避けては通れぬ道の話
前回もお話ししましたが、今回の話はショッキングかもしれません。
あとこんな話なのに、今までよりも長いです。
それでも大丈夫だという方は見ていってください
俺は奴の背中をまずは逃さないと走る。 筋肉量の違いからか、同じスピードなのだが俺の方が息切れが早くなっている。 槍を持っての攻撃と肺活量は比例しない。 だが負けられない。 あの子を助ける立場だったのに、あっさりと引き抜かれてしまったことを何より後悔した。
そして奴が左に曲がってそれにならい同じところで曲がったのだが・・・
「き、消えた!?」
奴と少女の姿が跡形もなく消えたのだ。 かなりのでかい図体が一瞬で消えるなど、そんなことがあってたまるかと辺りを見渡した時、肩になにかが乗った。 見れば脚の鉤爪、上を見れば人の形をした鳥の姿、ファルケンが乗っていた。
「師匠。 村の人が言ってたッス。 巣窟は下らしいッス。 曲がって消えたなら、奴らは下に行くと言ってたッス。」
「下か・・・他の皆は? というかあいつの部下はどうした?」
「俺っちはこの事をいち早く伝えたかったんで空を飛んできたッス。 皆も後から来るっすよ。 道が細かったんで、ドーホース達は連れてこれなかったッスがね。 それにあいつの手下なら、師匠が戦ってる間に、親方がピンチになった時に村の住人を人質に取ろうとしたみたいッスけど、それよりも先にレイトが1人を軽く締めたら、一目散に逃げていったッス。 あいつらもあいつらで、付いてくるだけの腰抜けだったみたいッス。」
不良のボスの後ろにいる取り巻きみたいなもんか。 ってことは部下達が先に帰ってることを考えた方がいいな。 といっても見ていた限りだと7、8人程度。 容易くはないが制圧出来ない訳じゃない。
「ファルケン!」
そう考えていると後ろから皆が現れた。
「それっぽい扉があそこにある、一気に突入を・・・」
「待つで御座る。」
扉を開けようとした時、零斗さんから声が掛けられる。
「先日話したと思うで御座るが、この先にいるのは盗賊。 今回は既に行動をしているで御座る。 そして恐らくこちらが追い掛けてきてるのも想定しているで御座ろう。 そして、武器も持っている。」
その言葉が意味するもの、それは・・・
「死闘になるって事ですね。 制圧だけじゃなくて。」
「アリフレア殿は最悪後方待機していれば良いで御座る。 ・・・出来たで御座るか? 相手を殺す覚悟と、自分が殺される覚悟を。」
どこかでそんなニュアンスを聞いたことがあるな。 超絶有名な漫画で。 だが言っていることに一言一句代わりはない。 人の死に自分が含有している。 それはこれからどんなことになろうとも背負っていかなければならない罪。 例えそれが罪人であろうとも。 俺は深呼吸をする。
「・・・行こう。 あの子がなにもされていないうちに。」
そう言って俺は扉を開けて、階段を下った。
あまり長くない階段と、造りが滅茶苦茶甘い壁を伝い、ゆっくりと下っていく。 そしてもうひとつの扉の前に着く。 聞き耳を立てると、なにやら言い争いをしているような怒声が聞こえてきた。 まあ無理矢理連れてこられたんだ。 少女が怒るのも無理はない。 油断しているかもしれないし、待ち伏せしているかもしれない。 この扉を開けた時、俺達の命運が決まる。 後ろの皆に見て、俺と零斗さんで扉を蹴破った。
「っ! ゲホッ! ゴホッ! なんだぁ!? 俺達の夫婦円満を邪魔しようって奴は!」
土煙が晴れると、少女は男に無理矢理抱き締められて、後数センチのところで唇が重なるところだった。 こんなことなら早く入った方が良かったね。 ごめんよ。
見ると男と数名の取り巻きがいる程度。 もっと言えばかなり薄暗く、壁に掛けられている蝋燭位しか光がない。 良くこんなところで挙式をしようと思ったな。 何もかもが馬鹿なあの筋肉ダルマには呆れてしまう。
「て、てめぇは! 奪いに来たのか!? こいつを!」
「奪ったのはどっちだよ。 あとその子はお前のものじゃないから。」
「関係ねぇ! やっちまえてめぇら!」
そう言って一緒に見ていた男達が小刀を構えて立ち上がる。 相手は6人。 この狭い場所だと槍は不利か?
