砂漠地帯の恐怖
俺達は割と早い時間帯にホセラーニの街を出た筈だ。 準備も万端にしたし、対策も講じた筈だ。 だが、それでも・・・
「・・・暑い・・・」
そう呟かざるを得なかった。
辺り一面の砂。 街からは大分離れた位置を、ドーホース達は歩いていて、引き返すのは困難なくらいになってきていた。 やっぱり砂丘とは違うなと、改めて感じさせられたものである。
照りつける太陽と砂の暑さに挟まれて、もうしんどいと感じてしまう。
「うう~・・・ご主人様・・・服が暑くなって、しまって、います・・・。」
「耐えてくれアリフレア。 砂漠においては、肌を露出する方が危険なんだ。 むしろこれが正装なんだよ。 熱の暑さだけは遮断しておかないと・・・」
俺と同じドーホースに乗っているアリフレアがそう言ってくる。
俺達が着ている、というよりも羽織っている感じに近い。 マントで体を隠すことで熱を遮断しつつ、通気性もよくするのだそうだ。 ちなみにこのマントの下は下着とブカブカのシャツ以外は着ていない。 暑さを少しでも和らげるための措置だ。 頭には太陽の熱で脳ミソがやられないように、ターバンを巻いている。 これもまた知恵の一つだ。
「セイジよ。 水分は取ったか? とにかく水分が蒸発しないようにしなければならないからな。 渇くと感じる前に飲んでおくんだ。」
「ああ、そうだな。 アリフレア、水筒に入ってる水を飲むんだ。 俺は後でいい。」
「は、はい。」
そう言ってアリフレアが飲んでいる間にベルジアの方を見る。
「しかし随分と迅速な判断だな。 それもここを歩く時のために仕入れた知恵か?」
「それもあるが、単純に私の喉が渇いたからだ。 人間、生理現象には、どんな事情があれど、抗ってはいけないと、思うのだがね。」
自分に正直な自己判断だったようだが、今はそれが命綱になっている。 判断を誤れば死んでしまうのは明白だからだ。
「そう考えれば、こういった時は、亜人種の方が強く感じるな。」
「ボクやファルケンを誉めても、なにも出ないですよ? それにボクらは、亜人の中でも、暑さに強い種類なだけですから。 適応力なら、普通の人種の方が断然上だよ。」
そう言っているゼルダは、俺達とは逆に腕やら足やら、顔まで出している。 これにはれっきとした訳があり、ゼルダはリザード系の亜人。 なので暑さには強いのと、鱗を乾燥させることにより、強固になり、相手と戦う時とかに有効打になるとは、ゼルダの意見だ。
そんなゼルダの格好は、ノースリーブに短パンと、この暑さを逆に満喫するかのような格好となっていて、暑さにやられそうな思考回路と視覚には、刺激が強すぎる。
一方でファルケンもローブを脱いで、タンクトップとジーンズと、隠すのが馬鹿らしいのではないかと思うくらいの格好をしていた。 といっても今ファルケンは近くにいない。
何故ならば空を舞っているからだ。 ファルケンは鷹の亜人なので、空を飛んで貰い、遠くになにかないかの監視役として担ってもらっている。 これによりファルケンは地熱を浴びることもないし、風を自分で起こせるので、暑さには強いのだ。 ちなみにそこそこの高さで飛んでもらってるため、日影にもなり、俺達にとってはありがたいことにもなっている。
さて、ホセラーニから出発して東にあった(方角までは変わってないだろう)太陽も、今では自分達の真上にある時間帯をドーホース達に乗って歩いている。 ドーホース達もさすがに砂漠を走る気にはならないようで、ゆっくりと、着実に歩を進めていた。
「行く方向は合ってるんだろうな? 何度も確認するけれど。」
「太陽が昇った方向を進んでいけば、間の街にはたどり着く。 大丈夫だ。 しっかりと受け答えが出来ているので、精神的には正常だ。」
こんなやり取りを俺とベルジアはいちいち繰り返している。 なんでそんなことをしているのかと言えば、砂漠地帯で最も恐れられることの一つは熱射病だ。 暑さで頭をやられそうならすぐに休憩を挟むことを作戦の内に加えたのだ。 急いで行くわけでもないし、変に焦らしてもしょうがない。 着実なる一歩こそ、最大の攻略法なのだ。 と自分の頭に言い聞かせている。
