感想
前回から引き続き、似たような話をお送りします。
俺達よりも先に少女に戻って貰って事情を話し、それから俺達が帰る流れになって、最初こそ村の皆さんは驚かれたけれど、しばらくは脅威は無いとだけ伝えておいた。 そう言った後に俺達はまだ日が高いうちに馬車へと入った。 村の皆さんはそんな俺達の様子を心配してくれていたようだが、少女の「そっとしておいてください」の一言で引き下がってくれた。
俺達は汚れたものを全て洗い流した後に、改めて馬車で円になっていた。
「・・・皆のもの、まずは大丈夫で御座るか?」
零斗さんの質問に、俺達は首を縦に振った。
「では聞こう。 ・・・恐らく初めてであろう事だが、人を殺めて、どう感じた。」
誰からも発せられること無い・・・かと思いきや、ベルジアが口を開けた。
「私は処刑をされる罪人をいくらか見てきた。 しかし手を下すのは処刑人の仕事だ。 私は見ているだけだった。 しかし・・・殺すのは相手の命だけではないと、この手が震えた。 苛まれそうになる気持ちだ。」
「ボクは、ちょっと血が騒いじゃいましたね。」
ゼルダは相手を刺した自分の右腕を見ていた。
「狂気的かもしれないけれど、人の血液の暖かさに、本当に血が騒いだ。 ああ、これが人の血なんだって。 いけないことだと分かっていても、本能には抗えないのかもね。」
やや自虐的に言っているが、ゼルダにはリザードの血が混じっている。 動物的、野性的本能を呼び覚ますには十分過ぎた。
「目の前で人が死ぬのは、慣れているッス。」
同じくファルケンも、自分の羽根を見ている。 投げれば相手に死を至らしめる強固な羽根。 それを自らの手で刺したのだ。
「自分がその当事者となるって、感情じゃあ表せないッスよ。 俺っちの場合は。 でもレイトの言っていた「殺す覚悟と殺される覚悟」って言うのは、なんとなく分かったッス。」
零斗さんの言っていた胆力とはこう言うことを言うのだろうと思った。 正直なことを言えば、俺だってカードゲームの世界だと浮かれていた部分はあったものの、冒険に出るとなった時、もう一度死ぬかもとは自分の中で覚悟はしていたつもりだった。 認識が甘いことは認めざるを得ないが。
そしてアリフレアだが・・・終わってから一言も発していない。 この子が俺達にとっては一番不安になっていた。
「零斗さん。 人を殺すことに関して、自分がその立場になって、心が壊れる事って、よくあることですか?」
「・・・否定はしないで御座る。 傭兵の仕事とは言え、自らの手でやりたくないという輩も少なからずおった。 その者は傭兵を辞めさせられたで御座るが。」
やっぱり稀じゃないか。 むしろ狂ってなきゃそっちが普通だ。 アリフレアはまだ俺達よりも幼い。 そしてそんな幼子に俺達は「人を殺す」ことを、半ば強要した。 もしアリフレアが壊れてしまったらその時は・・・
「アリフレア。 こんなことをさせてしまったのは俺の責任だ。 これから先、こんなことが何度も起きる。 これ以上旅を続けるのが無理なら・・・」
「・・・大丈夫、です。 アリフレアは、平気、です。」
俺の声に呼応したのか、アリフレアが口を開けた。 その声は決して無理をしているような声ではなかった。
「ごめんなさい。 色々と、考えて、いました。 でも、ご主人様と、いるならば、私は、大丈夫です。 だから、そんな悲しい、顔を、しないで、下さい。」
そんなアリフレアの言葉を受け止める。 この子もなんだかんだで強い一面を見せてくれるなと。 そう思うと俺はアリフレアに優しく微笑んだ。
「うむ。 皆の心は大丈夫のようで御座るな。 だがこれだけは言っておくで御座る。 汝達が殺すのはあくまで悪人。 罪無き者達を殺めるのは、拙者だけで十分で御座る。」
そういう零斗さんの顔は悲観の顔をしていた。 そんな時荷車の布が開けられた。 そこにはあの少女がいた。
「皆様、お食事の用意が出来ましたので、お呼びに来ました。」
俺達みたいな人間をもてなしてくれるというのか、この村は。
「いいのか? 俺達は咎人だぜ? そんな人間に・・・」
「そんなことを気にしていたらキリがありませんから。 それにあなた達は私を助けてくれました。 根も悪い人達でないのは村の皆は認識していますから。」
「あんまりお人好しだと喰われるぜ? この村ごと。」
「そうなった時はそうなった時です。 だから今は客人と恩人としてもてなされて下さい。」
