巨大な敵との戦い
オークはまるで「この道を通りたければ俺を倒していけ」と言わんばかりに、手に持っている棍棒を振り回している。 俺達はドーホースの背中からおりて、目の前の現状を確認する。
「前回は熊と戦って、今度はオークかよ。 なんかもう少し楽なやつとは戦わせてくれないのか?」
自分のエンカウントの悪さを嘆きつつ、どうするかを考える。
「とりあえずお前達は、俺達が死んだら真っ先に国に帰るんだ。 俺達は客人だけど、お前達の所有者じゃない。 ちゃんとした所に戻れるのが筋だろうからな。」
ドーホース達に、おそらく聞こえてはいないだろうが、意味くらいは読み取ってくれるだろうと信じ、オークに目の照準を合わせる。
倒してしまうのが、今後の為にはなるだろうが、戦闘力はほぼゼルダに頼りっぱなしになる。 そうなるのだけは勘弁しておきたい。 だが俺とアリフレアの戦力では心許なくなる。
ならば先程採取したものを献上し、それを通行料として差し出すのはとうだろうか? アイディア的には悪くないが、正直目の前のオークは、食べ物に関しては困っていなさそうだと見える。
そう思っていたら、オークが一点を見始めた。 そしてその後にニヤリと笑っていた。 視線の先にはゼルダがいたのだ。
「どうやらボクを求めているらしい。 どうする? ボクがあいつのもとに行けば、ここを通してくれそうだけど?」
「それを許すような俺だと思うか?」
「全く思わないよ。 セージさんはそういう人だから。 じゃあ、やることは1つかな?」
ゼルダは首を振った後にオークの前に歩いていく。
「おい、ゼルダ。」
「大丈夫、敵を油断させるためだよ。」
そう言って前に出ていくゼルダ。 俺は護身用の剣を腰から出せるような状態で待機する。 アリフレアも後ろ手でペンチを持っているし、ドーホースに至っては2頭ともいつの間にかオークの間にひっそりと詰め寄っていた。 逃げるという選択肢は、あのドーホース達には無かったようだ。 全員戦闘体勢は万全。 後はあのオークにどういった感じで攻めるか、だ。
ゼルダはオークの前に着くと、オークは鼻息を荒くする。 異種交配において、オークとリザード種ってどうなんだろとか、訳の分からない思考を巡らせていながら、ゼルダは自分のシャツの胸の位置のボタンを外す。 それに対してさらに鼻息を荒くするオーク。 ただなんというか、ゼルダが今後そういった方面へと進むことの無いように制御を掛けておかなければいけない可能性が見えてきた。 あのまま同じ手口で慣れたら、犯罪まがいなことをしかねない。 させる気はないが。
とにかくオークの注意はゼルダに向いた。 これで簡単に横を取れた。 これで後はゼルダが逃げれるかどうかにかかっている。
オークはゼルダに一歩、また一歩と近づき、手が届きそうな程になった所で・・・ゼルダはオークの懐に潜り込み、目の部分に引っ掻きを食らわせる。 オークは突然の出来事と目をやられたことにより怯んだ。
「ブモォォォォォ!」
オークは雄叫びをあげながら引っ掻かれた目を抑えている。 そこで畳み掛けるようにドーホース達が左右から蹴りを入れる。 同時に当てたので衝撃が凄まじい事になっているだろう。 オークは雄叫びをあげることすら出来なくなった。 そこにアリフレアのペンチによる脳天への殴打。 おそらくクリーンヒットしたのだろう。 オークは白眼をむき始めたが、すぐに我に返り、アリフレアの方を見る。 今のアリフレアは空中に投げ出されている状態ではあるが、そこはゼルダがしっかりと保護していた。
そしてそんなやり取りをしているなかで俺は後ろに回り込んで、護身用の剣を上から背中を切る。 もちろん護身用のナイフなので威力は期待できない。 だが今までの攻撃を食らったオークならばかなりのダメージにはなるだろう。 このまま畳み掛けてしまおう。
そこからオークになにもさせないようにみんなで立ち回って、ようやくそのオークの巨体を倒すことが出来た。 もちろん最後の最後まで油断をするきはない。 こう言った場面でやられるなんてのはアニメや漫画でも少なくはない。 倒れたオークが完全に倒れるまで俺達は見守り・・・ ヨコッコ達がオークの上に乗っかっても動かないのを確認して、ようやく終わりを告げた。
