するために。
「俺のオープニング、そしてドロー! プラポレーションタイム! 俺はコストを7つ支払い、領域カード「染み渡った晴天」を発動! これにより「雨降りの路地裏」は破壊される。 そして領域が変更されたことにより「雨降りにさ迷う少女」は「救われし少女」へと変化する!」
いつものコンボが決まって少しだけ安堵する。 だけどこれだけでは相手の土俵には立てない。 だからこのまま強気に攻めさせて貰う。
「俺はコストを8支払って、「強襲竜」を召喚。 更にこのカードはフィールドにいる「竜族」を捨て場に送る事で、コストを半分にして召喚する事が出来る! コストを10支払って、「竜の産まれ変わり」を召喚! 更にこのモンスターの効果により、先程捨て場に送った「強襲竜」のステータスを全て上乗せする! よって攻撃力が「31」、体力が「40」になる! 更に「染み渡った晴天」により、攻撃力が更に5つ上がる!」
これでもまだ完全体には至らないが、十分な戦力になれることだろう。 ほとんどドーピングのようなレベルで上がっているがそんなことを気にしている場合じゃない。
「コンバットタイム! 行け! 竜から産まれ変わったお前の力を、あの兵士にぶつけてやるんだ!」
攻撃力の高い方は当然体力の高い方にぶつけるのが戦略としては最も有効的だ。 そうしてその産まれ変わりが放った拳には「強襲竜」の面影とも思えるオーラが纏われていた。 そしてその拳が新衛兵の胸を貫いた。 それと同時に零斗のライフコアが削られていく。
「まだまだ! 救われし少女だって攻撃が上がってるんだ! ハイラースに攻撃!」
そして救われし少女も攻撃を行う。 ハイラースも倒れ、大幅に有利を取ることに成功したのだった。
「クールタイムに入り、俺はエンディングを迎える。」
現状
レイト ライフコア79
訓練古戦場
セイジ ライフコア66
竜の産まれ変わり
救われし少女
染み渡った晴天




