初の船旅
「おはようセイジ。 二度寝をするとは珍しいな。」
「まあどんなに急いでも後2日は船の上だ。 それに客船だから、どうやって過ごそうがお客の勝手だしな。 「急いては事を仕損じる」。 無理に焦ること無いなら、逆にゆっくりさせてもらうさ。」
「言えているな。 ミカラ様の計らいには感謝せねばならぬな。」
二度寝してお腹がすいたので、エントランスで行われているビュッフェに参加をすることにした。 二度寝をしたと言っても精々1時間程度だったし、その辺りにはみんなもう起きていた。 ゆっくりしろと言った人間が言うのもなんだが、行動が早いな。
「つっても、ゆっくりするって言ったはいいが、実際なにすればいいのかさっぱりだ。 こう言ったのには慣れてないからなぁ。」
「私だって同じだ。 そもそも私の領土には湖すら無いのだ。 こう言ったのの方が新鮮に感じる。 それに、なにもやることが無いわけでも無いぞ。 上にはプールがあるし、中に簡易的なカジノもあった。 最も賭けているのは実際の金銭ではないがな。」
船旅の楽しみかたってそんなんだったっけ? まあ人それぞれの楽しみかたがある。詮索するのはやめておこう。 俺とベルジアはとりあえず自分達が食べる分だけの料理を皿に盛った後に、俺は周りを見渡す。
「それで他のみんなは? 誰も見ていないのか?」
「アリフレアはプールの方に行き、ファルケンはカジノを楽しんでいる。 ゼルダは、おそらくバーにでもいるのではないか?」
「朝早くから酒かよ・・・というか大丈夫なのか?」
この世界ではお酒はどのくらいの年齢で飲めるか知らないが、その辺りはどうなんだ?
「アリフレアはさすがに駄目だが、私達やゼルダ達なら問題はない。 16歳以上なら酒を提供しても、提供者も飲酒者も裁かれる事はない。 その後の行為は自己責任だが。」
その辺りは大体一緒か。 アリフレアにはバーは近付かないように言っておこう。 あの子なら分かってくれる筈だしな。
「まあ、それならいいんだが・・・」
「・・・? ・・・あぁ、ここには亜人も乗っているから心配は要らん。 分け隔てなくやれているさ。」
もうひとつの心配もどうやら無用だったようだ。 なら俺も本当にゆっくりとしていきますかね。 ベーグルの様なものを口に運びながら、そう思った。
最初に来たのはプールだった。 開放的な屋外に小型の物から学校にあるようなプールまで、色んな人が泳いでいた。 ちなみに水着などは別料金だがレンタルが出来るらしい。 アリフレアがここにいるらしいのだが・・・と周りを見渡していたら、小型のプールに足を浸けているアリフレアがそこにいた。 今はフリルの白いワンピースを着ているので、妙に似合っていた。
「アリフレア。 水は気持ちいいか?」
「あ、ご主人様。 はい。 こうしている、だけでも、気持ちが、いいです。」
「アリフレアは綺麗なものが好きなんだな。」
「そうです、ね。 キラキラと、自分を、写してくれる、鏡のように、とっても、綺麗なんです。」
そう自分の写った水面を見ながら言った。 「自分が元々みすぼらしかったから」というニュアンスを感じさせるのは、この子がまだそう感じているからなのだろうか? パシャパシャと水面を蹴るアリフレアに、ちょっと悩んだ末。
「アリフレア、向こうで水着とかボールとかレンタルしてるみたいだからさ。 一緒に泳ごうか。」
「え? あ、ご主人様!?」
そう言って俺は無理矢理にアリフレアを立たせて、レンタルしてる場所に向かう。 アリフレアの事なので自ら行くことを遠慮するだろうから、こうして俺が誘った方がいいのだ。
俺も簡易的なトランクスタイプの水着と防水性のパーカーを羽織って、ビーチボールを持ちながらアリフレアを待っていた。
「あの・・・ご主人様・・・」
たどたどしい声で来たアリフレアの方を振り返ると、白いセパレートタイプの水着を着ているアリフレアの姿があった。 多分着なれないのでモジモジとした様子で、俺の方に向かってきた。
「似合ってるじゃないかアリフレア。 いいのを選んできたんだな。」
「あ、あうぅ・・・」
そう言ってあげるとアリフレアは顔を真っ赤にしてしまった。 この子はまだ誉め慣れていないからな。 ほんの少しずつでもそういったものに慣れてくれればとは思う。 慣れすぎるのは良くないがな。
「ほら、おいでアリフレア。」
俺が浅いプールの方で手招きしてあげるも、アリフレアの方は歩み寄ってきてくれない。 そこまで深くないんだけどなぁ?
