到着と不穏な人物
「当船はまもなくオストラレスの港に到着いたします。 お荷物等お忘れ物の無いよう、降りる際にはご注意を願います。」
二日という船旅からようやく解放されるように、俺達はドーホース達を連れて、オストラレスの港に降り立った。
「ふむ。 やはり大陸の入り口と揶揄されるだけの事はあるな。 賑わいが凄すぎる。」
ベルジアもそう唸りをあげていた。
オストラレス
聞いた話では、マーキュリーとはここ以外で渡る方法はなく、ほとんどの船便はここを通るとも言われる程に、海からの玄関口と言われている。 とは言っても決して港街と言うわけではなく、単純にここからの方が陸路を行くのに滅茶苦茶楽なんだとか。 そんな経緯もあって、様々なものが流れ着きやすい。 ということを船旅の中でベルジアから説明を貰っていた。 なにも知らないまま行って、都会に引っ越してきた田舎者のような醜態を晒さないための事前知識だ。
「ところでドーホース達はどうやって連れていきます? ボク達が牽いていると目立ちませんかね?」
そうゼルダは問いかけてくる。 ちなみにゼルダとファルケンは船を降りる際に、またローブを頭から羽織っていた。 船内では確かに亜人を悪く言う人はいなかったが、場所も変わり、どう見られるかまだ本当に分からない以上、隠しておいた方が身のためだという俺の判断から、まだ2人には正体を明かさないようにして貰ったのだ。
「まあ、別にドーホースを連れている人は珍しくないみたいだし、俺達が手綱を引いてれば大丈夫だろ。 な?」
そう言うと3体のドーホース達も静かに頷いた。ヨコッコ達は既にドーホースの背中で寝てしまっている。 動物愛護団体かな?
「それじゃあ、ここでの買い物を済ませてしまおう。 最優先はここの地理条件だ。 地図は絶対にいるな。」
「もしあれなら磁力方角機とかもどうッスか? 前回みたいな砂漠だと、方向を間違えたら一瞬ッスから。」
「そこはファルケンの・・・いや、砂嵐とかに見回れるとそれも無意味か。 買っておこう。 後は燃料か?」
「お食事の、方も、最初は、必要だと、思います。」
「手分けして買い物を済ませる? それともみんなで回る?」
「ゼルダやファルケンの身がバレた時に安全面を問われる可能性がある。 一緒に回ろう。」
そう言いながら俺達は港市場に入っていくのだった。
「さてと、色々と買ってはみたものの、大分大荷物になったんじゃねぇか?」
とりあえず5人分ということで、食料やテント、前回の反省を活かしてペンやインクなども購入したまでは良かったが、流石に荷物に持っていくには多すぎたと、自分の中で思ってしまった。 いや、どのくらい先になにがあるのか分からない。 そう考えなければ、この量は収集が付かない。
「この量、ですと、ドーホースさん、達の、負担に、なって、しまいます。」
そう、これも半分忘れていたことで、これらの荷物の運搬に、ドーホース達についている荷物入れにくくりつけるのだが、ドーホース達の持てる最大積載量を明らかに越えているのだ。 これでは走ることはおろか、歩くことすらままならなくなってしまう。 ここばかりは完全に失態だった。
「うーん、このままだとドーホース達の方が先にバテちまうな。 ヨコッコ達じゃ乗せるので手一杯だろうし、なによりこの人数を運ぶんだ。 無理させることになるんだよな。」
「ではいっそのこと、荷車でも買ってみてはどうだろうか? 3馬力もあれば大体のものは引けると思うし、なによりドーホース達に直接乗せることにならないので、ドーホース達の負担も低くなるはずだ。」
「それがいいかもしれないね。 ボク達も乗るけれど、上からの負担は少なくなるはずだよ。」
ふーむ。 荷車か。 確かに車輪がある分引きやすくもなるか。
「よし、ドーホース達も旅の仲間であることには変わり無いし、なんだったら戦闘にも加わってくれるしな。 負担を減らして行くか。 どこで荷台って売ってた?」
「ふむ、それなら少し距離はあるが、そのような店を見かけたぞ。」
「本当か? ならそこに行くとするか。」
そう言って休んでいたカフェのお勘定を済ませて、その場所にいざ行こうと歩き
「そこな汝。 訪ねたい事がある。」
そう誰かに声をかけられる。 そこにいたのはそこそこ延びた黒髪を髪ゴムで止めていて、背丈は俺よりも上、猫目で少々太い眉。 胸当ての様な物をしていて、どこかの兵士だったと思わせるほどの、細くもどこか雄々しい体の若い男だった。 しかし今の喋り方、滅茶苦茶古風だったな。 この世界にも江戸みたいな場所でもあるのかな?