「師匠。 なんだったら俺っちが全部蹴散らすッスか?」
「大きな攻撃はするなよ? 被害が拡大する。」
「セイジ。 貴殿は槍だ。 間合いを詰められないよう注意をするんだ。」
「ボクはどうする?」
「無茶をするようなことはないで御座る。 ただあまり下手に動かぬ方が我々の邪魔にはなるまいて。」
やるべきことは決まった。 さ、制圧の時間だ。
「敵の呆気なさには脱帽もので御座るよ。」
結果的にはあっさりと制圧出来てしまった。 戦力の統一も出来ていなければ、戦術なんてものも一切無かった。 よくこんなんで荒くれ者が出来るなと思った程だ。 と言うわけで、本来こんな風に使う予定の無かった紐で荒くれ者どもをす巻きにしている。
「くそっ! どうしてこんなに強いんだ!」
「俺っち達が強いんじゃなくって、あんた達が弱すぎるんスよ。 今までどうやって生きてきてたんスか。」
確かにこんだけ弱いのならば、どうやって生活をしていたのか本当に気になる。 もしかして荒くれ者になって日が浅いのか? それなら人数的にも納得は出来るが。
「さて、拙者としてはここでやらせておきたい事があるので御座るがなぁ。」
「やらせておきたいこと?」
「昨夜言ったであろう? 人を殺めたことがあるのかと。 もしやっていないのならば・・・こやつらでその感覚を覚えさせようと思ったのだがなぁ・・・」
そう零斗さんが言うと、荒くれ者達は青ざめる。 自分達は抵抗することが出来ずに、ただただ殺されるだけだと悟ったのだろう。
「・・・殺ります?」
「・・・いや、このような小物の命を取っても本当の命の重みは分からないだろう。」
零斗さんは溜め息をつく。 まあ俺もそれは思っていた。 いくら自分達のためとはいえ、こんな見た目だけの奴じゃ正直どうなんだろうと考えてしまっていた。
「・・・へっ! ここに来て怖じ気づいたか? 随分なお人好しだな! その下にあるものは飾り・・・がっ・・・あぁ・・・!」
す巻きにされてるのによくそんな強気でいられるな。 そんなわけでちょっと槍の先端で腹の辺りを刺してやる。
「こっちは命の駆け引きの話ししてんだよ。 茶々入れんじゃねぇよ。 つーか自分の立場弁えてから言えや。 この状況下で強気に言えるって、お前本当に馬鹿だな。 頭腐ってんじゃねぇの?」
「ご、ご主人、様?」
俺は罵倒にも等しい言葉を吐きながら、事態を飲み込めていない馬鹿に刺した槍を引っこ抜く。 そして1つ決意を決めた。
「零斗さん。 殺っちゃいましょう。 果実は熟せば上手くなるけど、ここまで熟れてたらむしろ危ない。 余計なことになる前に摘んじゃいましょうよ。」
「・・・汝、余程前世で我慢していたと見受けられるが・・・?」
「さぁ、どうでしょうかね。」
確かに俺は前世で虐められてたとか、理不尽な損失を受けていた訳じゃない。 だけどそれをさも自分が上に立っているかの様に立ち振る舞っているのを見るのが嫌いなだけだ。 今だってそうだ。 ここでコイツらを解放すれば、同じことの繰り返しをすることだろう。
「・・・ゼルダ、アリフレア。 お前たちはその子を連れて村に帰るんだ。」
「ご、ご主人様は、どうするの、ですか?」
「・・・まあ、帰らない訳じゃない。 ちょっと遅れるだけさ。」
「なんでボクもなのか、理由を知りたいかな?」
「女子供に見せられるか。 これから起こることを。」
「なるほどね。 でもボクは残るよ。 セージさんは心優しい人だ。 それはボクもアリフレアちゃんも分かってる。 だけど綺麗なところを見せたって、いつかは剥がれ落ちるもの。 だったら最初から知っていた方が、後々楽だと思うけど?」
「私も残る。」
そう言ったのは連れ去られた少女だった。 なぜこの子まで残ることを言っているのか。
「あんたには申し訳ないが、後始末は俺達がしておく。 それにあんたを連れ去ったとはいえ、人は人だ。 そんなのを見たら・・・」
「だからこそ見ておきたいのです。 彼らの、最期を。」
その瞳は冷たかった。 どうやら思うところはなにもないようだ。 ただただ自分を連れ去った彼らの末路を知っておきたいだけのようだ。
