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カードゲーム世界で始める下克上  作者: 風祭 風利
第一の章 今の世界を知る
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与えられる使命

「・・・負けた・・・のか? セイジが・・・?」

「・・・師匠?」


 2人が俺に声をかけてくるが、俺は返事をしない。 いや、したくなかった。 この晴れ晴れしい気持ちを、今は邪魔されたく無かったからだ。


 負けた結果には変わりはない。 だがそんな負けでもただ悔しいという気持ちにならず、全力で戦い、相手との思考を巡らせ、そしてその上で負けたのだ。 悔いすら残さない位の気持ちになっているから、この気持ちに長く浸りたかった。


「・・・心配するな。 約束が破られた訳じゃねぇんだ。 あの戦いは俺にとってもいい成長過程となるさ。」


 今回の戦いは制約で結ばれていないので、AI領域とはいえ、やっていることは筒抜けの筈だ。 だから勝敗も内容も理解していると思っている。


「私自身も「ライファー」の効果で幾度かドローしなければ、あのカードまで辿り着けなかった。 いえ、そもそも入れていたのですが、実際に使ったのはあれが初めてです。」

「その理由を聞いても?」

「みな「ラピスタ」を前にすると、諦めたりして、戦意を喪失してしまうのです。 効果が強すぎるゆえに。 ですが貴方は違った。 どんなに強い相手だろうと、自分の刃をぶつけるための機会をとことん見定めていた。 私にとってそれこそ求めていたものだったのです。 この国を出れば、どんなことが待ち構えているか分かりません。 なのでそんな状況にも耐えられる強靭な精神がある人を見たかったのです。」


 そう言いながらミカラ様はあるものを俺に渡してきた。


「これは?」

「重要な案件の入っているメモリーデータです。 バックアップが取れる仕様ともなっていますので、もし失くしそうになったら、復元出来るものを用意しておくと良いでしょう。」


 なるほど、紙媒体だとどこに飛んでいくか分からないし、AIという便利なものがあるんだ。 それを使うに越した事はないだろう。


「ミカラ様。 使命を下さったことを感謝いたします。 ですが我々には色々と問題が生じております。」

「申してみなさい。」


 俺たちのやり取りを見終わった後、申し訳無さそうにベルジアが説明にはいった。


「まず海を渡る方法がありません。 国を渡るということは、我々には船などが必要になってくる。 資金面は問題はないのですが、いかんせん用意するまでに時間が掛かってしまいます。 それに備蓄も必要です。 両方を揃えるとなると、やはり時間や労力を必要とします。 全てを用意して欲しいとは望みません。 お力添えはしてもらいたいと考えております。」


 言われてみれば俺たちの旅は常に陸路だった。 とはいえこれもヨセマで借りた(というか半ば貰った)ドーホース達がいたから、短い期間でここまで来れたのであって、本来ならば最も時間がかかっていてもおかしくはなかった。 だが次は陸続きとは限らない。 海や湖畔を進むことになることもある。 それを全部担うのは当然出来ない。


「そうですね。 では移動手段はこちらから用意しましょう。 とはいってもそこまで難しく考えるものではありません。 この町から少し離れた港で、渡航行きの客船が定期便で運航されている。 それに乗っていけば、「オストラレス」の港につけることでしょう。 最初の外交を結ぶ場所としては他にないでしょうし。」


 なるほど。 それなら問題ないか。


「それで、他にはいらっしゃらないのですか?」

「うん?」

「旅のお仲間、ですよ。」

「と、言うッスと?」

「貴方達だけでは無いのでしょう?」


 ん。 どうもどこかで見られてたのかな?


