才能の片鱗
前回から森を歩いている2人、その先に待つものは。
さて、森の中を歩きながら、アリフレアは動植物図鑑を見ながら、それっぽい草や花、木の実を集めていった。 俺は俺でアリフレアが見つけやすいように道なき道を切り開いている。 俺が行きやすいようにしているだけとも言えるが。
「ご主人様。 これ、薬草に使えるそうですよ。」
「へぇ。 やっぱり山菜みたいにあるんだなぁ。 薬草。」
森の中の冒険と言うのも悪くはないなと感じ始めてきた。 こういった感じは前の世界では感じられなかったので新鮮味は感じられるなぁと思った。
「おっ。 ようやく橋が見えてきたぞ。」
開けた所に出たと思ったら、木製で手すり付きの橋がかかっていた。 人はいないようなので、そのまま渡れそうだ。 ここで立て札があって、「このはしわたってはいけまん」みたいなものも無さそうなので、すぐに渡ってしまおう。
そう思い、橋を渡り、半分くらい渡った時に、橋の向こうに何かが見えてきた。 影からしてかなり大きな・・・
「人・・・でしょうか?」
「・・・いや、アリフレア。 君は下がっていろ。」
そう、あれは人ではない。 あんなに大きくて毛むくじゃらな人はそうそういない。 そしてなにより手の先の爪がかなり鋭利なのだ。 そして敵対心がバリバリなのだ。 まさかここで会うことになるとは思わなかったけれどね。
「熊・・・か。 あそこまで見られていると見逃してはくれないだろうな。 やるしかないのか?」
こちらとしても戦闘は避けたかったが、この橋の上ではそれも出来ないだろう。 ならば
「この橋を落とされると今後困るだろうし、ここで戦うよりは・・・!」
「ご主人様!」
俺は熊の方へとナイフを持ちながら全力疾走する。 そして熊は爪を振り下ろしたが、大振りだったので回避は楽に出来て、熊の真後ろに回り込んだ。 とりあえずは有利が取れたかと思った瞬間、もうひとつの腕が後ろまで思いっきり振られる。
ギリギリしゃがんで回避したものの、次は避けれるか分からない。 ナイフを構え直し、再度対峙して少しした後、熊の方から攻撃を仕掛けたが、それは頭に何かが当たって攻撃が中断される。
熊が後ろを見てみると、アリフレアがレンチを持ったままの姿で、投げる体制で待っていたのだ。 俺はその隙を見逃さず、そのままナイフを熊に1度斬りつける。 だがそこは熊なので1度だけでは意味がない。
だから倒れるまで、何度も繰り返し、俺もアリフレアも体力的に持ちそうに無いと思った瞬間・・・熊がようやく倒れて動かなくなったのだった。
「ふぅ・・・ふぅ・・・ ふぅ。 大丈夫か? アリフレア。」
正直結構歩くのですらギリギリなくらいだったが、もう一人の功労者のアリフレアの元に行く。
すると緊張が抜けたのか、アリフレアはそのまま地面にへたりこんでしまった。 危険な相手にここまでよくやったものだ。 俺はアリフレアの頭を撫でてやろうとした時、アリフレアから待ったとかけるように両手を伸ばされる。
気持ちの整理がまだ出来ていないのかと思ったが、どうやら違うようで涙を流しながら「ブンブン」と横に首を取れるんじゃないかという勢いで振っている。
どういうことか説明を聞きたくてアリフレアの所に一歩近付くと「パチャ」という水を蹴るような音がして・・・
ん? 水溜まりなんてあったか?
