亜人の立場
間に挟んだ街を出てから3日、砂嵐でほとんど視界が見えなくなると言う些細なトラブルはあったものの、ようやく領地サンドラックの中心街、サデーロに着いた。 そこはまさしく、「ザ・砂漠の街」と言った具合の雰囲気を出しており、日射対策の日差し避けや、かなり自信のある謳い文句のお店など、砂漠の中心とは思えないほどの活気溢れている街だった。
「こりゃまた随分な街並みッスねぇ。 みんなが生き生きとしてるッスよ。」
「ボク達みたいな旅人にも優しいし、この街の住人は気前がいいみたいだね。」
そう思っているのが亜人の2人と言うのは、正直皮肉にも見える。 まだ姿を完璧には見せていないので、余程の注意力が無いとおそらくは見抜けないだろう。
とは言え油断は出来ない。 どこでなんのトラブルにあうか、俺とベルジアは警戒心バリバリだ。 些細なトラブルも、こう言ったところでは火種になる。 避けて通ろうとしても、なにかしら巻き込まれる可能性が否定できなかった。
「ご主人様。 お宿を、お探し、いたしませんか?」
そんな中でアリフレアからの提案があった。 確かにドーホース達を連れて歩くのは、前々から目立つので止めていたのだ。 前回が例外だっただけで。
「・・・そうだな。 ドーホース達も砂漠の旅でクタクタの筈だし、休ませた方がいいな。 こういったところでの納屋ってどうなってるのかも気になるしな。」
少し警戒をし過ぎたのかもと自分を諌めつつ、宿屋を探すことにした。
「やっぱり普通に水が使えるのは最高ッスねぇ!」
シャワーから帰ってきたファルケンがそう喜びを示す。 俺達はなんとかドーホース達を預けてくれる納屋を見つけて、ドーホース達の預け料を出して、自分達も宿にたどり着いた。 似たような建物が多くて、見つけるのが大変だったが、無いよりは全然いい。
「それよりも大丈夫だったのか?」
「ベルジアさん。 さすがに物を壊すような事はしてないッスよ。」
「私はそっちの心配をしたのではない。」
そう言ってベルジアは再度ファルケンを見つめ直した。
「ここは亜人の確認がまだ取れていない。 いや、まだこの国全土で亜人がいるなどと言うのはごく少数だ。 そんな中で君やゼルダの本当の姿を見て、どう思われるか分かったものではない。 中には受け入れてくれない人物もいる。 こういってはなんだが、ここの領主と会うまでは、公には出来ないのだぞ?」
そう、ファルケンはゼルダ以上に亜人として目立つ部分が多い。 腕についてる羽がそれを物語っている。 それでファルケンが生まれ育った街では、一部の人間に忌み子と呼ばれ、殺されかけているのだ。 そんな暮らしをしてきてなお、開き直るような事が出来るのは、一重に俺達と同行しているのもあるが、エクシリアさんの力添えがあってこそだ。 この世界の亜人の事情などはほとんど知らない。 だがあまり良くないと思われているのは確かな気がするのだ。 この国だけならまだいいのだが。
「・・・心配ないッスよ。 誰もいない時に入ってるんで、着脱の時は見られてないッス。」
「・・・なら良いのだ。 ここまでの苦労を無駄にはしたくないのでな。」
「大丈夫ッスよ。 俺っちだって、その辺りは気を使ってるッスから。」
そう言っているファルケンの声色は、いつもの陽気なものではなかった。
「それでどうするんだ? こんな時間に行ったところで取り合ってはくれないだろ?」
この街に着いたのはお昼も過ぎた辺り、今はもう夕暮れにすらなろうとしている。 そんな遅くにカチコミの如く突っ込んでいったら、向こうの領主も迷惑だろう。
「当然明日に改めるさ。 夜の宮殿に入ろうなどとは、来訪者としては言語道断だからな。 返り討ちでこの場所を去らなければならなくなる。」
その答えに俺は「だろうなぁ」と心の中で思っていた。 そんなわけで俺達は夕方の喧騒の中の市場のような場所に足を運んでいた。 どうせここに1日留まるわけだし、なによりこの街の事を知らなければ外交の話には繋がらない。 街並みを知るにはいい機会だ。
「ご主人様! あれは、なんでしょうか!?」
「へぇ、純粋な砂の結晶かぁ。 光って見えるのが純粋な証拠なんですか?」
それに女性人も、この長旅でかなりの疲労感があっただろうから、こういったところで疲れを癒して貰わねば。
「俺達も行こうか。 人混みだからはぐれちまうよ。」
「それもそうだな。 おーい、あまり向こう側に行くとはぐれてしまうぞ。」