「その子達も連れていってくれるんですか?」

「旅のお仲間は多い方が良いでしょう? それぐらい許容できないほど、行政が悪いわけではないのですよ。」


 それならいいのかな? なら時間はかからないか。


「では話は改めてしておきましょう。」


 それもそうだな。 ここで子招いてもしょうがないよな。 俺はミカラ様と話をしておくことにした。


「ではまずは行き先についてなのですが・・・」


 ミカラ様との話で、まずは海に渡り、オストラレスの港に入り、そこでオストラレスの国王と会い、そしてそこからマーキュリーとの貿易をする事。 そしてそこからの行動は


「あなた方の自由だ。 本来ならば、そう言った貿易は私が直接行くのが普通なのだがね。 生憎と、今はここの国を離れることは出来ないですからね。」

「他に血族はいらっしゃらないのですか?」

「夫は死別してしまいました。 故に私が国王となっているのですよ。」

「それは・・・申し訳無いことを聞いてしまった事を深くお詫びしたい。」

「気に障る事ではない。 それにその分私は息子2人に恵まれたので、寂しくはないですよ。」


 王子2人かぁ・・・国王後継者はいるから問題ないって事にはなるのか。


「では、その2人は今は・・・?」

「この国を継ぐための武者修行中で、貴方達と同じように、他国に出向いていますよ。 2人ともね。」


 ちなみに歳としては俺らよりも確実に歳上、どっちも20代後半らしい。


「ちなみにご結婚や婚約者は?」

「この国てそのようなものを縛り付けるよりも、行き先で見つけてきてくれた方がよろしいと感じ、そのようなものはいませんよ。」


 いない、というのは正しいのか分からないけれど、まあ言いたいことは分かるか。


「そう言うわけで、貴方達に託すというわけです。」

「もしも彼らに会うことがありましたら、「お母様は元気だ」と伝えておきますよ。 そこまでの奇跡が起こるかは定かではありませんがね。」

「ふふっ。 もしも婚約者が決まっているのなら「早く孫の顔がみたい」とも伝えておいて下さいな。」


 抜かりねぇな。 この人。 本当に会えるのか分からないのに、そんなことまでよく託す。


「さてと、これで話は終わりですが、こちらとしても色々と準備があります。 もうしばらくは滞在なさってくださいな。」

「最初からそのつもりであります。 では我々も我々なりに準備を行いますので、これにて失礼します。」


 そう言って俺たちはミカラ様の見送りと共に、城を去ったのだった。


「それでまずはなにを買うッスか? 船旅ですし、なんだったら客船なんで、そんなにサバイバルな物は必要ないッスよね?」

「今回は必要最低限で十分だろう。 手分けして買うこととしよう。 セイジ、貴殿は念のための砥石などを購入してきて貰えるか? 砥石や矢じりなどの相場は大体このくらいだ。 それ以上ならば値引きも視野に入れるんだぞ。」

「・・・あぁ、分かったよ。」


 俺はベルジアに渡された紙を見えてるか見えてないか位の感じで、目を通していた。


「師匠。 俺っちも一緒に・・・」

「ファルケン。 貴殿にはこの街での滞在用に必要なものを集めてきて貰いたい。」

「え? ですが・・・」

「・・・今は一人にしてやって貰えるか? 誰かがいると、返って気が散ってしまう事もあるからな。」

「・・・ベルジアがそこまで言うのなら・・・」


 そう言って離れていく2人を見送り、俺は少し歩いて、路地裏の入り口辺りで・・・近くの壁に寄りかかった。


「・・・あれでもダメだったか・・・」


 思い返されるのはミカラ様とのカードバトル。 悔いはないと思っていた筈なのに、今になって込み上げてくる。 ああすればよかった。 こうすれば勝てた。 あのカードが来ていればまだ戦局は分からなかった。 と。


 だがそんなものは今となっては無意味に等しい。 思い返すだけ無駄なのだ。

 それに無駄に大きい使命すら与えられた。 とてもじゃないが、普通の5人パーティーが背負う使命じゃない。 しかもこう言ってはなんだが、交渉には圧倒的にこっちがアウェーな状態だ。 なにせ亜人が2人いるのだ。 下手をすればそれすら持ち込めないかもしれない。 だがやるしか無いのだと自分に言い聞かせるその度に頭を締め付けられる思いがある。


 この世界に来て3カ月位か。 最初はただただ国を回るだけの筈だったのに、今や貿易の交渉に駆り出される始末だ。 生半可な気持ちで挑めない重要な役目だ、 始める前から胃がキリキリする。 とまあこれ以上考えてもしょうがないので、俺はベルジアから渡された紙を見ながら、買い物をすることにした。



「ただいまぁ。 っと全員いるな。 ベルジア、話したか?」

「あぁ。」

「セージ、凄いね。 まさか国王直々の依頼なんて。 報酬の話はしたのかな?」


 ゼルダは茶化すような台詞を言っているけれど、感情は真剣そのものだ。 ふざけてなんかいない。


「なあ、ひとつ提案がある。 これは俺とベルジアが与えられた使命だ。 他のみんなはくる必要はない。 だからこの街で過ごして貰うのも悪くないと思っている。 それで・・・」

「師匠。 誰もそんなこと思ってないっスよ。」


 俺のこれから言おうとしている提案に対してのファルケンの返しに、俺は「え?」となる。


「概ね無理についてくる事もない、辛い旅路になるだろうという優しさから来るものだろうが、そんなものはもう覚悟の上だ。」

「そうそう、それにボクは、亜人の国に顔出しをしたいんだよね。 元気でやってるよって。」

「私も、ご主人様と、一緒なら、何処へでも、お供します。」


 そんなみんなの言葉に、俺は心を打たれ、そして


「む、セイジ。 涙が出ているではないか。 どうかしたのか?」


 頬を伝う感触を噛み締めながら、俺はこの世界でもやっていけるんだと、お前は一人じゃないんだよと、そう言ってくれた気がして、嬉しさが込み上げてきた。


「・・・すまねぇな。 余計なことを聞いたみたいで。 今日はもう遅い。 明日から、本格的に準備に入りますか!」


 1人で背負うことなんてない。 みんなといれば、それは幸運な事なのだと、小さい宿屋の部屋のなかで、自分のやっていることの正しさの証明が出来たことを、嬉しく思いながら、心に噛み締めた。

次回、セイジ達は大海原へ!?

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