夕方の押し掛け
戦いから戻ってきて
その声の人物の方を目を見やると、少々ふくよかな体をしている髭を生やした男性。 格好からしてここの領主のような雰囲気を出している。
「うっ・・・ダイモネ様・・・」
そしてそれを見た先程の少女は居心地が悪そうにしていた。
「・・・やれやれ・・・またあなたなのですか? 更正プログラム施設に何度も入れさせるような事をしないで貰いたい。 というよりも、まだ出てから1ヶ月も経ってないで、同じことを繰り返すのは、頭の悪い人間がすることですよ?」
この少女、なにやら訳ありなようだ。 深く突っ込むべきか悩んでいると、向こうから声をかけてきた。
「申し訳ありません、旅のお方。 なにかご不便な事をされてはおりませんか?」
「いえ、こちらは別に・・・」
そう言いつつもファルケンの方をチラリと見る。 なにかを言いたそうにして我慢しているのが分かった。 怒ってはいないようだが。
「紹介が遅れました。 私はこのサデーロの領主であります ダイモネ・サデーリティ5世でございます。 今回はこちらの監視の甘さが原因であります。 お許しを乞いたい。」
「それはいいのですが・・・更正プログラム施設とは?」
「簡単に言えば軽犯罪者が、今後社会に出ても問題を起こさないようにするための、再教育の場所であります。 とはいえ収容する対象は大抵は皆さんの年齢の方が多かったりしますがね。」
領主だったダイモネ様の話を聞いて、要は少年院みたいなところかなと思った。 実際はどうなのかは分からないけれど。
「それで彼女は、これまでに同じような手口をしては施設に入り、出ては入りを繰り返しているのです。」
あれだけやっても更正しないって、よっぽど反省してないと見えるな。 いや、スキルの都合の事とかを考えると、むしろそう言った生き方しか出来ないとも取れる。 スキルの定義に当てはめるならそうなるのだろう。 そしてそんな少女は先程までの威勢が嘘のようにしおらしくなっていた。
「まだまだ貴女には更正が必要なようですね。 更に期間を伸ばしてみましょう。 そうすれば・・・」
「ちょっと待って欲しいッス。」
そう声を掛けたのは誰であろう、さっきまで散々な言われようをしていたファルケンだ。 その声に誰しもが目をやる。
「あなたは・・・亜人ですか?」
「そうッス。 そしてその子に、ちょっといちゃもんを付けられて、制約カードバトルによって、俺っちの無罪を獲得したッス。」
「なるほど。 亜人の方への中傷誹謗でしたか。 それならば更に期間を伸ばさなければ・・・」
「だから待って欲しいッス。 確かに俺っちはこの姿について色々と言われたッスけど、そんなのは慣れてるッスし、俺っちだって、その人から学べた事があるんスよ。 許して欲しいとは言わないッスが、簡単に「悪いことをしたから」で済まさせて欲しくないんスよ。」
ファルケンの珍しい意見に、俺たちも驚いていたが、俺はファルケンがどうしてそこまで言うのか理解が出来た。
ファルケンが生まれたイークスで、彼は子供達を見ていた。 しかしそれは他者から見れば「悪いこと」を教えていた。 だがそれでも生きる術としてファルケンは子供達に教え込んでいた。 悪いことをしている自覚が無いよりも、悪いことをしていると分かった上で、それでもやらなければならない理由があると言った感じに、ファルケンは捉えているようだ。
「それに、ただ抑え込むようなやり方では、予定に外に出たときに、出来なかった事を余計にやるッスよ? それが今の現状でしょ?」
そのファルケンの鋭い意見にダイモネ様は面を食らいつつも「フッ」と小さく笑った。
「私はこのやり方に疑問など持ってはいなかったのですが、どうやら他者から見れば、やりすぎているように見えたのですね。」
「何事にも限度があるッスよ。 軽犯罪なら尚更ッス。」
「彼女は例外的だと思っていたのだが、他の子達も大人しいのではなく、押し殺していたと言うわけですか。 私は人の心を見透かせないようだ。」
「人間など、そのようなものですよ。 領主ダイモネ殿。」
そう言って隣のベルジアがダイモネ様に声をかけた。
「君は?」
「申し遅れました。 私はアルフィスト次期領主、ベルジア・アスラン。 今は同盟を作る為に旅をしています。」
「他の者は旅のお供かな?」
