この村は
私は、やはり、助けに
行かなければならない。
村には、子供たちが、
取り残されたままになっている。
もう時間がない。
気にいった、鍋やコップや、
生活道具を揃えているうちは
良かったが、
時間が過ぎてしまっていた。
もっと、注意するべきだった。
いったい、何故こんなことに
なってしまったのか。
それとも、これは夢の世界なのか。
とにかく、私は、村に入る
準備を整えた。
戻れないかもしれない。
だが、行かなければ。
それは、私以外にはいない。
よし……
飛行機を乗り継ぎ、車でひた走り、
山の中を歩き続けること、
まる一日が過ぎ、
漸く、子供たちがいる村が見えてきた。
鬱蒼とした森の中の、
少し小高い丘の上に、村はあった。
時々、獣の叫び声が聞こえる。
足が震え、体中に鳥肌が立った。
岩陰に隠れながら、
村の入り口へと近づいた。
入り口には、門番が槍を持って、
立っていた。
時々、居眠りをしている。
双眼鏡で、村の中を覗き込むと、
子供たちが、縄跳び、鬼ごっこ、
隠れん坊などをして遊んでいた。
やはり、みんな楽しそうだ。
それはそうか。楽しむために、
この村はあるんだ。
私は、意を決して、塀を乗り越え、
村の中に入ることにした。
さあ、行くぞ。
私しかいない。私しかいない。
私しかいないんだ。チェック、イーン!
しゅるるるるるう。
「やあ、お兄ちゃんも来たの?」
「久しぶり、元気そうね」
「ねえ、どう、一緒に縄跳びしない?」
子供たちが、次々に話しかけてくる。
相変わらず、元気で、
村を楽しんでいるようだ。
私は、子供たちに向かって、叫んだ。
「なあ、みんな、聞いてくれ。
ぼくは、みんなを連れ戻しに来たんだ。
みんな、一緒に帰ろう。
早くしないと、この村はもうすぐ、
消えてしまうんだ。
みんな、ごめん、ぼくが、
みんな取り込んだんだ。
ゲームなんだ。
みんな、この村は、
ゲームの中の村なんだ。
でも、みんなは違う。みんなは、
本物の人間だ。
なのに、バッテリーが切れたら、
保存されずに、消えちゃうかも
しれないんだ」
翌日、新体験型のゲーム、
企業から盗まれるという見出しが、
新聞に出ていた。
記事によると、
人間を取り込む機能には問題はないが、
設定者が村に入り、
チェックアウトとと言えば、
元に戻れるという、スリル機能に
不具合があるため、
発売を延期することが、
決まっていたらしい。