最後の領地
結局滞在時間が3日程になったが、このサデーロとお別れをする時が来た。
「ここより北東の領主に行くのですね。」
「この国の最後の街ですから、最後までやりますよ。」
「こ武運を祈ります。」
そう言ってくれたダイモネ様の見送りと共に、俺達はドーホース達と共にサデーロの街を出たのだった。
「それで、その北東の領地が、この国最後の領地なんだな?」
「そうだ。 領地「マカライヤ」はこの国で最も大きい領地だ。 ここと同盟が組めれば、実質この国の統一化が実現される形になる。 とはいえこの国だけの強固たる同盟なだけなので、どう転ぶかは分からないがな。」
ドーホース達を走らせながらベルジアに質問を投げ掛ける。 地図で見る限りでは特にこれといって過酷な道のりでは無さそうに感じる。
いや、今までがおかしかったのかもしれない。 森はともかく、谷に山、砂漠地帯と、地表をこれでもかという位詰め込まれた場所ばかりだった。 そんなのでよくここまで来れたものだ。 一歩間違えれば本気で死んでいただろう。 それはみんながいたから回避できただけの話。 俺だけだったら間違いないだろうな。
「でも、そのマカライヤで同盟が組めたとして、その後はどうするんです?」
ゼルダの疑問に俺は頭を抱える。 そう、この旅は元々アリフレアと共にこの国について回っていくのが本来の目的であって、同盟を組む話は、ベルジアが付いてきた辺りから変わってきていた。 ではこの国でその指命を果たした時の目的が、また不透明になっているのだ。 この国でやり残すことが無くなった状態で、地図でいう海の向こう側まで行けるのか。 向こう側がどうなっているのか分からない以上、軽率に計画を立てるわけにはいかなかった。 故に細かいところまでは考えていなかったのだ。
「俺っちはもしこの国を出ることになったら、亜人の国まで行ってみたいッスね。 俺っちのような亜人が住む街。 どんな街なのか知りたいッスから。」
「ボクも説明したんだけど、やっぱり直接見てもらった方が早いかなって思ったんだよね。 良い国だ、なんて言ったって、どう良いのかまでは分からないし。」
亜人2人は目的が明確になっているようだ。 海の向こうに国があるのなら、俺もその方がいいと思う。 まだこの国だけしか見ていないのに、この世界の事が分かった気でいるのは、違うからだ。 偉人になりたいとかそう言うのでもないしね。
「ふぅ、最近は狩りをしないで来たッスから、身体が鈍りそうだったッスよ。 ま、ちゃんと身体が覚えててくれたようで、良かったッスがね。」
目の前の豚の魔物を倒した後にそんなことを言うファルケン。 しかし彼の言う通りで、俺もゼルダもベルジアも、狩りを忘れていたのか、感覚を取り戻すまでに時間がかかった。 お陰で結構ギリギリな戦いになり、最終的にはファルケンの攻撃で沈めるようになってしまっていた。 そんなファルケンも疲労は出ているようだが。
「ここからしばらくは森になる。 あまり必要ないのかもしれないが、我々にとっては生命線でもある。 感覚は早い内に取り戻しておかなければ。」
ベルジアもそれは痛感しているようで、決意を新たにしていた。
だがその問題に最も深刻さを感じたのは俺だった。 ここはまだ領地と領地の中間区域。 領地の境が曖昧な森の中で俺は、現実的に役に立っている場面が少ないと感じてしまった。 必要は無いと言われればそうかもしれないが、それでもやるせない気持ちになっていた。 カードバトルで負けることよりも、深く考えさせられる場面だった。
「セイジ、交代の時間だ。」
「・・・んぁ? ・・・おお、そうか。 すまんな。」
結局あれから森を抜けることを断念、もといみんなの回復を優先して、これ以上は進むのを止めて、森の中で野宿をすることとなり、先程狩った豚を使って、夕飯を食べて、AI領域でのルーティンを済ませ、色々と準備をした後、眠りについたところで、見張りの交代のために起こされた。 もうここからは朝日が昇るまで起きているようにしている。