そう言って少女は布を下ろしていった。
「罪を背負ってばかりでは、いつかは本当に心が壊れるで御座る。 人の優しさや恩義は、素直に受け止めておくで御座る。 それが狂人にならない唯一無二の方法で御座る。」
零斗さんからそう言われてしまえば、納得をいくしかない。 俺達は食事を貰いに、馬車から出るのだった。
食事もいただき、夜になり、寝る前に外の空気を吸うために馬車から出て黄昏ていた。
自分の手で人を殺めた、あの時の光景が、まだありありと残っている。 だがこれは俺達にとってはどこかで通らなければ行けなかった事象。 人を殺すことに後悔の念はあまりない。 もう俺は昔の世界には戻れない。 だから罪悪感はこの世界と共に2回目の墓と一緒に持っていくつもりだ。
「カードゲームが出来るだけ、なんていう生ぬるい生活にはならないか。」
こうなるのは自ら望んだことなのかもしれない。 もしかしたら前の世界にいた時も、これくらいの刺激が欲しかったのだろうか? そう錯覚してしまう程に充実している。 とはいえカードゲームにだって、身内とミカラ様以外では負けていない。 だがその状況が果たしていつまで続くだろうか。 ミカラ様の命の元がいつまで効力を発揮するだろうか。
そんな不確定要素だらけの世界で、俺は有意義に生きている。 自分が強すぎるから周りからチヤホヤされるだの、絶望しかない世界で生き抜こうとするだの、そんな両極端な物語は正直自分には似合わない。 その中間の、負けすぎず、それでも圧倒的に勝つでもない、どっちに転んでもおかしくない天秤のような世界観が俺は好きだ。 ま、人を殺すだのなんだのという話は別だがな。
「ご主人様。」
そんな風に1人うちひしがれていると、アリフレアが馬車の中から出てきた。
「どうしたアリフレア。 トイレか?」
「ご主人様。 隣で、寝て、いただけ、ませんか?」
そう言ってくるアリフレア。 確かに最近はなにかと分かれて寝ていることが多かったからか、そんなおねだりをしてきた。 でも俺も気にしていなかったので、別にいいかとも思っていた。
「それは別にいいが、珍しいな。 そう言ってくるなんて。」
「ご主人様。 私は、おかしくなって、しまったので、しょうか?」
アリフレアの言っている意味が分からずに首を傾げると、アリフレアの目から涙が流れた。
「わ、私は、人の、頭を、バールで・・・ その後に、私は、なにも、思わなかった、のです。 悲しいという、感情も、怖いって言う、感情も、なにも、浮かばなくって。 だから、私は、人として、壊れて、しまったので、しょうか?」
言葉の一つ一つを、涙ながらに喋るアリフレア。 あぁ、そうか。 なにも感情がないことに、自分に恐怖していたのか。 そう思った瞬間に、俺はアリフレアを抱き止めていた。
「ご、ご主人様?」
「アリフレア。 確かに人が死んで悲しんだり、自分の行ったことに疑問を思うのが普通だと思う。 だけど、それとこれとはまた違うんだ。 アリフレアがなにも感じないように、俺達も感じなかった。 親しい間柄じゃなかったからとか、相手が悪人だからとか、そんなちゃちな理由じゃない。 でも夕方にも言ったが、これから先はこんなことがどんどん続くと思う。 そんな時はその心の無さが逆に救われる事もあるんだ。」
「ご主人様。 私は、おかしくなって、いないのですか?」
「俺がこうしている間は、自分の行った事を否定するなと命令する。 アリフレアは悪いことをするような子じゃ無いだろ?」
「はい・・・はい・・・」
そう思ったら本格的に泣いてしまって、それは更に強く抱き締めた。 本当は感情が無いというのは嘘だろう。 ただ彼女の中で、何かの天秤が大きくかけられて、そしてその想いが、悲しみや恐怖を乗り越えたのだろう。
だが俺はこれだけは切に願う。 アリフレアだけは何があっても良心だけは失くさないで欲しい、と。
「もう寝ようかアリフレア。 今日は見張りもないから、朝までゆっくり寝られるからな。」
「・・・はい。」
その言葉に安心したのか、布団に入った瞬間にアリフレアは眠ってしまった。 そんな安らかなアリフレアの寝顔に、少しだけ感謝しつつ、アリフレアの手をそっと握りながら、俺も夢の中に落ちていった。
ダーク→シリアスと来ているので、とりあえずは軌道修正していくつもりです。
出来ていなかったらごめんなさい




