援助金の譲渡、旅の準備
「こちらが我々からの援助金、2万セートになります。」
従者であろう人が持ってきたアタッシュケースのような箱が2つ、その中に札束が入っていた。 1セート100円計算なら、大体200万円ってところか。 確かにこれなら買い物をしてもなんとか・・・
「それと旅をするにあたる資金ならば1万セートで十分になります。」
「え、じゃあ残りの1万セートは・・・」
「謝礼金・・・とでも言えばよろしいでしょうか。 考えを改めさせて・・・いえ、元々の考えにお戻しにさせてくれたセージへの感謝とお詫びと言っておられました。」
ふーむ、確かにあの次期領主のベルジアは、勝手な解釈になるが、向上心があり、傲慢さが見受けられなかった。 だからこそなんというか、本気で怒れなかったのだろうかと考えてしまう。 スキルが発動したということは怒りの頂点に達していた、という解釈にはなるはずなのだが、最初のあの時のように、半分怒り任せにはやっていない筈だ。 だとすると・・・その辺りは今はいいか。
「なら制約通り、この2万セートは受け取ります。」
「では、私はこれで。」
そう言って従者の人は足早に去っていった。
「ご主人様。 これから、どうするのですか?」
「まずは出るための準備だな。 食料と替えの服、洗濯できるものに寝床を作るテントのような物があれば、最低限は大丈夫だろう。」
本当は武器とかも欲しいところではあるが、それは護身用として最初は持っておくことにしよう。 慣れない武器でいざ戦いなんか出来っこないのだから。
そんなわけでアタッシュケースを1つ持って、街に出ることにした。 もう1つは宿に預かって貰っている。 こちらとしても盗まれる心配を考えてみたが、金庫の中に保管してくれているので、とりあえずは安心だが、アタッシュケースなんか持ち歩きには不向きなものをどう処理するか考えなければならないな。 お金の預け先もだけど。
「それぞれのところで買いたいところではあるけれど、それだと時間がかかるし、かといってそう言ったのを妥協すると後々不良品とかだったりすると取り返しがつかないしなぁ・・・うーん・・・」
「おや? どうかなされましたか? 旅のお方。」
いきなり声をかけられたので、誰かと声のした方をみると、そこにいたのは俺をこの領地まで運んでくれた商人さんだった。 アリフレアはこの人の事を知らないので俺の後ろに隠れてしまう。
「あの時の節はどうも。 実はこの領地から離れようと思いまして。」
「ほほう、放浪人らしく旅をなさるのですね? それならば、このマーカッセ商会がお力になりますよ。」
それはありがたい。 商会が力になるならある程度は優遇が効くかも。
「それじゃあまずは食料を。 なるべくなら日持ちするのがいいです。 後は火を起こす為の道具とか服、テントのような物があればそれを購入したいです。 後は地図かなにかがあれば。」
「かしこまりました。 それとそちらのお嬢さんは、今バイザーとデッキケースをお持ちで無いようですが・・・すぐに欲しいのであれば適当に身繕いますよ?」
そう言われ、俺はアリフレアの方を見る。 デッキケースを所持していなければ、俺みたいに下手なカードバトルは避けられるかもしれない。 だがそれでは意味は無い。 アリフレアにとっては少々キツいかもしれないが、慣れてもらうしかない。
「それならお願いしてもらえますか? 大丈夫だアリフレア。 俺が見てるから。」
アリフレアを商人さん、おそらくマーカッセさんに委ねると、マーカッセさんは商売荷車の奥で「ガチャガチャ」と漁っていた。 漁るほど奥にあるのかなと思いつつ、俺は展示されている商品に目を運ぶことにした。
食料で言えば干した肉とかが一番いいだろう。 下手に果物などを買って、腐らせてしまっては意味がないからな。 後はランタンに、鍋に・・・お? この布はなんだろ?
