日本人
「それで話って?」
『今いるのは拙者とセイジ殿だけで御座る。 折角なら、こちらで話さぬか?』
そう言葉にしたのは、俺達にしか分からない日本語での言葉だった。 俺もそれにならい、日本語で話すことにした。
『用心深くはありますが、ここまでします? まあいいや。 こっちの方が話しやすいならそれで。』
『まあなに。 汝には改めてお礼を言いたくてな。』
『昼間の試合の話ですか? あのときも言いましたけど、俺はなんにもしてないですよ。 あれは零斗さんの実力で勝ったんですから。』
『それも踏まえた上で、で御座るよ。』
踏まえた上で? 他になにかした覚えはないんだけどなぁ?
『拙者もあの戦いの時、普段はないはずの手札が存在しており、焦った、というよりも青ざめたで御座る。 自分の得意な立ち回りが出来なくなっているということに、血の気が引いたで御座った。 しかし汝の顔を見て、まだ諦める訳にはいかぬ。 要はやり方次第なのだと悟ってな。』
零斗さんは夜空を見上げ、そう語っていた。
『そして拙者は感じたので御座る。 最初に会えた日本人の転生者がセイジ殿で良かったと。 例え敵対したとしても、それでも手を取ってくれたのがセイジ殿で良かったと。 そう思えたので御座る。』
そして言葉を紡いだ所で、俺は1つの結論にたどり着いていた。
『そうか・・・だから俺は零斗さんを仲間に入れようと感じたんだ。』
『む? なにか言ったか?』
『零斗さん。 俺の中でずっと思っていたんです。 確かに零斗さんとの出会いは良いものではなかったです。 でも零斗さんを引き入れた理由が、心のどこかで引っ掛かってたんです。 零斗さんの想いを聞いて、ようやく分かりましたよ。』
『なにがどう、分かったので御座るか?』
『利害の一致だよ。』
『利害の?』
零斗さんの事で神様と話した時、ふと他の転生者や転移者がいたときの話を考えていた。 そもそもがこのカードゲーム世界において、果たしてそんな簡単に国などを纏めたりすることが出来るだろうか? と。
俺はその答えに対して「NO」という結論に達した。 たかだかカードゲームが強いだけで制約上とはいえ、誰にでも国を統一出来るなんてアホみたいなことがあるか。 第一国を取ったところで、その国の人間が納得するとは俺には思えない。 もしもそんなことで国を持つことが出来たのならば、俺は「運が良かったな」としかいいようがない。 それだけの欲望があるのは結構だが、その後の事まで考えない奴の末路など知れている。
その点零斗さんは、確かにいきなり異世界に飛ばされて、なにも出来なかったのは確かだ。 しかしその事を驕らず、傭兵として雇われることで、この世界に適応しようと努力した。 そこにまずは共感が持てた。
そして利害の一致する部分としては、俺は仲間は確かに増えたが、日本のことを知らせてはいなかったので、いつか日本のことを忘れてしまわないかという不安があった。 零斗さんは1人で転生者として生きてきた。
つまり俺達の利害とは「他の転生者がいないという寂しさ」が想いは違えどあったところだった。 俺達はそれぞれ転生者として違う強さを持っている。 だが所詮はそれだけのことなのだから。
そう思ったら、ファルケンが自分に似ているといった意味がなんとなく分かったのだ。
『どこかが違うんじゃない。 違うからその部分を別の人で埋めたいだけなんだ。 そんなピースのような欠けた部分が互いにあっただけなんだ。』
『・・・セイジ殿。 本当に拙者よりも年下で御座るか?』
そこまで言われるのか・・・ あんまり言われたこと無かったんだけどなぁ。
『まあ、気にはせんで御座る。』
『それで俺は零斗さんに聞いておきたいことがあるんです。』
ここからは俺と零斗さんの、一つの覚悟の話をしておくことにする。
『零斗さん。 まずはこの事は、他のみんなにはまだ話をしないでもらいませんか?』
『理由は色々とあるで御座ろうが、要件をまとめて欲しいで御座る。』
『まず向こうの事情は伝えてないことが第一です。 これからする話は俺達にとっても酷な話になるからです。』
俺はその後に一呼吸おいてから、口を開いた。
『零斗さん。 もしも転生者、または転移者と悪として敵対をすることになったら、慈悲を与えない方針でいこうと思っています。 そしてそれは、命のやり取りでもそうです。』
『理由は?』
