裏(?)の住人
「美味しかったね。 あそこの料理。 ついつい食べ過ぎちゃったよ。」
ゼルダがそう感想を述べているのも無理はない。 明らかに初めて見る腸詰めだったのに、それを遺憾無く使って、絶品の美味しさに仕上がっていたのだから。 別に旅の途中で作っていたアリフレアの料理が不味いとかそんなことを言っているわけでない。 ただそれ以上に美味しかった。 それだけの事だ。
「あれは夕飯も期待できるかもな。」
「それにしてもこれから領主の所に向かうのか。 どのようなお方なのだろうか?」
「それにボク達も言っても大丈夫なの? 君達は理由があるけれど・・・」
「いた方が話が進むことだってある。 少なくとも仲間はずれにはしないさ。」
俺達が向かっているのは領主がいるであろう大きな家。 何故家なのかと言えば、先程の宿の店員に、領主に話があることを説明したら、場所の案内をしてくれたからだ。 家の特徴も聞いているので、大丈夫だろう。
そうぼんやりと考えていたら、「ドン」と身体がぶつかった。 なにかと思えば、子供がいた。 どうやらボーッとしすぎて、すれ違うことが分からなかったようだ。
「ごめんよ。 考え事をしててね。 大丈夫か?」
「うん、大丈夫。 こっちこそ前見ていなくてごめんなさい。」
そう言って頭を下げていく2人の少年。 そのまま歩いて去っていった。 そしてこちらも歩きだした時に、ふと違和感を感じた。 自分のズボンのポケットを確認すると
「・・・してやられたか。」
そう、財布を取られていたのだ。 前回の地点で買い物を終えた後に銀行に預けていたので、金額は大したことは無かった筈だが、取られたのは間違いない。
「そのようだな。」
同じ様に答えたのはベルジアだった。 取られたなら追いかけなければ、そう思ったが、ベルジアに腕を取られてしまった。
「やめておくんだ。 彼らを追う必要はない。」
「財布を取られて、見過ごせって言うのか?」
「この領地ならではかもしれない。 ああして子供が盗人を働いてしまうのは。」
「・・・どういう意味だ?」
「先程の店員が言っていた「自給自足」というのはあくまでも「大人達」の世界での話。 それの中に子供達が入るのは滅多に無いことだ。 それ故に子供達には交渉材料や物々交換の品がない。 それだけで子供達がなにも買い物が出来ないのは、おかしな話。 だが品がなければ買うことも出来ない。 だから最低限の金銭ならという話で子供達がやっている。 そして我々のような外の人間からああして取ることしか出来なくなっているのだろう。 そう考えれば、少し位なら腹も痛まないだろ?」
そう諭された俺は怒るに怒れなかった。 俺もそこまで鬼ではないので、見逃すことにした。
「それにしても、なんでそこまで知っているんだ?」
「この国の事を良くするために、他の領地の事も知っておくのは当然の事だ。 それに」
そう言って別のポケットから別の財布が現れる。
「こうして対策も取ってあるのでな。 本当に痛まないのさ。」
なるほどね。 どの財布を取られても関係無いようにしたわけか。 ま、そう言うことなら・・・
「・・・ん?」
そう思いながら子供を見ていたら、数人の子供が集まった後に路地裏に入っていくのが見えた。 子供だけであんなところに入っていったんだ?
「どうした? セイジ。」
「ベルジア、お前達だけで行ってくれ。 後から追い付く。」
「あ、ご主人様。」
そう言って俺は先程の路地裏に行き、その先に行くことにする。 その先にあったのは小さな扉だった。 なにやらバーのような建物なのだが、階数は高くない。 一応ドアの向こうに誰かいないか確認しつつ中に入る。 中は見た目どおりのバーになっていて、奥にもうひとつ部屋に通じるドアが見つかったので、先程と同じ様にドアを開けると下に続く階段があったので下っていく事にした。
下った先にもうひとつ、大きな扉があった。 そこの扉を開けようとした時、中から声が聞こえてきたので、扉から少し離れ、ギリギリの所で壁を背にして聞き耳を立てる。
「大将見てよ! 今日も頑張ってきたよ!」
中から子供の声がする。 まだ外が明るいとは言え、こんなところでなにをしているんだ?
「うわぁ、あのお兄さん達、意外と金持ちだったみたい! ほら! 100セートが入ってるんだもん!」
「すげえ! これならなんでも買えるじゃん!」
そこから数人の子供達の声もした。 やはりなにかが行われているようだ。
「お前達、喜ぶのもいいことだが、ちゃんと悪いことをしているって自覚はするんだぞ。 そうじゃないと、それに慣れて意識が薄れて、取り返しがつかなくなるんだからな。」
先程の子供達とは違い、声色が変わった。 さっき言っていた「大将」か?