そう考えていると、上からなにかが前方に落ちてくる。 双眼鏡で確認すると、それは羽根だった。 しかし見覚えのある羽根だったので、ドーホースに拾わせた。 その羽根には大きくもなく小さくもない文字で
『この先に敵や障害になるものはないッス』
と書かれていた。 ファルケンからの通達代わりとして、こういった方法を取った。 わざわざ降りて飛んでを繰り返すよりは、この方が歩を止めずにすむし、ファルケンも疲れない。
「さて、このまま何事もなく行けば、私達は3日後には中心街から離れた街に一度入ることになる。 とはいえ、あまり長居はしない。」
「どうして、ですか?」
今後の行き先の事を話ながら、昼休憩を挟んでいた。 食べているのはドライフルーツだが、この場合は下手に料理などはしない方がいいと判断したからだ。 そんな昼食を進めながら、アリフレアがベルジアに疑問をぶつけた。
「我々の目的はあくまでも領地同士の結託。 つまり領主との契約を結べれば、自ずと同じ領地の街なども同じ様になってくる。 必然的にな。 だから最小限で買い物をすませて、次の街に出発した方が、いいと言うわけだ。」
確かに留まる理由のない街で足踏みはしていられない。 ベルジアの案には賛成だ。
「でも天気の崩れとかはどうする? 砂漠とは言え、なにも起きない訳じゃないでしょ。 竜巻とか。」
「その辺りも考えた上での、ベルジアの話なんだよ。 一応2日は見積もるつもりだが、領地同士の結託は、早い方が当然いいからな。」
ゼルダの意見も分かっている上で、そう回答した。 砂漠だって決して安全ではない。 その事を踏まえたからこそ、こうしてゆっくりと食事をしていたりもするのだ。
「よし、日が暮れる前に、少しでも前に進もう。」
そう言って俺達は先程のフォーメーションで、またドーホース達と共に歩くのだった。
そして夜になった。 もう周りに何があるのか分からないくらいの暗闇。 照らしているのは天然の星空だけだ。
「ふぁぁ・・・! 綺麗、です!」
日が沈んでも、ドーホース達の限界まで歩かせて、ドーホース達が限界を迎えたところで、テントを立てて、1泊することにした。 そしてそんな天然のプラネタリウムを見て、アリフレアが感動をしていた。
「俺はいつものルーティンを行ってから寝るから、順番になったら起こしてくれ。」
「ああ、ゆっくりと休め。 明日も早くに出発するからな。」
砂漠で1泊するに当たり、俺達は時間を決めて、見張りをすることにしていた。 体感時間が同じなら、今は大体10時なので、寝れるのは長くても6時間と言ったところか。 ちなみに見張りの順番にアリフレアは入れてない。 いくらなんでも中学生くらいの子供に見張りのために起きていろなんて無茶な事は言いたくなかったからだ。 それに昼間までの暑さが嘘だったかのように、今は身体の芯から寒さを感じる。 この温度差はさすがに起き続けるのは得策ではない。
そんなわけで俺は来るべき時間まで、眠ることにしたのだった。
俺はある夢を見ている。 懐かしい夢、机の感じや黒板の匂い、学校での情景がありありと浮かんできている。
みんなとバカ騒ぎしたり、上から見える下の景色で、告白シーンを目撃して結末を見送ったり、行事に向かって必死になったりと、本当に色んな事をしたものだと実感していた。
だが、みんなの姿が思い浮かばない。 いや、正確には全員の顔が、だ。 高校に入ってから出来た友人、中学が同じの女子辺りまではなんとか思い出せるが、それ以上は思い出せない。 そんなに苦い思い出は無かった筈だが・・・?
「セージさん。」
俺を呼ぶこの声は誰だっただろうか? 声からして女子なのは分かるけれど、俺を名前呼びしていたのって・・・
「セージさん。」
その声と共にどんどん目の前の景色が閉じていき、再度目を開けると、ゼルダがそこにいた。
「セージさん。 交代時間ですよ。」
その言葉にむくりと体を起こして、外に行く準備をしていると、ゼルダからこんな言葉がとんできた。
「何か怖い夢でも見ました?」
「え?」
その言葉でゼルダの方に顔を振り向かせた後に、自分の目から涙が一粒、頬を通り過ぎていくのだと分かったのは、外に出ようとして、テントの入り口部分を開けてからの事だった。
次回、少しだけセイジの過去に触れていきます。