「お待たせいたしました。 バイザーとデッキケースを取り繕って見ました。」
マーカッセさんと共に戻ってきたアリフレアのおでこと腰には薄ピンク色のゴーグルと、同じく薄ピンク色のデッキケースがつけられていた。 これで君もカードゲーマーだ。 と思ったが、そもそもデッキやらなにやらはどうなっていたのだろうか?
「その子のデッキとかの保存状況とかって、どうなっていたか、分かりますか?」
「はい。 この世界でのカードの扱いは電子登録なので、所有者が死亡しない限りは、こうしてバイザーやデッキケースを換えたとしても、問題なく使用が可能です。 手放していた分のパックなどは残っていますがね。」
それならある程度は問題ないか。 1からデッキを作るってなると、アリフレアではかなり苦労がいるだろうからな。 知識も乏しいだろうし。
「おや、お目が高いですね。 そちらはかの有名な裁縫師が編み出した逸品。 その布を被ればあら不思議、背景と同化して、周りからは見えにくくなるという特徴があるのです。 その特性から「カメレオンシーツ」と呼んでいます。」
ほほう、それは便利なものを手に取ったものだ。 これを使えば敵から身を隠せるというわけだ。 夜の森はかなり危険だと聞くし、これは買っておこう。 1つしかないから最悪アリフレアのみに被せればいいし。
そうして商品をみながら色々と選んだ結果
干した肉×12 ランタン 鍋×3 カメレオンシーツ 包丁 護身用ナイフ×2 簡易蛍光灯 寝袋×3 雨具(傘)×2 工具キット(これは鈍器や投擲物として使用する) 水筒×4 火起こし石×5 動植物図鑑 着替え数十着 それらを入れるためのリュックサック×2
これらを購入することにした。 もちろんこの中にアリフレアのバイザーやデッキケースも含まれる。
「ではこれで合計の方が・・・この金額になりますね。」
そう言って提示された金額は「3000セート」。 30万円か。 おそらくは服とカメレオンシーツ、アリフレアの装飾の方にお金がいったのだろう。 それでも多いか少ないかといわれると、若干安く感じる。 大金を手に入れたから感覚が狂ってるかもしれないが。
「ああ、それと地図は・・・」
「おっと失礼しました。 こちらがこの国の地図になります。」
そう言って渡された地図を開くと、そこには海で囲まれた1つの島国が描かれていた。 三角形の場所は真ん中が海か湖かになっており、陸地に囲まれている。 後は左上に一本の山岳ルートがあるようになっている。
「今私達がいる領土でありますアルフィストになります。」
マーカッセさんは地図の左下の部分を差す。 となれば次は上に行くのか。 近いところだと・・・右斜め上に街のある「ヨセマ」という場所になる。 道としては森を抜けるようだ。
「一応この場所ならば歩いても行けますが、3日はかかることを覚悟しておいた方が良いでしょう。 道があるとはいえ舗装はあまりされていませんので。」
「盗賊とかの類いもいたりするのですか?」
「この辺りの森は見かけにくいですが、どちらかといえば野性動物の方に気を付けた方が、身を守るためにはいいかもしれませんよ。」
確かに俺達の戦闘力では、下手に戦えないから、時間を割いてでも避けるべき場所は避けないといけなくなりそうだ。
「宜しければ馬車などもご用意いたしますが?」
「いえ、今回は歩いていきますよ。 そこまではしてもらわなくても大丈夫ですよ。 あ、でもお金って預ける場所とかってあります? さすがにこんなに大金を持ち歩くわけにはいかないので。」
本当はもっとあるので、預ける場所があるのなら、そこで保管はしておきたい。
「それならば、「セート換金所」に行けばいいですよ。 本人のデータ端末を登録しておけば、どんな場所でも「セート換金所」でお金を出し入れ出来ますよ。」
この世界にも銀行のような場所はあるのか。 それはありがたい。
「すみません、何から何まで。」
