ヨセマ中心部
「君のその羽織っているもの。 もしかしてこの先に生息しているって言う「満月熊」の毛皮じゃないのかい?」
そう細身の商人は言い寄ってくるが、実際問題詳しくは分からない。 アリフレアもあの熊に正式名があったことを知らなかったようだ。 動植物図鑑にも載ってなかったのかな?
「その満月に見える毛並みがその動物の特徴でね。 他の熊種にはない希少さがあるんだ。 お目にかかることも多くはないしね。」
そんな希少種と俺達は1発目に狩りであった上で勝ってるって相当の運の持ち主なんじゃね?
「どうかな? よかったら君の言い値で買い取らせて貰っても構わないよ。」
「と言われても、こっちは相場が分からないので、そっちの都合でもいいですよ。 それよりもこの毛皮、結構な獣臭が凄いんですけど、大丈夫です?」
「いや、その獣臭もその毛皮のいいところでね。 着てきたなら分かると思うけれど、敵に襲われなかった事だろう。 毛布替わりにもなるから、冒険者や旅人には人気なんだよ。」
ふーん、それは知らなかったなぁ。 そういうことならここで使う必要は無いからお金にしてしまっても構わないか。
「そういうことならいいですよ。 あ、それと他にもその満月熊、でしたっけ? それ関連の商品も取り扱って貰えるなら、それもみてほしいのですが。」
「ほうほう。 確認しましょうか。」
そういうとアリフレアに持たせていた爪や牙などの素材関係、そして香草蒸しした満月熊の肉を見せた。
「なるほどなるほど・・・ それならばこれがこれとなり、これはこの値段で最低限のお値段は取れるので・・・」
全ての商品を見つつ、勘定を重ねていって、
「これが私から提示する売値でございます。」
そう言って電卓を見せて貰うと1200セートとなっていて・・・
「・・・え? そこまでいきます?」
「毛皮等の素材も素晴らしい状態でしたが、なにより満月熊の加工食品ともなれば、ブロック位の大きさでなくても欲しがる人はおられると思います。 ですので、この加工ブロック肉のお値段も含めたお値段とさせてもらいました。」
そこまでの価格になるとは思ってもみなかったが、金銭感覚やら、相場やらが本当に分からないので貰えるものは貰っておいて損はないだろう。
「分かりました。 それでお願いします。」
「ありがとうございます。 これでマーカッセ商会も安泰ですよ。」
「マーカッセ商会って、もしかしてこのマークの商会ですか?」
聞いたことのある商会名が出たので、スタンプカードを出す。
「おや、これはこれは。 最近始めたスタンプカードをお持ちなのですか。 前回もお使いになられたのですか?」
「このリュックや中身は前の街で買ったものなんですよ。」
「そうだったのですか。 マーカッセ商会はこの国ならばどこにでもおられます、 今後とも何卒、マーカッセ商会をご贔屓に。」
そう言ってマーカッセ商会(恐らく支店)の店員はそのまま馬車を引いていき、ようやく中に入れた。
「良かったの、ですか? せっかくの素材やお肉を・・・」
「ここではそこまで必要になることは無いだろうとは思っていたからね。 お荷物を持って歩くなら、軽くしておいた方がいい。 カメレオンシーツはまだ持ってるしね。 それよりもこの街を見てみよう。」
ヨセマも前の街と同じような雰囲気をしていて、あちらこちらで見世物を行っている。 中にはテントを借りて、カードバトルのエキシビションのような催しをしている場所もあった。
「随分と賑やかな街だなアリフレア。」
そう声をかけたが返事がなかった。 アリフレアを見てみると目を擦っているのが見えたので眠たくなってしまったのだろう。 こうなってしまっては街散策ともいかないだろう。 雰囲気だけでも確認しつつ、宿屋を探すか。
宿で部屋に着いてすぐにアリフレアはベッドでスヤスヤと眠ってしまった。 結構早くに起きたり、ここにくるまでに歩きっぱなしで疲れてしまったのだろう。 無理させ過ぎたなと思いつつ、宿の備え付けの窓から街並みを見下ろす。 今は宿屋の2階から見ているが、前の街とほとんど変わらない風景が見えている。 こういってはなんなのかもしれないけれど、この国の各領地は、そこまで緊迫した行政ではないのかもしれない。 まだ2つの領地しか行っていないので、早合点しているだけかもしれないけれど。
