「忌み子」
「彼の両親は、元々どちらも冒険家で、ここで住むと決めた時に、ファルケンはお腹の中に宿していたのです。 そしてファルケンが産まれた時、彼は人ならざるモノがありました。」
「人ならざるモノ・・・ 彼は亜人なのですか?」
「ええ、彼は亜人の中でも「鳥人」と呼ばれる存在なのです。」
ベルジアの質問にイクシリアさんは淡々と答えた。 鳥人。 想像をするのは鳥目で嘴があり、鉤爪もあり、羽が生えているというビジュアルだ。
「赤ん坊なので、片鱗は小さかったのですが、彼の両親はすぐに前領主に報告をしました。 「息子が亜人なのだ」と。 彼らは理解していたのです。 息子が亜人となった理由を。」
イクシリアさんはそう深々と頷いた。
「理由を伺っても?」
「先程も言いましたように、彼の両親は冒険家。 その昔、1匹の大型怪鳥を、それぞれのパーティーで連携して戦っていた事があって、2人ともその怪鳥から傷を負ったのが原因だと話していました。」
傷から亜人の元となる動物の細胞が混入して、次代に亜人として産まれることがある。 前にゼルダの言っていた事が、深く理解できた。
「当時の街の人も、ファルケンの姿を見ても、なんとも思わず、むしろ街にとっては初めての亜人でもあったので、物珍しさに見に来たこともあったそうです。 彼の少年時代も、苦悩はありませんでした。 あの事件が起きるまでは。」
その辺りで話のトーンが落ちる。 そこまで順風満帆だった生活を送っていたファルケンがああなってしまったのは、なにが原因なのだろうか。 俺達は、聞く耳を外すことが出来なかった。 いや、してしまったら、イクシリアさんに失礼だと思ったからだ。
「前領主も私も、たまたま外に出掛けていた時、ファルケンの事を酷く醜いと思っていた一部の人間が、ファルケン達の家に襲いかかったのです。 捕縛して分かったのは、彼らが「亜人はこの国にはいらない」と強く訴える人間達だったのです。 「亜人は忌み子だ」とも言っていた人もいました。」
その言葉に俺はゼルダを横目で見てしまう。 亜人が忌み子だなんて、そんな滅茶苦茶な話があるか。
「街の人達も大勢止めようとしましたが、彼らは諦めませんでした。 そしてそこから出し抜いた1人が、隠れていた、当時は青年になりかけていたファルケンを見つけ斬りつけようとしたところに・・・ご両親が庇って、ファルケンは逃げたのです。 その宗徒達は、何人かは取り逃しましたが、捕まえることは出来ました。 ですが彼にとって、失った信頼はとても大きいものとなってしまった。 あの時、私もついていくなどと言わなければ、こんな悲劇などは起きなかったのです。」
悔やむように話を閉じたイクシリアさんの目は、涙で潤んでいた。 つまりイクシリアさんは、ファルケンの行動に対し、「目を瞑っている」のではなく、こんな悲劇を子供達にさせないために、孤立奮闘する姿を「罪滅ぼし」として、見ているだけなのだ。ファルケン自身は、それがどこまでやれているのかは分からないが、彼なりの成果は出ていると考えて良いだろう。
「その話、彼に任せてみませんか?」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「ボクはリーゼルデ・フォン・フランシュシュ。 ボクも、亜人なんですよ。」
そう言いながら手袋を外してく。 そして鱗に覆われた腕を見せた。 更に首のチョーカー、奴隷の首輪も見せる。
「・・・あなた、その首輪は・・・」
「これはボクが自らの意思で彼に、セージさんに奴隷の首輪を付けて欲しいと言ったのです。 当然彼は最初こそ困惑しましたが、ボクの本気の目を見て、付けてくれました。」
確かにあの時のゼルダの覚悟は本物だった。 こっちとしても、別に奴隷らしいことはしていないので、後ろめたいこともなにもない。
「・・・そこまで信頼に値する人物・・・いえ、間接的とはいえファルケンの事を見てもなにも思わなかったのですから、貴方は亜人にとって、理解ある人なのでしょう。」
俺の目を見据えるイクシリアさん。 そしてイクシリアさんは、俺の手を取った。 優しく、だけど冷たい彼女の手は、俺の手をしっかりと両手で包んでいた。
「ファルケンにずっと言えなかった提案を貴方に授けます。 彼に届けて欲しい。」
「内容を、教えてください。」
俺は宿を後にし、目的地へと歩き出す。 夜の路地裏のバー。 そこの入り口の扉は閉まっておらず、そのまま中に入り、奥の扉に躊躇いなく開け、階段を下る。 そしてその先にあるドアを背にした状態で立ち、後ろ手でノックを3回した。