「いえいえ、こちらとしてもかなりの商品を買って貰って、商人としても嬉しい限りでございます。 そうだ! せっかくですからこれを。」
そう言ってマーカッセさんが取り出したのは何かのカードだった。 表には露店にも書いてあるマークが入っていた。
「これは最近始めた「スタンプカード」と言うものです。 ある一定額の商品購入によりスタンプを押させて貰いまして、そのスタンプカードが満タンになりますと、商品の割引をさせてもらうキャンペーンを実施し始めたのです。」
マーカッセさんは自慢気にそう説明してくれた。 前の世界では当たり前のこの制度も、こういった世界ではまだまだ始めたてのようだ。
「カードのトレードによる割引と何が違うのです?」
「カードトレードとスタンプカードによる割引にはそれぞれメリット、デメリットがあります。 カードトレードの場合はその場で出来ますが、そのカードを持っていないと出来ないです。 カードは基本的には個人に影響するので、汎用カードの方が手に入りにくいので、余計にカードトレードは難しいです。」
今さらりと重要な事を言ったな。 やっぱり個人に影響するのか、あのカードゲームのカードは。 となると今後初見殺しが確実になると言うことだ。 カードの確認は怠らないようにしなければな。
「そしてスタンプカードは集めるのが時間がかかりますが、その分お得な割引と特典をお付けいたします。 また貯まりました後でも新たなスタンプカードをお渡し致しますので、リピーターにも安心してご利用頂けるというわけです。 それに他にも支店はございますので、旅先で見かけたら是非に。」
ちゃっかりしてるなぁ。 まぁ多分お世話にはなるだろうから、貰ってはおこうかな。
マーカッセさんと別れ、貰ったスタンプカードを見ると、早速次で割引出来るくらいには貯まっている上に、良く見るとスタンプカードが2枚あった。 まあ30万円分も買ったらそうもなるわな。
「いらっしゃいませ。 セート換金所にようこそ。」
受付の人に声をかけられて、俺は2つのアタッシュケースを机に乗せる。
「あの、この中に入ってるお金を預け入れしたいのですが・・・なにか手続きって要ります?」
「それではまずは中身の確認をさせていただきますね。」
そう言って2つのアタッシュケースを開けて、目につけている機械で確認している。 多分偽札とか枚数の確認とかしているんだろうなぁ。 アリフレアと待っていると、アタッシュケースが閉まり、受付の人と目が合う。
「はい。 確かに1万7000セート、全て本物と確認が取れました。 全額換金致しますか?」
「はい。 ・・・いや、500セートは手元に残したいです。」
「かしこまりました。 それではこちらに目を合わせてください。」
なるほど、バイザーで使うのは目だから、目認証なのか。 それなら義眼でも基本は不可能だよな。 目認証が終わると、受付の人が書類を書いている。 そしてアタッシュケースが持っていかれ、トレーには100セートが4枚と、10セートが10枚置かれていた。 両替までしてくれるのは本当にありがたい。
「それではここにご本人様のフルネームを。 それとそちらの方も使えるようにしておきますか?」
「出来ればお願いします。 その場合って共有する事って可能ですか?」
「はい、問題はありませんよ。」
それなら仮に俺が死んだとしても、アリフレアだけで生きていけるだろう。 そう思いながら俺は書類を書いていく。
「ありがとうございました。 お金の出し入れについてはこのような場所の他に、目認証が出来る場所ならばいつでも出来ますので、これからもどうぞご利用になられてください。」
そう言われつつ換金所を後にする。
「さあアリフレア。 ここから先の旅は長いぞ! 心の準備はいいか?」
「はい! ご主人様!」
その元気な掛け声と共に俺はアルフィストの領地を後に、森の中に入るのだった。
ここからは冒険記のように進めていきます。
ちなみに預かったセートを使うか使わないかは、作者の気分しだいで変わります