「・・・そうかい。 あんたには手を出させないさ。 汚れ仕事は俺達の役目。 そしてこれは、俺達の、覚悟を決める儀式だ。」
そう言って俺は再度荒くれ者達を見る。 荒くれ者達は「ヒィッ!」と軽く悲鳴をあげた。 奴らは俺のことをどう見えているだろうか? 悪魔か死神か。 そんなことはもう関係無いがな。
「どうします零斗さん。 丁度6人いるわけですが、一斉に殺った方が楽ですかね?」
「どうだろうな。 まぁ、仲間の死を目の当たりにすること無く、最期を迎えさせるのも、優しさであろう。 アリフレアも、来てくれるか?」
「は、はい。」
そう言って俺達は男達の前に立つ。 それぞれの武器を持って。 アリフレアに関しては、ぶっちゃけ殺らせる必要は無いと感じたが、旅をしていく上だと零斗さんに悟られた。 だから隣にいるアリフレアに言う。
「アリフレア。 無理して俺達に付き合うことは無いんだからな。 こういった血生臭い事をやらせるために、連れてきたんじゃないんだ。」
「ふ、ふざけているのか!? て、てめぇら! なにをするのか分かってるのか!? 人を殺そうとするなんて・・・どうかしてるぞ!?」
そう目の前の荒くれ者が吠える。 その男に俺は、自分でも引くくらいの威圧感を出す。 見下そうとしていたこの男に対して、何の同情もない。
「自分が弱い立場になれば避けられるとでも思っていたのか? お前は俺達が話してた最期の情けを自分で捨てたんだ。 それともなにか? 自分の犯した罪程度じゃ、死刑にならないとでも思っているのか? 人殺しが悪? この世は強者が弱者を圧し殺しているのは罪にならないとでも言いたいのか? 俺はそういった、人を見下すことでしか自分の価値を見出だせない奴が嫌いなんだよ。 上に立つための土台があることをさも当たり前のように考える奴がな。」
そう言って俺は槍を構える。 他の皆もそれぞれの武器を構える。 バールを、爪を、剣を、翼を、太刀を、敵に向かって構えた。
「この世は強い方に全て行くんだろ? その言葉を深く刻み込んで死んでいきな。」
「ちくしょう! なんで俺がこんな目に・・・! 俺はただ、その子を貰いたいだけだったのに! 死なせることなんて無いだろ!? お前には人の心が無いのか!?」
「人の気持ちを考えなかったのはお前の方だ。 これが人道的でないと言うのなら。」
俺は一呼吸おいて
「この世界で生き抜く上で俺は、人としての考えを捨てる。」
そう言ったあと俺は、荒くれ者の左胸におもいっきり槍を刺し、そして・・・荒くれ者は絶命した。 槍を抜く。 先程まで生きていた者の血がこびりついている。 目の前の男は項垂れて、もう動くことはないだろう。
「・・・」
「・・・皆、それ相応に胆力はあるとお受け取りいたした。」
零斗さんが声を発すると、皆それぞれの荒くれ者達の亡骸を前に佇んでいた。
ベルジアは首の無い死体を見て、目を瞑っている。 安らかに眠るように。
ゼルダの手も汚れてはいるが、鱗で血が良く見えなくなっている。
ファルケンの飛ばした羽根は、頭や胸に刺さってきて赤く染まっていた。
零斗さんの刀にも血がついている。 それを一振で払いのけた。
そして・・・アリフレアはその顔の半分以上を血に染めていた。
「どうで御座るか? 自らの手で人を殺めるという感覚は・・・」
「・・・今は答えられないけど・・・とりあえず村に戻ろう。 皆が心配しているだろうし。」
そう言って俺はこのアジトの階段を上った。 ただ重い気持ちを持って。
今回の話は最悪無しにするのが得策だと思ったのですが、あくまでもこの世界はカードでの制約の方が絶対的というだけで、普通にこういった人のやりとりもあるということを書いておきたかったので書きました。
この話でブックマークが消えても後悔はしていません。
ちょっとした執筆話として、これを書く前に観た、多分ラノベが発祥のアニメ作品を観て、気持ちがちょっと闇落ちした状態で書いたのですが、なぜかスラスラと書けていました。
闇って怖い