「・・・誰っすか? こんな夜分遅くに。」
扉の奥から声がする。 昼間の「大将」、ファルケンの声だ。 だが扉越しなので本物か分からない。
「あんたがファルケンで間違いないか?」
「・・・っ! 自警団の奴っすか!?」
早速警戒モードに入られてしまった。 いや、それは当然の話だ。 こんな夜分になんの用事もない奴が来ているんだ。 そう思うのは自然な流れだ。 だが警戒されっぱなしも話が進まない
「待て待て。 俺は自警団なんて知らない。 領主から話を聞いただけだ。 あんたのことはな。」
「・・・確かに自警団なら、こんなところに1人でくるのはおかしいっすね。」
ここに来ているのは俺一人。 他の三人は待機、というよりも下手に警戒されても困るので宿に残って、俺一人で行くことにしたのだ。
「紹介が遅れたな。 俺は野村 清司。 この領地にはちょっとした仕事で来て、あんたの教え子達に財布を取られて後を追ったらここに着いたって訳だ。」
「じゃあなんすか? その財布でも取りに来たってことっすか?」
今さらそんな無粋な真似する気なんか更々無い。 むしろそれならば昼間の時点でやってる。
「うちの仲間に国の現状に詳しい奴がいてな。 そいつの話を聞かなければ、突貫していただろうぜ。 「金返せ」ってな。」
「なるほど、昼間の一回分多かったドアの開閉音はあんただったんすか。」
「聞こえてたのか?」
「耳もいいほうなんすよ。 今と同じ様に1人だし、突貫しても抑え込む自信はあったっすから、敢えて泳がしたんすが、なにもせずに帰ったんで、もう現れないのかと思ったっすよ。」
こっちが様子を伺っていたように、あちらさんも様子を伺ってたか。
「あの話を聞いて、咎めるのは止めたんだよ。 そんなあんたに朗報、というよりも領主であるイクシリアさんからの伝言の話をしたいんだが。」
「・・・その話、イクシリアさんから直接聞きたいっすね。」
おっと、すんなりとは聞いてはくれないか。 しかし領主に直接、ということは、聞きたいとは思ってはいるわけか。
「俺じゃ不満か? 伝達役の俺だと役不足か?」
「俺っちは前の領主にも今の領主、イクシリアさんにも、こんな成りでもちゃんと見てくれていた恩があるっす。 だからあの人達の言うことなら信じれますよ。 ですがあんたは部外者として俺っち達の話に入ってきた。 自警団じゃないところは信じてやってもいいっすが、それ以外は半分も信用してないっすよ。」
ファルケンの言葉にはやたらと重みがあった。 いや、そう言った場面を何度も経験しているからこその話術だろう。 俺みたいな奴は何人も来たんだろうな。 人間不審になってもおかしくはないのだが、子供達の信頼があるということは、完全には人間を見下していない証拠だ。
でもそれだと交渉の埒が明かない。 それならば
「信用できないというのは最もだ。 だからカードゲームで勝負しないか? デッキは持ってるだろ?」
「・・・カードゲームを通じて、心を通じ合わせる気っすね? いいっすよ。 制約はなんにするっすか?」
「いや、制約によるものはしない。 それに俺はここからあんたの部屋に入るつもりはない。」
それで入ってこいと言われて、逆に罠を仕掛けられていたら堪ったものでは無いからな。
「俺っちの顔を見ないで戦うつもりっすか?」
「別にバイザーを着けてAI領域で戦えば、あんたの顔を見なくても戦える。 イクシリアさんからあんたは鳥の亜人なのは聞いているが、あんたは顔を見られたくないだろうから、このまま戦わせてもらうぜ。 それに部外者は俺だけじゃないかも知れないしな。」
ここに立っていれば少なくとも壁にはなる。 それでファルケンに取って不利な人間ならば、逃げてもらっても構わない。 俺はそう言う考えで来ているのだから。
「・・・・・・」
ファルケンは押し黙ってしまう。 この間に逃げてないよな?
「準備は出来たか?」
「いつでもいいっすよ。」
どうやら逃げずに待っていたらしい。 それならそれで安心だ。 バイザーを着けて、AI領域に入る。 透明なドア越しになるがファルケンの姿がぼんやり見えた。 そしてファルケンはディスクを構えた。
「なぁ、始める前に聞いてもいいか? その今の喋り口調は作ってるのか?」
「いや、これが素なんす。 あいつらの前では、この喋りは格好がつかないっすからね。」
それならいい。 その喋り方の方が親近感がわく。
「「さぁ、劇場の幕開けだ!」」