「ご主人様、あの、その・・・」
「怖いのか?」
「えっと、その、わ、私、泳いだ、事が、無くて、ですね。 それで・・・」
「なんだそんなことか。 それくらいなら俺が教えるさ。 だからおいで、アリフレア。」
そう優しく言うと、アリフレアは俺の手を取ってくれた。 そして2人で、ゆっくりとプールを楽しんだのだった。
アリフレアとプールで遊んだ後に、お昼過ぎでお腹が空いたので、適当に昼食を食べた後に、ゼルダがいると言っていたバーの方に向かう。 といってもアリフレアのことがあるので、アリフレアは別のところに行って貰うように指示しておいた。
で、ゼルダは何処にいるのかとキョロキョロしていると、そこにいた。 ウイスキー用のグラスの縁を、指でクルクルとなぞるゼルダの姿が。 シャツにボトムスとかなりラフな格好なのだが、亜人である証拠の手足が丸見えだ。 そんな公にして大丈夫なのか?
「いらっしゃいませ。 船内バーへようこそ。」
いかにもな雰囲気を出しているバーテンダーさんに声をかけられたので、会釈をする。
「どうも、彼女の連れのものです。」
「おや、お連れ様でしたか。 どうですか? 一杯。 飲めるお歳でしょう?」
「んー、じゃあカルーアミルクって言って分かります? ミルクで作るカクテルなんですけれど。」
「それくらいならお安いご用です。 アルコール度数は低めがよろしいかな?」
「急に高いのも飲めませんので、それで。」
「では、少々お待ちください。」
そう言ってミルクと適当なお酒をカクテル用のボトルに入れて、振り始めた。 うーん、こう言ったのは初めて見るけれど、やっぱり様になるなぁ。
「お? おー、セージさんじゃないですかぁ。 ようやく来てくれたんですねぇ。」
「ゼルダ、もしかして大分入ってる?」
隣に座って様子を見ようかと思ったけれど、明らかに顔が赤くて、少しだけ呂律が回ってないようにも見えた。 目がトロンとしているのは酔っ払っているからだろうか?
「お待たせしました。 カルーアミルクでございます。」
「ありがとうございます。 ところでゼルダの事なんですが。」
「朝食の時から来ていたのですがね。 そのグラスで5杯目ですよ。 チビチビと飲んでいたので、そんなに強くはないのかも知れないですね。 蛇の亜人にしては珍しいかもしれませんね。」
それってお酒弱いって事じゃないの? というかそんな状態なら部屋に戻してあげれば良かったんじゃね?
「大丈夫よぉ。 ボクだってお酒は飲めるんだからぁ。」
「ハイハイ分かった分かった。 絡み酒は質が悪いから止めてくれ。 あと1時間で一杯飲む人は、基本強いとは言わないから。」
完全に酔っ払いなゼルダは放っておいて、作って貰ったカルーアミルクを飲む。 初のお酒、カクテルだが、そんなに強くはないので、ミルクの味が強く感じた。 まぁ初めての飲酒なんてこんなものなのかなと思った。
「お客様に合わせて、ある程度は作れますので、何なりとお申し付け下さい。 次からはおつまみも用意します。」
「本当にすみません。」
「お客様はバーを利用する前に、ここの客船のお客様ですので、心行くまでご堪能できれば、冥利に尽きるというものです。」
「そういえばゼルダが亜人だということは・・・」
「迫害主義者ではありませんので、お気になさらずに。 何人もの亜人の方にもお酒を提供していますので。」
「ねぇ、セージさん。 飲み比べしましょうよぉ。 どっちかが倒れるまで飲みましょうよぉ。」
「それなら君の敗けじゃないかな? もう、とりあえず部屋に戻って1回寝てきたら?」
普段のゼルダだったらこんなあしらい方はしないのだが、明らかに駄目そうだったので、今回はこう言った形で部屋に戻すことにした。 ゼルダがトボトボと戻るのを見ながら、俺は改めてバーでのお酒を楽しんだ。
本当の休息タイムをお送り致しました。
まだ次回にも続きます