テントから少しだけ離れて俺はサデーロで買った、ちょっと長めの槍を手にした。 前に使っていた漁師用のモリは使い勝手があまりよろしくなかったので、これを機に、自分の身の丈程の長さの槍を購入したのだ。 剣先が少々短いが、その分突きの速さはあるだろう。
「ふっ! はっ! ほっ!」
突く、振り下ろす、また突く。 それを凪払いも行う。 だがまだ槍に振り回されている気がして、全力の力で出しきれない。
「元々そんな運動する人間じゃなかったからなぁ。 こうもなるか。」
言い訳を愚痴りつつも、俺は全力を出せるように、槍を使っていく。 みんなが起きるまでの時間だけ、今は無になれる。 その無こそが俺の時間になる。 おそらく槍を使えるようになるには最低でも2年は掛かると仮定する。 筋力とか槍の使い方とかその他の要素を含めての考えなので、実際のところはもっと掛かるかもしれない。 それでもAIの世界だけ役に立つ、なんてのはさすがに嫌だ。
確かに異世界に転生したところで、チートかなにかが欲しかった訳ではない。 むしろゆったりとした生活を送りたかったのも事実ある。 だけどそれでも俺が取った行動を間違えたくはない。 そのための努力は惜しまないようにしなければいけない。
他人に見られなくても良い。 そういったのを見せたところで、自己満足で終ってしまうからだ。 まだカードバトルだって、デッキが完成しているわけじゃない。 引きによっては負ける可能性があるのを、常に忘れてはいけないのだ。
「・・・ご主人様?」
アリフレアの眠たそうな声を聞いて、槍の訓練を終了する。 朝から物騒な物を振り回している場合ではないな。
「おはようアリフレア。 もうそんな時間か?」
「はい。 朝ごはんの、準備を、しようと、思ったのですが。 どうで、しょうか?」
「いいよ。 また手伝わせてもらおうかな。」
そうしてまたアリフレアと朝の用意をするのだった。
「それで、おそらく今日の夕方にはつけるが、ここで確認しておきたい事がある。 まずゼルダとファルケンなのだが、やはり亜人だということは黙っておいた方がいいだろう。」
「それは国王が亜人迫害主義者だと言うことかい?」
ベルジア達も起きて、朝ごはんを食べている時にそうベルジアから提案に、ゼルダが不機嫌になっていた。
「可能性が示唆できない。 だから領地に入ってもまずは顔を出さないようにしてくれというだけだ。 特に国王に会うまではな。」
「・・・私達は、どうすれば、いいで、しょうか?」
「俺達は一応ベルジアの補佐みたいな感じでいるのが一番だろうな。 今回はベルジアの意向に従おう。 俺よりもそう言ったのには詳しいからな。 ベルジアは。」
そう飲み物を啜りながら言った。 これは実際に思ったことで、外交云々はできるやつにやらせた方が当然良いのだ。 やれないことをやったところで、無駄骨もいいところだ。
「ところでセイジよ。」
「なんだ?」
「今日はまだパックは引かないのか?」
そう言われて俺は、「あ」と一言言ったが。
「・・・なんかこう、引く気分じゃなくてさ。 まあそのうち引くさ。」
「・・・常日頃からカードと向き合っているようなセイジが、そのようなことを言うとは。 心境の変化・・・いや、悩み事か?」
「俺をカードジャンキーみたいにいうなよな。 まぁ、ちょっとな。」
さすがにまだ「戦闘能力が足りないから」などとはいえない。 そんなモヤモヤした朝食を終えて、ドーホース達と走らせ、ようやくマカライヤの領地の境に着いたのだった。
主人公はこういったところで伸び悩みます。
最強になるための努力は惜しまない、と言ったところでしょうか。
カードバトルと関係無い? 体力は必要ですよ?