『相手が俺を送った神様と同類だとは限らないこと。 環境によっては転生者だろうと倒せと言われている可能性があること。 そして自分の強さに溺れている事です。』
『つまり、この世界のやり方でやる、という話で御座るな。』
そう言われて俺は頷く。 このやりとりは簡単に言えば「転生者同士で争いになった時に、今回みたいに友好関係を結べない可能性がある」ということだ。 転生者が誰も彼もが善良だとは限らないし、俺や零斗さんのように、制約を正しく使っているとも限らない訳だ。
だから敵対して勝敗が決した時に、俺達が勝った場合、状況によっては相手を消さなければならない場合もある。 そこで「同じ日本人だから」、「転生者同士仲良くやろう」と言われて、素直に首を縦には触れない。 少なくとも、俺と零斗さんは人として越えてはならない一線は越えてしまった。 仮に地球に帰る方法を知っていると言われたところで、俺は既に死んでから生き返らせて貰っているので、帰る事は出来ないし、零斗さんも今さら戻ったところで、誰も覚えていないだろう。 だからそのような事では揺るがない。
『話し合いで敵対の意欲が無い場合はどうするで御座る?』
『問題はそこだったりするんですよ。 仲間に引き入れるにしても、そのまま我が道を行かせるにしても、リスクがありすぎるんです。 神様だって全員の面倒は見れません。 しかし選択を誤れば下手をすればこの世界で死ぬことになります。』
敵対心がないなら面倒を見たい。 が、その判断が命取り「なる可能性もある。 全体を見て通るような話じゃない。
『・・・セイジ殿。 少し手合わせをしてはもらえないで御座るか?』
『え?』
『汝がこの見張り中に槍術を学ぼうとしているのは知っているで御座る。 拙者は傭兵の身。 少しなら心得があるで御座る。』
そう言うことなら・・・いつもなら馴染ませるために自分の武器を振り回しているが、今回は相手がいるので、手頃に長い木の棒を持つことにした。 それは零斗さんも同じで、木刀を構えていた。
『セイジ殿。 まずは槍の構えから直すで御座る。 槍というのはそもそも片手で持つものではないで御座る。 故に軽いものでも重いものでも、肩幅以上に両手持ちをしてはならぬ。 また腰は少し据えた方が良いで御座る。 動きにくいと感じるで御座ろうが槍を使うに当たってはその限りではない。 剣と違い、槍は突く力の方が強い。 全身の力を使って突くのが槍の本質なのだ。』
俺は零斗さんの言われた通りの構えをする。 確かに槍はリーチが長い分扱いが難しい。 振り回されていたのはこれが原因だったのかもしれない。
「ではそれを踏まえた上で、一度拙者を狙ってみるで御座る。」
暗くて零斗さん自身は見えないが、象られている形は分かるので、そこを突いていく。 当然当てには行っているが、当たるなんて微塵も思っていない。 相手は元傭兵。 2、3ヶ月で身に付けた技など、本物の腕に比べたら遥かに劣る。 だからまずは自分の中でコツを掴む事を優先した。 槍を使ったのは自分にあっているからだと思ったからだ。
何発か繰り返していたが、徐々に狙いが定まらなくなってきた。 そこを突いたのか、零斗さんが一気に詰め寄ってきた。
『セイジ殿。 どうやら汝は、武器の選択に間違いを生じているようだ。』
『間違い?』
零斗さんに座れと促されたので、立つのがやっとな足を座らせた。
『セイジ殿。 汝は槍を使いたがっているようで御座ったが、おそらく汝の適正武器は槍ではなく、剣だと思われる。 槍というのは体力の消耗が激しい。 セイジ殿にはとても向いておらん。』
ざっくり言われると悲しいが、そうなのかもしれない。 操れる気がしてこないのだから。
『明日の夜、それらしい武器を見繕っておこう。 それで気分は少しは紛れたで御座るか?』
『気分を紛らわすためにやったのです?』
『セイジ殿。 起こったことは先に考えておくのは理想で御座るが、結局は「なるようにしかならぬ。」ということ。 今は考えてもしょうがないで御座るよ。 セイジ殿は直感と思考を巡らせるが、いかんせんそのバランスが悪い。 拙者達もいる。 少しは肩の力を抜いても、罰は当たるまい。』
『・・・やっぱり零斗さんの方が大人ですよ。』
肩の力を・・・か。 気張りすぎてたのかもしれないな。 そんなこんなで俺と零斗さんは、時間になるまで、ゆっくりと会話をするのだった。