「分かってるよ大将。 俺達だって怒られたくはないもん。」
「ならいいんだ。」
「ねぇ大将。 このやり方は大将から教わったから、大将が貰ってよ。」
そんな会話が聞こえてきた。 もしかしたらここの子供達は、その「大将」とやらに、洗脳紛いな事をされているのかもしれない。 それはそれで問題だ。 止めに・・・
「それはお前達自身で取ってきたものだ。 俺が貰う権利はない。 お前達が好きに使うんだ。」
「でも大将。 それだと大将が可哀想だよ。」
うん?
「そうだよ。 俺達ばっかり使ってちゃ、大将がいつか死んじゃうよ。」
「馬鹿野郎。 俺は見た目が人じゃないんだ。 お前達よりは丈夫だよ。 それになんだかんだで、お前達が世話を焼いてくれて、食い物やら菓子やらを持ってくるんだ。 心配は要らねえよ。 それに、この領地でお前達を残して死んでいけるかよ。」
どうやら訳あり大将みたいだな。 また接触する前に、情報は仕入れておいて損はない筈だ。 情報網はあるだろうし。
「じゃあ、また買ってこないとね! 準備してから、買い出しだ!」
その子供達の声を聞いて、俺は立ち去ることにした。 お咎め云々は現状を知ってからだ。
「随分と早かったじゃないか。」
領主の家に向かおうとしたとき、そこにベルジア達が待っていた。 しかも全員律儀に道路の真ん中ではなく、邪魔にならないように、隅で待機をしていたようだ。
「なんだ。 先に行ってて良いって言っただろ?」
「仕事を頼まれたのは君だ。 我々だけが先に行っても、話は進まないと思うが?」
全くの正論である。 ベルジアが次期領主であろうが、それはこちらの話とは異なる。 なら俺を待って、使者として出向いた方が確実か。 お付きってことに出来るし。 そう思いながら、再度領主の家に向かい、歩き始める
「それで、なにを見てきた?」
「なにも見てないけど、ここの領主に聞きたいことは出来た。」
「聞きたいこと?」
「仕事が終わってから、無理を承知で聞いてみるさ。」
聞き入れて貰えるかは定かではないがな。 前科があるし。
「確かにヨセマからの通達、承りました。 近日中にヨセマに私からの書面を送る事にしましょう。」
ここはイークス領主の住む家。 民家に紛れ込むようにあったそのリビングでテーブルを挟んでエメラルドグリーンの長髪で、縦セーターで身を包んでいる、領主のイクシリア・ナージェストさんに手紙を渡した。 こうしてみると、領主というよりは、家を影で支えるお母さんのような存在感がある。 包容力は高そう。
「イクシリア様。 私はアルフィスト次期領主 ベルジア・アスランと申します。 ひいては今回の通達の件、私どもの領地も、参加させて貰いたいと存じております。」
「アルフィスト・・・半年前に作られたという領地ですね。 確かにあそこはまだ開拓したてで、様々な物が不足していることでしょう。 それにこの国にはない資源も、もしかしたら見つけられるかも知れませんね。 分かりました。 ヨセマにも、そのように通達しておきますね。」
「ご助力、感謝いたします。」
うん。 聖母だ。 なんか聖母が見える。 お母さん以上の存在だったよ。
「しかし皆様、遠方からわざわざ来てくださり、お疲れでしょう? この領地の在り方も確認しつつ、街を堪能していって下さいな。」
イクシリアさんは紅茶を一口飲む。 その優雅さに見とれつつも、俺は聞きたいことを聞くことにした。
「イクシリア様。 無礼を承知でお聞きしたい事がございます。」
「なにかしら?」
「この領地で子供達が盗人行為を行っています。 そしてその行為を、行わせている「大将」という人物がいるらしいのですが、心当たりはございますか?」
その質問にイクシリアさんは驚いていた。 そして次に来た言葉は
「・・・ファルケンに会われたのですか?」
子供達の行為そのものではなく、その「大将」と呼ばれているであろう人物の正体の事を話していた。
「いえ。 ただ子供達が不自然に路地裏に入っていくのを目撃し、後を追った時に、部屋の一角で集まっているのを聞き耳を立てていました。 中には入っていないので、どのような人物かまでは、確認していません。」
「・・・そう。」
イクシリアさんは俺がそう答えると、どこかホッとしたような感じで、身体の力が抜けていた。 そして改めて話す体勢に戻った。
「あの子、ファルケンはあそこまで追いやる必要は、最初から無かったのです。 これは私と前領主が、ファルケンを助けてやれなかったのが、原因なのです。」
その語り口調は、もの寂しげで、自分を贖罪するかのような、重たい空気になった。
次回はちょっと序盤にシリアス、入ります。




