初戦決着 そしてその後
主人公の能力、発動!
『「作られた引き」
セイジの怒りのボルテージが頂点に達した時に発動する。
次のドローで引くカードは、その時により変化したカードが山札の一番上のカードになる。
このスキルでドローしたカードを使用すると、デッキには残らず、消滅をする。』
今の状況に相応しいカード。 それは一体どんなものなのか。 引いたカードを確認すると、あまりの透明度にイラストも文字もほとんど見えない。 だがなにが書かれているのかは見て分かる。 そして改めてそのカードを確認して、そのカードを使用する。
「俺はコストを10支払い、魔法「re:バイブル」を発動させる!」
『魔法カード:re:バイブル レアリティ ミラージュ コスト10
自分の捨て場にいるモンスターカード1枚をフィールドに復活させる。』
「なっ!? 蘇生カード!? しかもほとんどデメリット無し!? それになんだ!? そのカードのレアリティ表示は!?」
相手も色々と突っ込んでくるがそんなことはどうでもいい。 このカートがどのようなものなのか。 そして何を呼び戻すのか。 もはや手に取るように分かってしまう。
「俺はこの効果を使ってこのカードを復活させる!」
そう言って呼び戻したのは先程倒された筈の水のような塊だった。
「・・・へっ! ビビらせやがって! 折角の復活カードなのに、呼び寄せたのはその訳の分からない奴かよ。 今更そんな訳の分からないカード、なんの役に立つんだよ?」
「・・・確かにこいつには普通の召喚の仕方じゃ発動しない効果がある。 それが今、ここで発動される。」
このカードを渡してくれた意味、今ならすごく分かるんだ。 このカードには俺がこの世界で行うべき事を示唆しているのかもな、と。 そう思った瞬間、今まで不鮮明で読み取れなかった部分が露になっていく。
『モンスター:死水霊 レアリティ銀 コスト10
種族:アンデット
「復活時」手札にあるカード1枚を相手に見せた後、捨て場に送ることで、そのカードの攻撃力と体力、及び効果は捨て場に送ったカードの記述と数値分、このカードのステータスとして上書きされる。
ATK 21 HP 8』
全てが繋がったかのようにこのカードの詳細が書かれている。 こいつの効果はただ上乗せされる訳じゃない。 上乗せした分は倒されるまでずっと残り続ける。 つまり捨て場に送るカードが強力であるほど、このカードも強くなるのだ。
「はっ!? 種族:アンデット!? しかも復活時に効果が発動!? そんなモンスターがいることは耳にしたことはあるけど、そのモンスターがその1体って事なのか!?」
そんなことを俺に訪ねられても困るな。 俺だって今初めて知ったんだから。 だがその質問に答える筋合いは持ち合わせてない。 俺はこの死水霊の効果を存分に使わせて貰おうと考えているのだから。
「死水霊の効果! 俺の手札にある「リヴァイアサン」を相手に見せてから捨て場に送る。」
『モンスター:リヴァイアサン レアリティ 銀 コスト25
種族:海竜族
効果 無し
ATK 30 HP 35』
リヴァイアサンは効果を持たないモンスターではあるが、その分ステータスは他に比毛を取らないほど強い。 そして捨て場に送ると、死水霊はみるみるその姿を変え、先程送ったリヴァイアサンの姿をした水の塊が目の前に現れる。 その姿はまさしく海竜そのままだった。 そしてそんな死水霊のステータスはというと
「ATK・・・51!?」
相手が驚いているが、ステータスは上乗せされるのでそうなるのは当然ではある。 そしてこれで完全に終わらせる事が出来る。
「覚悟しろ。 これが使い捨てと再利用の、決定的な違いだ。」
俺は自分の閉じた瞳を見開き、最後の攻撃に入る。
「コンバットタイム! スティールでオックスフォードを攻撃!」
スティールはカーテン・ザ・マントをオックスフォードの前でヒラヒラとさせる。 そしてそれを見たオックスフォードは興奮状態に入り突進を繰り出すが、スティールはヒラリとかわし、オックスフォードを空間領域の壁へと激突させて、決着をつける。
「そして死水霊で女帝を攻撃。 リヴァイアサンから受け継いだ清らかなる水の激流で、その女帝を浄化せよ!」
その号令と共にリヴァイアサンの姿をした死水霊は、口元に水の塊を溜め始め、そして一度それを口の中に含んだ後、まるで水圧機のカッターのように口から放ち、女帝に当てた。
「こんなことが・・・あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