「・・・ふぅ。 緊張したぜ。」
「お疲れ様です。 セージさん。 中々の強敵だったとボクも思うよ。」
「ドーホースさん、達も、一緒に、戦ってくれた、から、勝てた、んです。」
「そうだなぁ。 俺達3人じゃ、決定打に欠けるからな。 本格的に装備を充実させないとな。 このナイフじゃ危うそうだ。 さっきの戦いであいつの油も脂も含まって、しばらく役には立たなそうだし。」
何はともあれ奴には勝てた。 そんなわけで、その戦利品というわけではないが、オークの肉を解体し始める。
「そもそもこいつに価値の付くものなんかあるのか?」
「お肉は、食べられるとは、思います、が。」
「うーん。 オーク自体にはそんなに価値はないかもしれないねぇ。 強いて言えばオークがここで商人を襲っているのなら、その商品を抱え込んでいる可能性はあるけれど・・・服を着ているのも見よう見まねかな。」
そういいながらオークの体を解体していくゼルダ。 アリフレアと俺もそれに加わり、オークはどんどん肉の塊になっていく。 というかそれぐらいしか無いのか、こいつは。
「ん。 臓器は水で洗おう。 小腸は水で浸して使えるようにしよう。」
「腸詰め?」
そうアリフレアが答える。 この世界にもとりあえずは腸詰めは存在しているのか。 まあハムがあったくらいだし、燻製じゃなくても日干し肉位なら出来るんだろうな。
「そうそう。 アリフレア、塩は買ってあったよな?」
「はい。 それと、今朝取った、香草も、あります。」
「うん。 それでいい。 ゼルダ、肉を細切れにするのを手伝ってくれないか?」
「了解。 どのくらい使う?」
「まだ先は長そうだから全体の3/4位は使ってもいいだろ。 塩漬けしておけば腐りにくいだろうし。」
「分かったよ。」
そうして俺達のオークの肉での調理が始まったのだった。
オークの肉はかなり脂身の方が多く、余分な脂肪分を取ったところ、大量に見えていた筈の肉は、少し小さくなったように感じる程に少なくなった。 まぁ、3人で食うには、2週間は大丈夫な程度にはあるけれど。
そして分けた肉と、脂身を少しずつ切って、挽くための機械なんかは一切無いので、手作業で肉と脂身の混じり物を細かくしていく。 小腸はかなり臭いや中身がキツかったので、洗ったのち、塩水に浸けていた。 消毒と保存用にするためだ。 当然肉の方にも味付けとして塩と細かく刻んだ香草、そしてブラックペッパーをまぶしておいた。
よく異世界では「ペッパーは稀少で、使うのは貴族のみ」なんて言ったものが小説だとよく聞くが、この世界ではそんなこともないようだ。 なので今回の香辛料の購入はそれなりに成果を得られたと俺もアリフレアも喜んだ。
そして小腸がいい具合になった後、3人でせっせかと詰めていって、そしてドーホース達の走行の邪魔にならないところに吊るしておいて、残ったオークの肉は一旦そのまま持ち運ぶことにして、渓谷を走らせるのだった。
「すっかり夕暮れになっちゃたね。」
渓谷から走って少ししたところでゼルダがそう言ってくる。 それもそのはず、オークの肉の解体と調理をしていたお陰で大分時間が過ぎてしまっていたので、少し登ったところで陽が沈み始めたのだ。 渓谷は森と違い、下手に走れば大災害になりかねない為、ドーホース達にも走らせるのを極力避けて、奥行きのある洞穴に入って、今日は進むのを止めたのだ。
「料理は、私が、しておき、ます。」
そう言ってアリフレアはオークの肉を調理し始める。 ドーホース達に付けられている腸詰めはまだ完成していないので、灰汁抜きなどで時間がかかるようだ。
「ボク達はその間に1戦どうかな?」
「やるか? まだゼルダとは戦ってないから、どんなデッキか楽しみだぜ。」
そう言って俺もゼルダもバイザー(俺はスノーゴーグルだが)をセットし、領域を展開する。
「どうする? なにか賭け事でもしてみる?」
「断る。そうまでしてカードゲームをしたい訳じゃないんでな。」
「まぁ、そうだよね。 それじゃあ。」
「「さぁ、劇場の幕開けだ。」」