「俺っちの目でも追えるか分からないッスね。」
背丈的には俺と同じぐらいのファルケン。 確かにこれだけ同じような高さの人混みでは目立った格好をしなければ見つからないかもしれないな。 見失わない様に立ち回らないとな。
「・・・おっと、すいませんッス。」
後ろのファルケンが誰かにぶつかったのだろう。 そう言って謝った後に俺達と共に行こうとすると「ドサリ」後ろで倒れる音がした、そして
「・・・いった~い! ちょっと! ぶつかっただけなのになにするのよ!」
俺よりも年下に見えるカールがかった紺髪の女の子が、腕を抑えて、倒れながら叫んでいた。
「あぁ、もしかして倒しちゃったッスか? すいません、こっちもよく・・・」
「私の腕にナイフで切りつけておいて、よくそんな白々しい事を言えたわね!」
そう女の子が叫んでいるのを聞いて、野次馬達が騒ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さいッス。 俺っちナイフなんて出して・・・」
「そのローブの下に隠してるんでしょ! 出しなさいよ!」
そう言ってファルケンのローブを引っ張って・・・羽のついた腕を露呈させる。 その光景に、他の人たちも困惑を浮かべていた。
「あいつ、亜人なのか?」
「ならローブでもしょうがないよな。」
そう言ってくる野次馬の声に、女の子がさらに叫ぶ。
「ほ、ほら見なさい! こんな危なっかしいものを振り回したんでしょ!? 分かったら謝って! 私の体を傷付けたことを謝って! 治療費だって出して貰うんだから!」
そう言った辺りで俺とベルジアが割り込んでいく。
「いやぁ、すみませんねぇお嬢さん。 うちの連れがご迷惑になったようで。」
「彼も悪気があったわけではない。 むしろこうして亜人であることを隠していたことが裏目に出てしまったようだ。 私達からも謝罪をさせて欲しい。」
「そんなの知らないわよ! そいつが、私に、謝ればいいのよ! 土下座して!」
完全にこちらをアウェーにしたいようだが、俺もベルジアも、彼女がファルケンを嵌めようとしているのは目に見えていたので、こうして間に入ったのだが、どうやら簡単には引き下がってはくれなさそうだ。
「まあ、お嬢さんの言いたいことは分かりますがね。 こいつも気を付けてはいたんですがねぇ。 なにかの拍子に傷付けてしまったのなら、それで許してやってくれませんかね? お金は払いますよ。 傷をつけてしまったのは事実なのですから。 こいつ自身には、罪はないんですよ。」
「だから! 知らないって! 言ってるでしょ!? 謝ってよ!」
向こうは思い通りに事が運ばなすぎて完全に頭にキているようだ。 ファルケン自身が罪を認めるまで止めなさそうだ。
「分かりました。 ではお二人で制約カードバトルを行ってはいかがでしょうか? こいつが勝てば無罪、そちらが勝てば有罪と言うことで。」
「ちょっ!? 師匠!?」
「はん! 良いわよ! 勝ったら絶対に謝らせてやるんだから!」
そう言って俺とベルジアは困惑を極めているファルケンに耳打ちをする。
「いいかファルケン。 あの女の子はお前を嵌めるための「嘘」をついている。」
「嘘?」
「さっき彼女「ナイフで切りつけておいて」って言ったよな? だけどファルケンの腕を見たとき、「危なっかしいものを振り回した」って言ったんだぜ? その時点でどっちが真実かハッキリしてないし、それを振り回す危険性はお前が一番分かってるだろ?」
そう言うとファルケンは「コクリ」と頷く。
「それに腕からの出血はおろか、傷すらついていない。 お芝居自体も三流だ。 本当なら相手に観察させる前に事の終息を狙っていただろうが、1人じゃ無かったってのと、時間を稼がれたのは運の付きだ。 その証拠にあんだけ腕をおおっぴらに見せてるから、野次馬達も気が付いているんだよ。」
「でも、それならなんでカードバトルに?」
「確実に彼女を認めさせるためさ。 シラを切れないようにな。」
「それとあの子おそらくは亜人迫害主義者かもしれないからだ。」
その言葉にファルケンは目を見開いていた。
「大丈夫だって。 スキルに気を付ければ、お前の「Ws」はまず負けねぇよ。 戦った俺が保証する。」
そう言って少し離れるとAI領域が展開されていく。
『内容:ファルケンの罪状認否』
そうしてファルケンの、自分が悪いことをしていないことの証明の戦いが始まる。
「「さぁ、劇場の始まりだ!」」