もう一度アリフレアの方を見ると今度は顔を両手で覆い隠しているアリフレアの姿が見られた。 体を小刻みに震わせながら、「ヒグッ、エッ・・・」と泣き声を殺すように出していた。 よく見ると、その水溜まりはアリフレアを中心に周りに出来ていて・・・
そう自分の中で分析したところで、ようやく理解が出来た。 まぁ理由はなんにしてもしょうがないと言えばしょうがない事なので、泣き止むまでなにも言わないことにした。
「も、申し訳・・・ありません・・・でした・・・」
泣き止んですぐにアリフレアは立ち上がって俺に謝ってくる。 顔が真っ赤なのは恐らく羞恥から来るものだろう。
「気にするなアリフレア。 最初なんて普通はそんなものだよ。 特にアリフレアみたいな年齢だと特にね。」
まあどんな人間であろうと人前で粗相なんてしたら恥ずかしいに決まってる。 今回は俺だけだったから・・・いや、それでもアウトか。
「しかしこの熊どうするかな。 放置しておくには邪魔だし、かといって持っていくのもなぁ。」
これがある程度の小熊なら最悪2人で担いでいけたが、2m級はさすがに持てない。 するとアリフレアが俺の腰を「チョンチョン」と叩いてきた。
「ご主人様。 解体を、すれば、爪や皮を、売ることが、出来ます。」
「ん。 確かにその方がいいとは思うし、食えるかまでは分かんないけど、熊肉も手に入る。 でも俺は解体するなんて技術、持ってないしなぁ。」
「私、解体の仕方、知っています。」
「え? そうなのか?」
まさかここでアリフレアの意外な知識があるとは思わなかった。 しかし出来るというのならばその手を使わないわけにはいかない。 早速やってもらうとするか。
「よしアリフレア、それなら・・・」
そう言うとアリフレアは商人から買ったナイフを手に取ったけれど、俺はその前にアリフレアにやらせたいことがあった。
「・・・まずは着替えるか。」
「・・・はぅっ!」
そう指摘してやるとアリフレアは自分の下半身を抑えながら、顔を真っ赤に染め直すのだった。
まだ橋の近くで、しかも川に降りるための傾斜が緩かったので、そこで川岸まで降りて、アリフレアの衣服を洗おうと思ったら、アリフレアは首を横に振って、川へと入っていった。 熊の解体をして貰おうと思ったのだが・・・ 乙女の純情、もとい他人に自分の失態で濡れた服なんか洗わせたくないわなと思いつつ、俺は簡易テントを張ることにした。
テントを張った後は火を起こす準備をする。 ここで魔法とか使えたらなと考えつつ、火種を作る。 理由としてはお昼にするのと、アリフレアが川から戻ってきた時に、すぐにでも体を乾かすためだ。 服もだけど。
そんなことを色々とやっていたらアリフレアがなにかを抱えながら戻ってきた。 なにやらすごい勢いで動いている。
「ご主人様。 大きな川魚が取れました。」
そう満足げに笑うアリフレア。 この子はやっぱり自然とふれあいさせた方が自分の本能を発揮できるようだ。
「凄いじゃないかアリフレア。」
そう言って俺は優しく頭を撫でてやる。 するとアリフレアも嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。 年相応の純粋無垢な笑顔だった。
アリフレアは着替えを済ませると、すぐに熊の解体作業を始める。 俺自身も解体方法については興味があったので、アリフレアに教わりながら、自分も解体の手伝いをした。
「それにしても、なんで動物の解体方法なんて知っているんだ?」
自分も色々とやっては見ているものの、血を抜く作業やら内臓を取り出す作業やらをやっていて、正直あまりいい気分にはならない。 それをアリフレアは意外にも平然とやっているので、気になったまでだ。
「前の、ご主人様の、時に、料理は、全部、行っていた、ので、そのせいかも、しれません。 鳥さんを、そのまま調理、したこともあり、ます。」
それが本当だったら相当の技術だと思うんだけどなぁ。 アリフレアの才能に感心しながら大体1時間程、かなり大きい熊だったので、手間はかかったが、なんとか解体には成功した。
「どうだアリフレア? その肉は食べられそうか?」
アリフレアにそう確認をする。 この世界の食料事情がまだハッキリと分からない俺にとってはこういった小さな知識も必要になってくるだろう。 アリフレアは動植物図鑑と照らし合わせながら、解体された熊を見ていた。
「ご主人様。 この熊さんの、お肉は、そのまま焼くと、美味しくない、のですが、あく抜きを、すれば、大丈夫だ、そうです。」
資料を見れば、元々そういう類いの熊らしく、調理して食べる分には問題はないのだそうだ。
それにこうあってはなんだけれど、アリフレアは熊を解体している時が一番生き生きとしていた。 これは猟奇的な意味合いではなく、アリフレアは自然で学ばせた方が「らしく」生きられるのではないかと思っているからだ。
「ご主人様。 お鍋を、用意しても、いいですか?」
「うん? 使ってくれて構わないぞ。」
そう言ってアリフレアは一番大きな鍋を用意して、水を入れ、朝に拾っていた香草と共に熊肉をドカドカと入れて蓋をした。
「蒸すのか。」
「はい。 美味しさを閉じ込めるのと、一緒に、保存も出来る、ように、しているんです。」
保存のことまで考えてくれているのはありがたい。 そもそもここまでの大きい肉を2人で処理するのは、食べるにしろ、持ち込むにしろ大変だったからだ。 入れる袋も無いしな。
鍋の中の肉が調理されるまで、俺はカード調整に明け暮れた。 と言ってもカードの内容を詳しく知るだけの簡単な話ではあるけれど、やはり読み違えないようにしないといけないので、抜かりはしない。
「ご主人様。 出来ました。」
アリフレアの声に俺はゴーグルを外す。 こうして分かったのだが、AI領域を見ているのはあくまで「眼」だけで、触覚や嗅覚、聴覚は基本的には意識の外にあるということだ。
「そうか。 それじゃあ食べようか。」
「はい。」
そうして調理された熊肉に舌鼓をうち、少しの休憩の後にまた歩みを進めるのだった。
今回は色んな要素を盛り込んだせいで、酔われた方もいるかもしれませんが、アリフレアのキャラ付けだと思って多めに見ていただけると幸いです。