そして質問をされているのはおそらく俺だろう。聞かれた事なのでちゃんと答える事にしよう。
「なんでしょうか?」
「汝はこの国の者ではないで御座るな?」
汝とか御座るとか、なんか本当の江戸の侍みたいな人だな。 顔立ちは俺と同じような雰囲気なのに。 それに質問の意図が微妙に分からない。 けどこれで案内云々の話をしてきたらお断りしよう。 別に観光に来てる訳じゃないし。
「確かにこの国の者じゃないですね。 ちょっと前に客船に乗ってきたばかりなんですよ。 マーキュリーって島国で・・・」
「・・・すまない、質問が適切では無かったようで御座る。 訂正しよう。」
これ以上適切な質問ってあるのか? この国の人間じゃないんだから、そう言うのは当然・・・
「汝、この世界の理にて産まれ持った肉体、及び魂ではないな?」
・・・なんだ? 急になにかが引っ掛かるような言い方になったぞ?
「・・・どういう、意味ですかね?」
「正しく言えば、この世界とは別の異世界と呼ぶに相応しい場所から来たのではないか?」
・・・確証はない。 だがこの男、なにか妙な言い方だ。 俺を一目見ただけでそんなことをなんで言うんだ?
「そこの御仁。 セイジに対する言いがかりは止めて貰おうか。 我々が特に何かしたわけではないだろう?」
ベルジアが俺達の会話に入ってくる。 そうだ。 俺だってなにもしてないのになにかを言われる筋合いなど無いんだ。 男の言い分は気になるが、面倒になる前に去るとしよう。
「あー、申し訳無いんですがね。 ちょっと会話が分からないので改めてまた、質問を試みて貰ってもいいです?」
「・・・しらばっくれている訳ではないで御座るか・・・では・・・」
そう言うと男は一拍置いた後に
『この喋り方に聞き覚えはあるだろう? 同じ日本人の顔を持つものよ。』
「!?」
今の言葉に確信を持てた。 こいつも前世に日本の文化に触れている。
「ご、ご主人様? あの方は、なにを、言っている、のですか?」
「・・・みんなには聞こえなかったのか?」
「喋っているのは分かるが、なにを言っているのかまでは理解出来ない。 この世界のどの言語とも取れない喋り方だ。」
なん・・・だと? つまり今の台詞は、俺にしか理解できていないと言うわけか・・・
「あんた・・・一体何者だ? なにを俺に求めている?」
「それはこちらも問いたい所だが、普通には話してはくれないだろう。 ならば・・・」
そう言ってディスクを相手はセットをした。
「これで優劣をつけるで御座る。 もちろん制約付きであるぞ。」
「っ!」
ここで拒否をしても付けてくることは容易に想像できる。 なにより仲間にまで手を出し始めるかもしれない。 それだけはなんとしても避けておきたい。 それにこいつが日本語を喋れる理由、転生なり転移なり、理由を聞いておかなければならない。 敵なのかどうかも把握しないと・・・!
「ご主人様?」
「これから俺は目の前の男と制約カードバトルを行う。」
「な、なにを言われたんだ!? あの男は、一体何者なんだ!?」
「その事を互いに知るために、これから戦うんだよ。」
「互いに・・・?」
「ああ。 それと今回は俺の近くに来ないで貰えるか?」
「なんでッスか!? そいつが攻撃をしてきたら・・・」
「お前達で聞けない言葉を俺は聞ける。 そしてその事を俺は聞かなければならない。 だから俺はやるんだ。 聞いてくれるな?」
「・・・セイジがそこまでいうのなら・・・」
分かってくれたようでそのまま半径2m以上離れてくれる。
「制約内容はどうする?」
「決まっておろう。 敗北者の情報の提示だ。」
「いいだろう。」
『制約内容 敗北者の情報の開示』
この制約カードバトル、簡単には負けられない。 やってやるしかない。 聞きたいことも俺個人である。 このAI領域で出来ることをしてやる。
「調べ尽くしてやる! 汝の全て!」
「見極めてやる! お前の真意!」
「「さぁ、劇場の開幕だ!」」
この男の正体とは?