「んん・・・んぅ。」
そんなことを思いながら見ていたら、アリフレアが上体を起こした。
「・・・ご主人様?」
「おはようアリフレア。 まだ寝ていていいんだぞ?」
そう寝かそうと思ったらアリフレアは俺と同じ様に窓を覗き込んできた。 キョロキョロとアリフレアは街の様子を見ていると、その動きは止まった。
「ご主人様。 あれは何をなさっているのでしょうか?」
アリフレアが指差す方を見てみるが、角度的に良く見えない。 恐らくは店頭販売のようなものだろうという位にしか見えなかった。
「よし、アリフレア。 お昼を食べに行くついでに近くに行ってみるか。」
そうして俺達は宿を一度出ることにしたのだった。
「さあいかがでしょうか!? ヨセマの港で取れたこのダイオウクラー! 滅多にお目にかかれない希少物だよ!? 全体で買ってもよし! 足のみで買ってもよし! さあ、張った張った! 早い者勝ちだよぉ! 足のみで700セートから、全体ならその10倍からだよ!」
舞台の上に立っている女性が拡張機を使いながら紹介していたのは、大きな大きなイカだった。 どうやら競りが行われているらしい。 そうかと思えば、向こうでもなにかしらの安売りを叫んでいる露店もあった。 どうやらこの街は競りとフリーマーケットで賑わっている街のようだ。 マーカッセ商会の人も、ここでかなり儲けたんじゃないかと、勝手ながら思った。
「ご主人様。 なんだか、皆さん、少し、怖いです。」
アリフレアは俺にしがみつきながらそう話している。 確かに良く見てみると、いい商品を手に入れるためだろう、みんな目がギンギンになっている。 多分市場とかでもここまではなってないだろうなと、元の世界と比べてしまっているのは、俺の悪い癖でもある。
「でも、その分楽しそうだと、俺は思うよ? 感覚は人それぞれだから、アリフレアがそう思ったのなら、そうなんだろうな。」
俺は苦笑いしながら街の散策を始める。 扱っている商品もそれぞれで、競り等は大型モンスターの部位だったり、希少性の高いコレクションだったりだし、逆にマーケットのような品物は服や装飾品が多かった。 食品に関しては内容によってまちまちだ。
「ご主人様。 ここを出られるのは、いつ頃になりますか?」
「そうさなぁ。 次の領地の場所にもよるけれど、お金の都合が合えば馬車とかでも借りるかな? 護衛も付けたりして。 ここはアリフレアは苦手か?」
「こういったものは、耳に、響いて、頭が痛くなって、しまいます。」
ずっと路地裏暮らしだったアリフレアにとっては、都会のような喧騒は駄目なようだ。 だが旅の途中で訪れる場所に限ってはそうも言ってられない。 アリフレアには申し訳ないが、慣れて貰うしかない。
そんな風に思いながら、次の旅の為に必要なものを品定めしていると、ふと体がすれ違い様にぶつかった。
「おっと、すみませ・・・え!?」
ぶつかった相手は何故か数歩歩いた後で「ドサリ」と倒れてしまったのだ。
「ちょっ!? 大丈夫でしたか!?」
その倒れた人の元に向かい、フードを取ってやると、灰色でショートヘアの少女の顔だった。 顔は白みがかっており、体調的にはあまりよろしくなさそうだ。 かかわり合いの無い人物であるが、体調の悪い人を放っておける俺ではない。
「アリフレア、さっきの宿に戻るぞ。 介抱してあげるんだ。」
「は、はい!」
そう言って背中に背負おうとして、腕を掴んだら、違和感を感じた。 なにかと思ったが今は緊急時、背中に背負って行こうと思い、手足が力なくもたれ掛かった時に、その違和感の正体に気が付いた。
腕の関節から手にかけての部分が何かの鱗に覆われていたのだ。 この少女は一体何者なのか全く想像も出来ないが、まずは彼女の回復の為に宿に戻ってから考えようと思った。
「お客様、その方は・・・?」
「道端で倒れてしまったんだ。 俺達の部屋、2人用だけど使ってもいいです?」
「え、ええ。 それなら食事と濡れた布巾等を用意致します。」
「助かります。 アリフレア、彼女の様子は?」
「まだ、眠って、います。 でも、さっきと、同じ状態。」
寝て回復するような類いじゃないってことか。 とりあえず俺達が借りているベッドに寝かせて、彼女の回復を待ちつつ、俺はアリフレアに面倒を見ているように言って、彼女の服等を買いに行くのだった。