最後の断末魔と共に、相手のライフコアは「0」になる。 しかしこの時点ではまだ勝利とは言えない。 ライフコアが「0」になったタイミングでターンを終わらせなければ勝ちにはならないのだ。
「俺はクールタイムに入り・・・そして、完全なるエンディングへと向かう。」
これでカードバトルは完全な幕引きとなる。
『この制約の勝者は セイジ ノムラとなり、アリフレア・ナルティは自由の身となります。』
その状況報告と共に今まで見えていたAI領域が天井から量子化して消え、噴水広場前の風景へと戻った。 辺りを見れば興味を無くしてその場を去る人と、まだ行く末を見守る人で分かれていた。
「さてと。」
俺は少女、アリフレアの所へと向かう。 少女はまた縮こまってしまうが、そんな彼女の頭をフワリと俺は撫でてやる。
「これで君はもう生き方を選べる。 君は自由になったんだ。」
そう、元々彼女のために戦っていた事なのだ。 それが俺の勝利で終わった今、彼女にはここに留まる理由なんて無いのだ。
「ふざけるな! そいつはどこにも行かせないぞ!」
「そうだ! それに制約の内容としては解放だから、明確に彼女がどこにいくかまでは制約に入っていないんだ。」
「つまり、だ。 そいつが俺達のところに来ればなにも問題は無いわけだ。 お前の頑張りも無駄だったようだな!」
この期に及んでまだこの子を持つことを諦めていないのかこの2人。 とはいえそれを決めるのもまた彼女な訳だから、一概には言えない。
「さぁ! 俺らのところに戻ってこい!」
アリフレアはその怒号にも近い声を浴びせられ、縮こまり、そして俺の方に助けを求めるかのように腕を掴んできた。
「なっ・・・!?」
どうやらこの子もさすがに目の前の男子とはいなくないと思ったのだろう。 俺の腕を強く掴んでいた。 むしろ痛くなってくる程に。
「お前! 俺が拾ってやった恩を、仇で返すのか!?」
「それを言う資格なんか、はなっから無いだろうが、お前には。」
「喧しい! そいつは俺が見つけたんだ! 俺が拾ったんだ! だから俺のもの・・・あがががががが!」
俺と戦った奴が掴みかかろうとした時、突如空から雷が降ってくる。 しかも天気が晴れているのに、だ。 これはもしかして・・・ そう思っていると「ピロン」とスノーゴーグルが鳴った。 新たになにかが追加されたようだ。
『制約に反するペナルティにより、今までアリフレアとトレードしたカードを再入れ替えします。』
これはあれか、トレードしたカードがアリフレアに戻ってくるのか。 サンバイザーらしきものは見当たらないが、元々所持していないのか彼らに取られたのか。 どっちみち今の状態ではカードを出すことも出来ないだろう。
「アリフレアと言ったか。 僕らが悪かった。 だからこちらに来てくれるか? 今までの愚行の詫びならなんでもする。 戻っては来てくれないかい?」
雷に打たれていない方(強いて言えば俺が最初に殴って気絶させた方)は優しくアリフレアに声をかける。 が、アリフレアは俺からどうやら離れたくないらしい。 一向に離そうとはしなかった。 その様子にどうやら諦めがついたようだった。
「そうかい。 まあ、僕らを嫌いになる理由なら分かっているさ。 これでお別れだ。 もう会うことも無いんじゃないかな?」
そう悲しげに語ってはいるが、本音を言えばその言い分もあまり信用していない。 そこの倒れている奴よりはまだ聞き分けは良いっぽいけどな。 仲間が雷に打たれて萎縮したとも捉えられるが。
「俺は・・・認めねぇ・・・! そいつは・・・俺のもんなんだよぉ!」
こいつ! あれだけの雷を受けてまだ立ってくるか! それだけこの子の何かに執着をしているようだ。
「お前は聞き分けが悪いなぁ。 負けたんだから素直に引いたらどうなんだ?」
「関係ねぇな! さっさと返しやがれ!」
もうここまで来るとどうしようもなくなってきたな。 引導を渡すしか手は無さそうだ。
「とっとと返しやがれぇ!」
痺れを切らしたのか、そのまま俺にとびかかってこようとしていた。 しかし俺はそれを迎え撃つように構え、
「こんの・・・馬鹿野郎がぁ!」
飛び込んできた奴の腹部へ思いっきり蹴りをお見舞いした。
「ぐげぇ!」
そしてそれを飛び込んだ勢いと共に腹部に食らったので、威力が倍になり、レンガ床を1回跳ねたあと、動かなくなってしまった。
「おい。 あんた言ったよな。 もうこの子と会うことはないって。 そいつに言っておけ。 もう一度会うことになったら、同じものを食らわすってな。」
そう言って俺は少女を連れて、噴水広場を後にするのだった。
この主人公の能力は、説明でもあったように、特定の条件下でのみの発動が可能となります。
良くあるチートスキルを使うタイプとは違いますので、ご了承下さい。