「今はそのように思って頂いてもらって構わないです。 私も同じようになったことがあるゆえ、そのように思うのは仕方ないと思うのです。」
「・・・ふむ。 今回は君たちに免じ、更正プログラムの内容を改めることにしよう。 それで改善されるかは・・・ 彼女次第と言ったところであろうな。 さて、来てもらおうか。」
「私達も同行、及びに同盟の話をしてもよろしいでしょうか? 無理でしたら明日にでも改めてお伺い致しますが?」
「いや、私の者が迷惑をかけた。 その謝辞も兼ねて招待をしよう。 こちらだ。」
そう言われて俺達はダイモネ様の後についていくのだった。
そして着いたのは明らかに今までの街並みには無かった、完全に城と言わざるを得ない位には大きな城であった。 そしてなんの躊躇いもなくダイモネ様は入っていき、そして門が開かれる。
『お帰りなさいませ、ダイモネ様。』
「すまなかったな。 外の騒ぎを片付けてきた。 それとこの時間帯だがお客様だ。 食事の用意と、客室を用意してくれ。」
「かしこまりました。 ではお客様、こちらへ。」
そう言って出迎えしてくれたメイドの一人が俺達を城の中へと案内してくれた。
「ベルジアも、いつかはこんな城に住んでみたいと思うんスか?」
「私はそうは思わないな。 こうしていても落ち着かん。 私は少々他よりも大きいくらいで丁度いい。」
「ふうん。 次期領主って言うくらいだから、てっきりそういうのも大きくいくものだって思ってたんですけど。」
「私は今の家くらいが丁度いいのだ。 正直今はこれ以上人が家に増えても困るだけだしな。」
城談義をしているなか、俺とアリフレアは物珍しさで辺りを見わたしていた。
「ご主人様。 なんだかあちこちが、キラキラ、しています。」
「お城の中なんてこんな感じなんだろうなぁ。 ベルジアみたいなことを言うけど、やっぱり落ち着かないかな。」
そう言いつつも、用意された客室で、俺達はソファに座りながら待っていた。
「それにしても申し訳ないことをしたなぁ。 ドーホース達を置いてきたのを失敗したなぁ。」
「こうなるのは分からなかったから致し方あるまいて。」
ベルジアと会話をしていると、ダイモネ様と共に数人のメイドが、ワゴンを引いて来た。
「済まないね。 私も食事がまだだったから、話をしながらで申し訳ないが、食事にしよう。」
そう言って食事をしながら同盟の会話を始めた。 実際に交渉をしているのはベルジアとダイモネ様となっているため、俺達はほとんど料理を吟味するだけの形になってしまった。 本当に申し訳無い。
「しかし君も大胆な行動を取るね。 領地のためとはいえ、自ら行動するとは。」
「私以外では父と母しかおりませんゆえ、町の者に行かせるのも気が引けたのです。」
「そこでこの者達とあった、と。」
「いえ、私の方が彼らについていったと言った方がよろしいかと。」
「ほう。 それはまた面白いな。」
うん。 俺にあそこまでの会話能力はない。 ベルジアに任せよう。 こうして料理を楽しめているだけでも、十分な価値になるしな。
そして食事及びに同盟の話が終わったところで、しばらく滞在することを伝えると、滞在期間中はこの城で寝泊まりすることを許可してくれた。 そこまでしてもらう必要は無かったのだが、せっかくの好意なので、甘えることにした。 そして風呂も入り、借りた寝室で寝ようと戻った時、ファルケンが部屋で黄昏ていた。
「どうした? 眠くないのか?」
「師匠。 俺っち、今までずっと、目の前のことから逃げてたんスかね?」
唐突な語りに俺は驚いたが、話を聞いてやることにした。
「俺っち、あの子の事を見て思ったんス。 もしかしたら俺っちが見ていた世界は、何もかもが狭かったんじゃないかって。」
「狭いと思ったのなら、開いていけばいい。 お前はあの街から出たんだ。 もうなにかに怯える必要なんか無いんだ。 ゆっくり学んでいけ。 そしてあの街で待ってる子達に、いつまでも誇り続けれる存在であり続けるんだ。」
弱気になる前に俺はファルケンに活をいれた。 そう言った後に、ファルケンが俺の方を見て笑った。
「俺っち、師匠にあえて本当に良かったッス。 これからもよろしくッス!」
「あぁ。 よろしくな、ファルケン。」
月明かりの下、また新たな友情と師弟関係が生まれた瞬間だった。




